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インスタ映えする?知られざるドラム缶再生の世界

再生缶リユースを手掛ける株式会社中野工業所 インタビュー

誰もが知ってる、けれど日常生活では馴染みのない「ドラム缶」。その容量は200Lと人間一人がすっぽり入るほどです。この巨大な缶はどう使われてどう再生されるのか。今回は、愛知県に本社を構え70年以上前からドラム缶のリユースを手掛ける「株式会社 中野工業所」からお話を伺います。中野工業所さんは昨2021年に開設した公式Instagramが若者を中心に話題になり、フォロワーが急増中です。

(Nakano Industries 公式Instagramよりいくつか抜粋)

岡山・横浜など全国を拠点にドラム缶再生事業を営む「株式会社 中野工業所」。全国500社を超える仕入れ先から使用済みのドラム缶を回収し、洗浄・再塗装を行って再度市場へと展開しています。

中野工業所 代表取締役を務める中野雅人社長、名古屋事業所 所長の岸本所長、総務部部長 榊原部長の三名への取材を通して、独自の資源循環サイクルについてお話を伺いました。インタビューするのは、古紙リサイクルを行う新井紙材株式会社の新井遼一です。

左から中野社長、岸本所長、榊原部長

知られざるドラム缶の世界

-はじめに、事業内容の説明をお願いします。

弊社は昭和の昔から半世紀以上、ドラム缶のリユース・リサイクルをしています。具体的には何度か使われたドラム缶を有価で買い取って工場に集め、よく洗浄したうえで塗装を剥がして新たに塗装して最後は圧力チェックを行い、細かい穴や隙間がないかを入念に確認した上でまた出荷をするという流れの事業をしています。この過程で弾かれた物はスクラップとして処理され、新たな鉄製品の原料になります。


ドラム缶について馴染みのない方も多いと思うので用途から説明しますと、ここの工場で洗浄しているドラム缶は「クローズドラム」という天板が取り外せず口栓があるタイプで、基本的にオイルとか溶剤・化学品関係に使われています。

他にも「オープンドラム」という蓋が取れるタイプがあって、こちらは塗料など主に粘度が高いものを入れるのに使われています。両者は洗浄方法が全く違うので、別々の工場で再生しています。

-ドラム缶はどんな業者さんから仕入れているんですか?

1つは工場です。原料を使い終わって空いたドラム缶を回収します。ある程度大きな工場になると一日に何本も使っていて、その分空いた缶が出ます。それから幅広いのはオイル関係で、ガソリンスタンドはじめ石油販売店さんです。あと細かいところで言えば修理工場ですね。トラックやバスの修理工場とか…あと金属加工工場では切削作業にオイルを使いますから、そういった所から買い集めてきています。なので大手から町の修理工場まで仕入れは様々ですね。

-買い入れの価格はドラム缶の状態や量によって変わるんですか?

はい。状態と量、それから重要なのは場所です。ドラム缶はかさがあって運ぶのに輸送費がかかるので遠方なら安く買いたいし、近場で安定的に空き缶が出る所はそれなりの金額で買わせて頂くという形です。

新缶と再生缶の今昔

-ドラム缶の流通量は増えてますか?減っていますか?

減っています。ドラム缶は新缶と再生缶の両方が流通していて、今の流通量は新缶が年間1300万本で再生缶が1000万本ぐらい。計算すると新缶が56%、再生缶が44%です。

新缶はよく輸出に出されるので、海外に出て行っちゃいます。その缶は戻ってこないので国内の数が減りますよね。なので輸出が増える状況だと国内流通が減ります。すると今度は再生する原資が減るので、リーマンショックの後は再生缶が200万本ぐらい減りました。

流通量のピークははるか前で、それこそ高度成長の頃は年間2400万本くらいだったと記憶しています。当時はタンクローリー等の輸送技術がまだ未熟なのでドラム缶が今よりも大切で、何回もリユース・リサイクルして使われていたんですよ。その頃は再生缶の流通量が現在の2倍近くあって、逆に新缶は500万本という状態でしたね。

-新缶よりも再生缶の方が値段が安いんですか?

