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田舎暮らしのススメ 後編

東京から茨城に移住して干し芋づくりを始めた農家 仁連宿インタビュー(2)

東京から茨城の古民家に移住し、干し芋農家として3年目を迎える鈴木夫妻。

旧日光東海道の宿場として栄えた360年もの歴史を持つ古民家「仁連宿(にれしゅく)」を舞台に農業を始め、将来に渡って天然の芋の香り高い干し芋を作り続ける為、持続可能な農業に取り組んでいます。

前編では古民家での暮らしについて聞きましたが、後編では干し芋の作り方について深堀りしていきます。

鈴木達郎(左)  東京都練馬区出身。 土づくりに強く惹かれ、現在有機農法をベースとしたサツマイモ栽培と干し芋作りに没頭中。テクノ、ノイズからスウィートソウル、ダブレゲエまで幅広い音楽を好む。 鈴木解(右)  沖縄県豊見城市出身。 犬を飼いたいがために移住した茨城で干し芋の存在を知り、その美味しさと加工工程のシンプルさ、陽の光を浴びて際立つ芋の美しさに魅了される。農産物加工と梱包が趣味。

干し芋農家という選択

-農業をやろうと決めた理由は?

達郎さん:農業をやろうと思ったのはここに越してきてすぐでした。茨城って土地があるので、みんな畑なり、ちょっと大きめの家庭菜園という感じで農業をやってるんですよね。周りの人のそういう暮らしを見ていて、せっかく土地があることだし自分たちも畑をやってみようっていうのはごく自然に起きた気持ちだったと思います。それで引っ越してきてすぐ畑を始めたんですけど、始めたらもう面白くなっちゃって。

僕はその頃まだ会社員で、普通に東京の会社に行ったり、在宅みたいな働き方もしてたんですけど、その傍らで畑は常にやっているっていうような暮らしになっていって、段々もうこれは本業にしたいなっていうような気持ちが強くなりました。

「折角この家で暮らしているんだから、ここでできる仕事をやりたいね」っていうのは、もう越してきた当初から二人でずっと話していたことで、サラリーマンをやりつつ畑をやってみたりとか、あとは家に人を呼んで色々使ってみてもらったりとか、今だと貸しスタジオみたいなこともやってますけど、そういう副業を色々試した中で、農業が「これは仕事としてやっていけるんじゃないか」っていう確信をだんだん強めていったっていうような流れでした。

ですので、農業に関しては明確にきっかけがあるんじゃなく、仁連宿に越してきてから積み上げてきた経験が、ようやく仕事にできそうだなみたいな感じですかね。機が熟してきたみたいな。

-干し芋に絞った理由は?

達郎さん:僕は昔からサツマイモが好きだったので、最初からサツマイモをやりたいっていう気持ちはありました。不思議なんですけど。何か性質に合うだろうなという直感があって、実際その通りでした。ですがそれ以外にも一通り家庭菜園でやるような野菜は一通り何でも育ててみましたね。幸い、まわりに農家歴何十年みたいなおばあちゃんとか、あとはすぐ近所に本業で農家をしている僕の農業の師匠的な存在の人もいて、その人がすごく色々教えてくれました。干し芋も近所のおっちゃんから教わったのが最初です。

おじさんが昔ながらの「せいろで蒸して天日で干す」っていう干し芋の作り方をしてたので、それを見て僕が好きでずっと続けてきたサツマイモ栽培と、合わせて「あ、これはちょっと面白いな」っていうのが干し芋をやるきっかけです。

干し芋を作るようになってからは、もうそればっかり。新規就農なのでいきなり白菜とか規格の厳しい野菜を作ってもなかなか難しいというのもあったんですけど、干し芋は好きな人も多いですし、しっかりマーケティングをすれば私たち二人で生活していくのに十分な稼ぎにはなる感じだったので、結果的にも干し芋で良かったと思います。

-仁連宿のサツマイモの特徴はどうですか?

達郎さん:うちの特徴はまず熟成期間が長いっていうことがあります。サツマイモって掘った直後はあまり甘くないんですよ。一般的にスーパーに出てる芋も実は大体1か月ぐらい貯蔵してあって、特にウチで使っている紅はるかっていう最近出てきた高糖度の品種だと、1カ月ぐらい経って初めて焼き芋にしても美味しいし、それこそ干し芋にするとすごく糖度が引き出た美味しい状態になります。うちは冬の間1カ月半ぐらい寝かせて、長いのだと3カ月近く寝かせて加工するので熟成期間は比較的長めにとっています。

あとは原材料のサツマイモでいうと、長い期間よいサツマイモがとれるよう土づくりにこだわっています。一般的に使われる化成肥料という化学的に精製された肥料だけだとすぐ土のバランスが崩れていくので、魚粉だったり海藻だったり色んな天然資材も入れることで不足しがちなミネラルを補っています。

ですがそんなに有機農法にこだわっているわけではなくて、あくまで長い目で見ておいしい芋を作るためにそういう農法辿り着いたっていう所がこだわりですね。完全に無農薬ではありませんが、除草剤は使わないで育てています。

-その分手間がかかるのでは?

