不要PCどうしてる?リユース・リサイクル事業で難民を支援

「一家に一台」の時代から、「ひとりに一台」の時代となったPCは、今や仕事でもプライベートでも欠かせない存在となりました。日々進化し、できることがどんどん増えていく中で、コーディングもデザインも動画編集もゲームも、あらゆることがノートPC一台で柔軟に行えるようになり、格段に便利な生活が送れています。

しかし、ふと振り返ってみるとこれまでさまざまなPCを破棄し、新しいものへ買い換えていることに気づきます。

膨大な数のPCが破棄されているこの時代、環境負荷を抑えるリユースやリサイクルはどのように行われているのでしょう。「エシカルパソコン」を掲げ、PCのサーキュラーエコノミーに取り組むピープルポート株式会社の代表・青山さんに聞きました。

青山明弘 ピープルポート株式会社 代表取締役社長 / 戦争・紛争における被害者のサポートをしたいという思いに突き動かされ、紛争や迫害を理由に日本に避難してきた難民の雇用創出事業を展開。ゴミとして捨てられていたPCを回収し、再生する過程で難民の雇用を生み出しながら環境負荷も軽減する「ZERO PC」を立ち上げる。

難民問題を起点にPC事業がスタート

―PCのリユース・リサイクルに注目されたのは、どういった経緯があってのことでしょうか。

まずピープルポート株式会社の創業経緯からお話しすると、当社の根底にある目的は「難民が安心して働ける場所を作る」です。

小さな頃から祖父の友人が不発弾を触って亡くなったり、特攻隊の知り合いがいたりという話を聞く中で、戦争や紛争に対して強い憤りを感じていました。年齢を重ねるうちに、現在進行形で恐怖の被害に遭っていて、やむを得ず国外に逃亡しなければならない人がいるという現状も知っていった。

そんな中日本で暮らす当事者にも会い、現実に暮らしが困難であるということに直面したことがきっかけで、「彼らが安心して暮らせる場所を作っていきたい」と強く考えるようになりました。

 

ではどういった事業なら安心して働けるのかと考えた時に、3つの軸があると思ったんです。

1つめは日本語がわからなくても身につけやすい仕事であること、2つめは将来母国が平和になって帰った時にもキャリアとなるような仕事であること、3つめは「ありがとう」という言葉をかけてもらえる仕事であること。3つめに関しては、日本の課題に貢献することで、難民という言葉に対してネガティブな感情を持つ人を少なくできればと考えてのことでした。

この3つをベースに検討していったところ、「都市鉱山」という言葉を見つけました。これだけ電子機器が流通している中で、実は都市部にこそレアメタルなど価値のある素材がたくさん埋もれている、そんな言葉です。PCは全世界で使われているものだし、難民の“手に職”にもつながりやすい、さらに日本の課題も解決できる。これが我々の目指す方向ではと思いました。

難民スタッフの手によって再生されたPCやディスプレイが並ぶ。

ですので、最初はPCや電子機器を引き取り、分解して資源として利用していくリサイクル方面でスタートしたんです。

でもいざ初めてみたら、そのうちの3割ぐらいのPCはまだ動くもので。これはもったいないなと、リユースに方針を転換していきました。今ではPCの再生事業に特化していて、難民という背景を持ったスタッフにも社員として、日本人スタッフと同じ給与水準、社会保障のもと働いてもらっています。 

―「難民の働く場を設けたい」という目的がまずあって、それを達成するために「PCのリサイクル・リユース事業」が据えられているのですね。

そうですね。実際、彼らは日本での生活は経済的にも厳しく、就労許可を持っていても日本語が話せないから働けない、という人がたくさんいます。男性は現場仕事などでスポット的に見つかったりはしますが、就業規則はあってないようなものというか、怪我したらおしまいの完全に使い捨てというケースも耳にします。女性はそんな仕事すらなくて、本当に厳しい状況です。

そういった中で、PCなら日本語がわからなくても、アルファベットを多用するので覚えやすく、継続的に仕事ができますし、母国でもきっとキャリアになる。さらに、当社で働く中で日本語も理解できるようになれば、キャリアップにもつながります。

環境負荷ゼロのエシカルパソコンが誕生

―「エシカルパソコン」という言葉を初めて目にしたのですが、この概念はこれまであったのですか?