はい。値段が安いのと、特にオイル界隈は歴史上ずっと再生缶を使ってきた慣例も相まって再生缶を重用しています。ただし、先述のように新缶がないと再生缶も作れず循環しないので、新缶も適宜入れながら再生缶を使うという形ですね。

一方で塗料の世界では、うちの場合はトヨタで有名な豊田市の近くなので塗料屋さんも沢山あって、塗料屋さんとトヨタさんと弊社とでクローズドループが出来上がっています。

どういう事かと言うと、弊社が塗料屋さんにドラム缶を納入して、塗料屋さんが中身を充填してトヨタさんに納入して、その帰りの便で使用済みの缶を回収してそのままウチの工場に持ってくるという閉じたループになっているので回収率が高くて回転数も多い。こういうシステムが幸いにも出来上がっているので、リユース・リサイクルがすごく回りやすいですね。

-ユーザーさんが御社からリユース缶を買って充填する?

石油も塗料も、中身の充填はメーカーさんが行います。ただし商売の仕組みとして違うのが、オイル関係は売り切り方式なのに対して、塗料メーカーさんは自分の資産としてドラム缶を持っているんです。

塗料屋さんがトヨタさんから回収した使用済み缶を弊社に持ってきて、洗浄された缶を持っていく。我々は洗浄をするだけなのでクリーニング屋と一緒ですね。一方のオイル系は元売りさんから全国に、場合によっては海外にもばらまかれて行くので缶の管理は不可能で、売り切り形式になっているんです。

リユースはローカルな事業

-再生ドラム缶が海外に流れて行ってしまうようなこともあるんでしょうか?

中身入りでという意味ならあるかもしれません。再生缶そのもので言えば輸送コストがかかって採算が合わないので、ドラム缶は現地生産しないとダメですね。リサイクル事業は総じてローカルな業態だと思いますが、弊社で作られた再生缶も国内で流通する事がほとんどです。

-国内の競合はどのくらいいらっしゃるんですか?

競合というか同業者さんは全国で60社くらいです。多くはないですよね。それに輸送費がかかるのでドラム缶を回収できるキャパシティがある意味決まっていて、お客さんを取り合う競合という認識はないですね。例えどこかとぶつかっても知った顔しかいないので(笑)

-新規参入はないんですか?

新規はもうずっとないです。逆にどんどん廃業が進んでいっているので、業務提携してどこかに集約するとかそういう方向に進むんだろうと思います。集約型になってこないと採算性が合わなくなるので、数は増えていかないと思います。ちょっと暗い話になっちゃいましたけど(笑)

再生缶を見る目は良くなってきている

-ドラム缶の用途からして多少汚れていても問題なさそうですがお客さんの目は厳しいんでしょうか?

意外と厳しいですよ。再生缶だけでなく新缶でさえちょっとキズや凹みがあるだけで返品になる事もあって本当に厳しいんです。これには理由があって、例えば大手さんに卸すのに下請け会社を経由する場合ですと、下請け会社がISO9000番台(品質マネジメント規格)を取得していたりして元請けさんから苦情が来ると自社の責任になるのでどうしても厳しく見てしまう。なので弊社は元請けの購買部や品質保証部の担当者さんを交えて、これぐらいならいいんじゃないかみたいな話し合いをすることもあります。

ISO9000番の基準ですと結構ぎちぎちで、品質に関係ない傷や汚れまで欠品とか返品になって単純にもったいないんですよね。労力もエネルギーもすごく使いますから。ただ、少し前にトヨタさんが性能に影響のない多少の傷あり部品も使うようにするみたいな良いニュースがあって、そういう指導が今後定着してくれればと思います。

-そんなに厳しくしているのに再生缶を使いたがるんですね。

お客さんはなるべくキレイな缶がいいけど、やっぱり新缶より安い再生缶を使いたい。ですが再生缶自体の原資が減ってきているので、どっちかと言うと売り手市場ではあると思います。我々もいま要望されている本数を作れない事もあるので「数を揃えるためなら…」という風にお客さんの考え方が変わってきたのは感じます。