達郎さん:やっぱり手間はかかりますね。一般的には植え付けした後に畝間なんかにパーって除草剤を撒くんですけど、僕はやっぱり土のことをすごく長い目で考えているので、土に極力ダメージを与えたくないっていうのがあって、除草剤を使わないで済むのであれば、時間がかかったとしても自分の手でやりたいし、そこは曲げたくないです。

いくら楽になるとしても、自分が楽しめなくなってしまうことはしたくなくて、折角本当に楽しいと思ってやれている仕事なので、趣味なのか仕事なのか分からないような状態でやっていきたいなっていうのが自分の理想です。なので、生理的に合わないようなことは絶対したくないっていうのはありますね。

長い目というのは極端な話、自分が死んで畑の面倒を見られなくなる所まで含めてずっと先です。もし、その後に畑を引き継いでくれる人がいれば、その人が使いやすい状態に確実になっているはずなので、それくらい長いスパンで見ているという感じです。

-天日干しで干し芋を作るのも楽しんでやった結果ですか?

達郎さん:はい。今だと乾燥機で干し芋を作る業者さんが多くて、確かに乾燥機だとすごく発色が良く仕上がったり、あとは乾燥にかかる時間が圧倒的に短いので、製法としてはすごく早いし均一で無駄のないものができます。

天日干しは平干しで1週間前後、丸干しで3週間近くかかりますが、天日干しで作った干し芋は昼夜の寒暖差があって、昼間に熱が加わることで膨らんで夜の間にぎゅっと縮んでっていうのを繰り返すので、乾燥機を使ったものに比べると、まず香りが立つっていうのと、味の奥行きというか噛んだ時の味の立体感が出てくるっていうのは、色々な干し芋を食べての自分たちの結論です。

やっぱり甘さは大事なんですけど、甘みだけじゃない風味もあるし、噛んでいくとすごく味の複雑さが出てくような、滋養を感じる干し芋を目指したいねっていうのは二人で話していて、その辺のことをお客さんに言われるとけっこう嬉しいです。

-甘い干し芋でなく美味しい干し芋を目指すということでしょうか。

達郎さん:そうですね。砂糖も塩も加えないで原材料だけで作るドライフードってそんなにないと思うんですよ。その分ごまかしが効かなくてすごく奥深い。畑によってできる芋の味はどうしても変わってきちゃうし、でも全部同じ味で一定にっていうのは…もちろん業者とか会社でやっている干し芋だったら、いつ食べても同じ味っていうのはすごく大事だと思うんですけど、自分たちはせっかく農法・製法ともこだわっているので、味に変化があってもそれを楽しんでもらいたいなって。

-味の変化は、お二人も実感しているんでしょうか?

解さん:はい、シーズン中は味見のために食べ通しです。ただ、不思議なんですけどシーズン中の味見はあまり「味わう」っていうよりは「大丈夫かな」っていう確認が大きいので、シーズンが終わった後に自分たちの干し芋を食べるとやっと主観的に味わえて「おいしいな」って。解放感も相まってすごくおいしいです(笑)。

達郎さん:干し芋って基本的には保存食品として昔からあるものなので、脱酸素剤を使って規格をちゃんと整えてあげればかなり保つんですよ。

でもやっぱり香りとか「食味」としか言いようがないんですけど、食べたときの鮮烈な感じっていうのは出来たての方が明らかに美味しくて、日が経つとどんどん香りが抜けていくものなのでやっぱり出来たての干し芋を味わってほしい。だから出来たてをお届けしたい。

僕たちはお客さんと直接やりとりをしているので、できるだけ発送の日数を考慮してベストなタイミングで届くように考えていますし、道の駅とかに出荷するときも「このタイミングで食べてほしい」っていうようなのは意識して出荷します。

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-お客さんの声がダイレクトに届くのは嬉しいですね。

達郎さん:はい。SNSで宣伝してるので、Instagramのストーリー等でお客さんがタグ付けをしてくれてリアルタイムに感想をくれたりっていうのがシーズン中は毎日来るので、すごくモチベーションに繋がります。感想を頂けるとやっぱり嬉しいですね。

友達が買ってくれる事も多いんですけど、そういう時美味しかったって言ってもらうと、文字通り一年かけて作ったものなので、それだけで「ああ、よかったな」って思います。昔は全然そんなことを思ってなくて、「お客様のために」「お客様の美味いのために」みたいなのを皆さん言ってるけど、なーに言ってるんだいとか思ってたんですけど(笑)

今は本当に分かるというか、そこはお金じゃない所だなって思います。

-工程としては蒸して剥いて干して?