-再生缶は売り手市場でも、原料になる新缶が足りていないんですね。新缶と再生缶をどの配分で回すかは御社が調節しているんでしょうか。

難しいのはそこなんですよね。平均4回再生できるとして回収率とか歩留まり率でシミュレーションしていくと大体35~36%ぐらい新缶を入れないと循環していかない計算になって、実態もほぼ同じです。この比率に調整するために再生缶を新缶とセット販売したり、お客さんによっては再生缶の数量を制限したりしている事もあります。

ただ、弊社が割合を決めているかと言えばそうでなく、市場原理で自然にこの割合になっている面もあると思います。というのも、お客さんとしては安い再生缶がもっと欲しいけど、調達が足りていないので仕方なく新缶も買って頂いているだけの話なんです。

中には「いいから再生缶ばかり売ってくれと」言うお客さんもいるんですが、そうすると今度は再生缶の値段が高くなっちゃいますよね。なので、皆さん自然と我々の意見を聞きながら今の割合が出来上がっているのかなと思います。

-なるほど。流通量がユニークな決まり方をする一方で価格の方はどうなんでしょうか。特に現在は鉄の値段が上がっていますが、新缶の値動きに左右されますか?

仰る通り新缶は鋼材の値段と連動していて、新缶の値が上がると再生缶との価格差が大きくなります。最近すごく鉄の値段が上がったので、再生缶の立場が上がるでしょうね。ただし我々の業界の難しい所は「新缶を使わないで再生缶だけ売る」というのが不可能で、新缶を使ってもらわないとリユースする原料が戻ってこない。なので、再生缶がよく売れるからとバンバン売っても、次売る分がなくなって終わりになってしまう。魚の漁獲量みたいに計画的にやっていかないと成立しないんです。それは古紙業者も同じじゃないでしょうか。

-そうですね。古紙の再生は大体4~5回ぐらいが限界と言われていますが、古紙の場合は新古とも混ざってしまうので、いつ寿命が尽きるかが分かりづらいという事があります。ドラム缶の場合は商品寿命がはっきりと分かるんでしょうか?

正確な使用回数は正直言って分からないです。キレイに使っていけば何年も繰り返し使えるのは間違いないんですが普通のドラム缶だとリユース可能なのは平均4~5回くらいかなという感じです。凹みが酷かったり中の汚れが落ちきらないものは弊社の洗浄段階で弾かれるようになっています。

 

リユースできない缶はどんな缶?

-もう使えない缶はスクラップになるんでしょうか?

そうです。変形が大きいものは最悪中身が漏れる危険があるので基本的にスクラップ行きですね。本音を言えばリユース出来る缶だけを回収したいんですが、お客さんの方で選別までして頂く事はできないので、使えない缶も含めてまとめて回収します。なので規格の違う缶や再生できない缶もついてくる。いい缶は高く買って、使えない缶を安く買って、そうして買ってきた缶を玄関前で仕分けして、スクラップ行きは一箇所に積んで業者さんにお出しするという流れです。

-規格の違う缶という話がありましたが、ドラム缶は容量200Lで共通だったように思います。規格によって何が違うんでしょうか?

寸法サイズが違うんです。あと口金の位置が違っても弾かれます。弊社では基本的にJIS規格のうちCタイプと呼ばれる缶を再生していて、輸入缶とかタイプの違うものは扱いません。

というのも、ドラム缶の中身を充填する工場ラインは自動化されていますので、例えば口金の位置がたった10mm違うだけでも使えないという話になってくるんです。なので弊社の工場もオートメーションで缶の線の位置等を検出していて、10ミリ位置がずれているとラインに通らないようになっています。

-それは…輸入缶が増えたりしたらものすごく困りそうですね。

その通りです。お客さんから「ドラム缶あるから買って!」と言われて見に行ったら全部輸入缶で「これ買えませんね」みたいな事はよくあります。そんなのに限っていい状態の缶だったりするんですよね(笑)本当ならそのまま売れればいいと思うんですけど、まず売り先がありませんからお断りしています。

-鉄スクラップは原料として業者に渡されるとのことですが、廃棄物に関しては他にどんなものが出ていますか?

量で言えば圧倒的に多いのは廃油です。集めてきたドラム缶にちょっと残っていて、毎日2,500本集めているので、仮に1缶に100cc残っていたら×2,500ですから、単純計算で250Lぐらい毎日廃油が出ていることになります。それは大体が廃油業者さんに行きます。廃油以外では廃アルカリ、つまり洗剤です。あとは塗装を剥がすのでその塗装カスですかね。

-廃油が薬品類と混ざっちゃいませんか?