達郎さん:はい。その中で一番重要なのは蒸す部分です。うまく蒸し上がらなかったらその後どうやってもダメなので。干し芋業界でシロタって言うんですけど、芯が白く固まっちゃって綺麗に透明にならない蒸し上がり方をしちゃうものがあって、それは原料の芋の形によるんです。

芋の形がちゃんと紡錘形になっているものは上手く蒸し上がるんですけど、例えばすごく太い芋はシロタが出やすくて、中心部に火が入らないんですよね。重量が同じでも細長いのと太いので全然違う蒸され方になるので、なるべくシロタを出さないように選別する事が大事です。

蒸し上がり段階でダメなものは干してもやっぱりダメなので、そういうのはB級品として自分達で食べてます。いい干し芋になるかどうかは蒸し上がった時にわかります。その時の香りと色の出かたでほぼほぼ仕上がりは想像できるので、工程の中で蒸しが5~6割くらい大事かもしれないですね。

でも、その後の剥いてスライスする過程が一番いわゆる「手の技術」がいるというか、かなり難しいんですよ。

蒸し上がった芋はもちろん熱いですし、ちょっと強く持つと潰れちゃうので、きれいに皮を剥くのがまた難しい。薄すぎてもダメだし、厚すぎても身を削ってしまうので、絶妙なラインが求められます。それはだいたい妻がリーダーになってやってくれてるんですけど。

-あと畑によって芋の出来が違ったり?

達郎さん:はい、全然味の出方が違います。ただ、それはもう蒸しでどうこうなるものじゃなくて、いい育ち方していると紡錘形で使いやすい形で揃うんですが、畑によっては不揃いだったり歪なものが混じってきちゃうので、蒸す前に仕分けるの作業が必要です。僕はどっちかというと栽培の技術と土作りの方を頑張っているんですが、そこで味の9割がた決まっちゃうかなって感じます。加工の方は、いかにそれを引き出してあげるかって感じですね。

雑草に負けちゃうと生育が悪くなっちゃうんで、農業の基本中の基本は草刈りです。自然農法の人なんかはあえて雑草と競わせて野菜の味を引き出すみたいな持論の人もいますが、サツマイモの場合ツルがすごく茂るので、その前までにいかに畝間の草を抑えるかが大事で、ツルがぶわっと広がってしまえば土に光が当たらなくなるので雑草も伸びないんですよ。だから植え付け後は毎日畑を回って草を取って、それでも抑えきれないぐらい雑草って強いです。

-最も好きな作業は何ですか?

達郎さん:僕はもう農作業は全部好きです。体力的には全部キツいしハードなんですけど、畑にいる時間全てが根本的に好きです。なんと言うか、植え付けから草取りから、全部が自分の「気」を畑に通わしていくような作業だと思っています。

農業のスタンスは人によって色々なので、極力手をかけないっていうこだわりの方もいたり、その人なりの整合性があってやっているんだと思うんですけど、僕の場合は自分の身体と気持ちみたいなものを畑に入れていく感じでやっていて、畑にいる時間が長いほうが自分も落ち着くし、今のところ手間をかけた畑の方が単純にいいものができている実感があるので、全部の農作業が好きですね。

何万本と植えてますけど、僕は結構一本一本見ているので、大体この辺に出来のいい芋が密集しているなとか、じゃあこの辺の土はこういう状態なんだろうなとかを考えていく。もっと大規模な畑になるとそこまでやってられなくなるかもですが、今の規模だったら何とかできるので、僕はやっぱりそういう時間を増やしたいなって思っています。

-掘る前から生育が分かるんですか?