はい。なので洗浄した後に弊社で分離させています。処理した廃液の上澄みが油で、真ん中が廃アルカリになります。こちらは捨てています。

インスタ映えするドラム缶会社とは?

-今後の展望をお聞かせ頂けますか?

国内は市場がもう落ち着いているので、出来ることといえば同業種とタイアップして回収効率を上げていく事ですかね。この仕事はすごく物流コストがかかるんですが、他の回収業者もそれぞれ同じような所を回って回収しているので、それを集約できると一度で済むので近い業種で物流コストを合理化していくということが非常に大事だと思っています。業界の高齢化に伴う後継者問題も含めて、業界の生き残りのために考えていかないといけないんだと思います。

-業界の高齢化といえば、Instagramで若者の話題を呼んで、フォロワーが1,000人もいらっしゃるそうですが。

中野社長:はい。総務部長の榊原がやっています。

榊原さん:私ともうひとり総務の人間で回しています。2021年の2月から開始したのでもうすぐ1年になりますが、私自身驚いています。皆さん何でフォローしてくださるんだろうって(笑)

中野社長:すごいよね、最初100人でもすごいと思ったけどもう1,000人だもん(笑)

榊原さん:やっぱり見た目がカラフルでいいと思うんですよね。最初から見た目を大事にしたいねという方向で始めました。皆さんドラム缶に興味があるというよりアートっぽくて写真映えがいいからフォローしているんでしょうが、若い方が興味を持って見てくれるので、始めて良かったなと思いますね。

-それは採用面に現れてくるからでしょうか?

もう正にその通りで、社員が高年齢化しているので若い方にドラム缶に興味を持ってもらおうとInstagramというツールを選びました。「インスタやったから収益が上がる」とかそういうことはないと思うので、じわじわと会社に資する事をやろうという気持ちで始めました。

-海外向けタグも入れていたりしますよね。

世界中の業者さんがドラム缶の将来について話し合う「ドラム缶国際会議」というのが3年に一度開かれるんですが、その時にアメリカの同業者さんと知り合う機会があったので、英語タグはその方たちが見てくれると嬉しいなという思いでつけてます。そしたらなんと南アフリカの同業者からコンタクトがあって、少しずつ交流を始めています。

岸本所長:この業界は会社が少ないし、マニアックな世界で面白いんでしょうね。ドラム缶がリユース・リサイクルされていないことを皆さん知らないし、そもそもドラム缶の実物を見たことないと言う方もいらっしゃいます。実は意識して探すと沢山あるんですけどね。ガソリンスタンドの裏とか、意識してなかっただけで実はそこら中にある。だからInstagramはいいきっかけになると思います。

中野社長:そこら中にあるという話で思い出したエピソードがあって、飛び込み営業していた際に、通りがかった牧場にカラのドラム缶が置いてあったから、話を伺ったんです。それはボイラーの燃料に使った缶で、「空いたドラム缶どうされるんですか、よろしければ買い取りますけど」って聞いてみると「半分に切って牛の飼葉受けにするから」と断られました。牛はけっこう鉄分を摂らなきゃいけないらしくて、ちょうどドラム缶から鉄分が摂れて丁度いいんだと(笑)ユニークですが、それも立派なリユースですよね。

-独自のリユースがあるんですね。最後に、何かメッセージはありますでしょうか。

ドラム缶を使う方がね、凹んでいたりとか少しのキズだとか、性能に関係ないところも完璧じゃないとダメだという意識を無くして欲しいなとは思います。

ありがとうございました。

 

2021.12.10

取材協力:株式会社中野工業所

https://nakanodrum-jp.nameserver.ne.jp/

  • 新井紙材株式会社
  • メディア事業部
  • 環境と人編集長

新井 遼一

リサイクル業界に入り、日常的に目にする圧倒的な量の廃棄物を目にして、この社会が持続可能ではないことを実感。
表舞台で一人歩きするサステナブルやSDGsなどのワードに対する違和感を解消するため、舞台裏に目を向け、考えてもらうために活動中。

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