達郎さん:掘る前から株元の状態でどれくらいの量出来ているかがある程度わかります。ただ、実は大きく外れることもあります。

サツマイモって家庭菜園を始めるときに上がってくる候補の1つで、誰がやってもある程度できる野菜ではあるんですが、逆に一定以上のレベルをキープするのがものすごく難しい野菜でもあるんです。だからベテランのサツマイモ農家さんも、葉っぱの感じを見ての予想と結果が違う事もあって、奥の深さはありますね。

今年新しく始めた圃場があるんですが、葉っぱの艶もいいし育ち方しているなと思って、ちょっと早い時期に試し堀りで1回掘ってみるんですけれども、全然できてなくて、どうしたものかって悩んだ事もありました。でもそれが面白みですよね。知識と技術を年々蓄えていくから正確になっていくとは思いますが、予想外があったらあったで面白いと思えないとやっていけない気がします。

目標はもう叶えている

-今一番やりたいことは何ですか?

達郎さん:僕の場合は今後よりも毎日をどういうメンタリティで過ごせるかみたいなことをすごく意識しています。いま雑念なく毎日畑で作業できてることがもうゴールみたいな感じで、そういう気持ちで日々やってます。

だって、会社員の人が老後を何したいのって聞かれたときに、「郊外で家庭菜園とか畑をやりたい」みたいな人って結構多いと思うんですよ。それ、今すぐやっちゃえばいいじゃんって思うし、日曜の夕方に放送しているような田舎暮らし系の番組で「第二の人生」としてやっていることを今全部やってるじゃんって(笑)

それがお金になって何とか暮らしていけさえすれば、幸い、一緒にやってくれるパートナーもいるので淡々と続けていくことが目標といえば目標だし、もちろん農業の中で来年はこういう感じでっていう目標を設定していくことありますけど、根っこのところは「こういう暮らしがしたい」って事なので、それでいいんじゃないかなみたいな感じですね。

-都会でこういう暮らしに憧れている人達に向けて伝えたい事はありますか?

達郎さん:僕の場合は、たまたま親族が継いできた大きな家があったという条件の上なので参考にならないかもですが、けっこう周りの人は良くしてくれます。

ネットを見てるとよく「田舎は人間関係に気をつけないと村八分にされるから、共同体に属さないとダメだよ」みたいなネガティブな情報がたくさん出てきますよね。確かに少し窮屈な要素もないことはないし、面倒だなって思うこともありますけど、それよりも、家だったり特定の場所だったりを自分自身が好きかどうかが重要だと思いますね。

その気持ちさえあればそこで暮らす理由になりますし、逆にそれがないまま何となく漠然と田舎で暮らしたいってだけだと辛いかもしれないって思います。

家でもいいし、例えば「この川のここの景色が好き」とかでもいいので、ここで暮らしたいなと思える強烈に好きなものさえあれば、あとの要素って実は重要じゃないです。なにか1つ「これが好き!」って思えるものがあれば、他はその暮らしを達成するために付いてまわるちょっと面倒なことぐらいで済むと思います。

解さん:達郎さんはたまたま立派な生家があったから恵まれている方だとは思うんですが、もし田舎暮らしをしたいって思う人がいたら、まずは家を探してみるのもありかなと思います。

日本中に空き家があって相続や管理をどうしようっていう状況が実は本当にたくさんあって、意外と安く買えたりもするので。修繕なんかにはたくさんのお金がかかりますが…そこからその地域の人としっかり関係を作るには5年ぐらいは必要だとは思うんですけど、1人友達ができると広がるものがあったなって今は思います。

-家ありきで始められる?

達郎さん:家から始まるというよりは、本当に気に入ったものがあれば何でもいいと思います。

後はあくまで自分の場合はですけど、みんなが不安視してるより周りの人は優しくて、いろいろ教えてくれるし、親切にしてもらっているので、何でもかんでもネガティブには全然ならないです。農業とか林業とかやる上ではベテランのおじさんたちってもう引退して時間がある方が多いので、そういう人を頼るとわりとトントンと進んでいっちゃうこともあって、僕らもまだ農家としては何も持ってないに等しいし、技術も全然足りないし、それ以前に必須の農機もまだ充分じゃないですけど周りの人にお願いしてなんとかなってるんで、そんな感じでもやっていけますよっていうのは伝えたいです。

もし好きな場所があるなら思い切って週末から始めてみてもいいと思いますし、例えばこの記事を見て知らない人が仁連宿に来てみたいっていうのは面白いなと思います。何か作業を手伝ってもらうかもしれないですけど(笑)

 

2020.10.31

取材協力:仁連宿 https://niresyuku.com/

  • 新井紙材株式会社
  • メディア事業部
  • 映像ディレクター・エディター

Yuji Arai

AIMS VIDEO(新井紙材株式会社 メディア事業部)
2015年から映像制作に従事。福島県のテレビ局で2年、東京の映像制作会社に3年勤務ののち2020年よりAIMS VIDEOに所属。

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