いえ、2020年の夏頃、当社が初めてネーミングしたと思います。これまでファッションや食品業界などでエシカルという言葉はよく用いられていましたが、PC業界ではまだありませんでした。”中古PC”という言葉は一般的になっていますが、その裏には“安かろう悪かろう”のようなイメージがあった。当社はそこでは勝負していないのと、電子機器業界にエシカルのプレイヤーが誕生したということで、注目するきっかけになっていただければと考えたんです。

現在は環境負荷ゼロのエシカルパソコン「ZERO PC」としてブランド化しています。

―中古PCはどのように仕入れられているのでしょうか。

主に企業や団体様が使用するパソコンを、神奈川、東京23区であればノートPC3台から無料で訪問回収しています。また遠方の方でも、着払いでPCなどを送っていただくことでお引き取り可能です。

出張費も処分費も必要ないので廃棄代のコスト削減になりますし、個人情報データも無料で完全消去しています。

回収した中でリユースできないものは分解してリサイクルへと回し、リユースできるものは社内の製造所にて再生。回収した電子機器の台数や種類に応じて、子どもたちの教育などを支援するNPO団体に一定額寄付しています。

企業様からも「古くなったPCを回収してもらえ、さらに社会貢献もできるのはありがたい」とご好評いただいています。もちろん個人様からのお持ち込みも受け付けています。

―PCを再生していく過程で、廃棄物などは出ないのでしょうか。

現状、この製造所で廃棄物はほぼ出ていません。ただデータ消去後のハードディスクや基盤などは、スクラップ屋さんに引き取ってもらった後、金属を抽出する際に燃やすことになります。ですので最終処分という面では出ているとは思いますが、環境負荷という面では現状それが最善ではないでしょうか。

基盤には金銀を含む多くのレアメタルが使用されている。

従来の中古PCにはない手厚いサポートを実現

―「ZERO PC」のECサイトを見ると、あえてスペックにこだわらず平易な言葉で訴求されている印象ですが、ここにも意図がありそうですね。

それほどPCに詳しくない方が購入を検討される際は、「こういうことがしたいからPCが欲しい」という用途が先にあると思います。

けれど実際に売り場に行ってみると、思った以上にさまざまなメーカーがあったり、CPUやSSDなど一般的でない単語がずらずら並んでいたりするので、結局、パッと見て使えるのかどうかわかりにくいです。そのために量販店では店員さんを配置し、細かく説明していただく流れになっているのだと思います。

我々はオンライン販売が主ですので、スペックを説明してくれる人がいません。ですので、まるで接客をしてもらっているかのような、日常的に使っている言葉でPCの説明をしようと考えました。

―取り扱っているPCはどのようなものでしょうか。

インターネットやメールなどの軽作業向けPCを「A series」、写真管理やビデオ授業などの事務作業向けPCを「X series」、テレワークや資料作成などビジネス・大学生向けPCを「Y series」、デザインやゲームなどハイパフォーマンス向けPCを「Z series」と銘打ち、この4シリーズをベースに展開しています。

また「もっとこういう機能が欲しい」という細かなご注文にはLINEでいつでも気軽にお問い合わせいただけますし、もちろんお電話でも対応可能です。ほかにも、「持ち歩きたい」「サクサク動くPCが欲しい」などの希望を伝えていただければ、ぴったりのものをご提案しています。

難民の実情をもっと多くの人に知ってもらいたい

―難民の方々についてもお聞きしたいのですが、今どのぐらいの方が日本におられるのでしょうか。

日本に何かしらのビザを持ってやってくる外国人で、難民申請をする方はだいたい年間1万人ぐらいいます。そのうち難民認定が降りるまでに平均で3年。長くて10年以上待っているという人もザラにいます。

認定を待っている間に就労許可がもらえたら自活をしてね、というのが国の建前ではあるけれど、実際に仕事を見つけて満足な暮らしをしていくのは、先ほど申し上げた通りかなり難しいのが現状です。

―ピープルポートで難民の方々の採用も着々と進められているのですか?

そうですね、今(2021年11月)はまだ少なくて4名なのですが、どんどん増やしていきたいと思っています。まずNPO団体から紹介をいただき、コミュニケーションがきちんと取れるか、誠実かどうかなどの人間面を重視しつつ、その方の生活状況も見て、より苦しい生活をされている方を優先的に雇う、ということをしています。PCのスキルがあるかどうかは基本的には関係ないですね。 

―開かれた場であることを印象づけるために、オフィスをガラス張りにされたそうですね。

難民という言葉の持つ複雑さもありますし、アフリカや中東など遠い国からやってくる人も多いので、「得体がしれないから怖い」というのは起こり得るなと思い。閉ざされた空間で「なんなんだろう、あの人たち…」と思われるよりは、「なんだか毎日PCを修理しているなあ」と思ってもらえるほうが良いなと考えたんです。

おかげさまで近くに住んでいる5歳ぐらいのお子さんが、メンバーのことを大好きになってくれて(笑)。通りがかるたびに「ばいばーい」って手を振ってくれます。そういった、人と人との関係性ができればいいなと思っていますね。

ひとりでも多くの難民が活躍できる場を創るために

―今後はひとまず採用を増やしていきたい、という思いですか?

展望に関しては5ステップぐらい設けていまして。まず1ステップは日本の拠点で難民という背景を持ったメンバー100人が働ける場所を作ること。2ステップはソフトウェアに進出してビザの書き換えのサポートを行うこと。現在のビザではなく、働ける人材、例えば英会話の先生など高度な技術を持つ人材に対して、会社が出せるビザに書き換えるということを支援していきたいと思っています。

3ステップは海外進出。日本よりも難民認定が降りやすい国はたくさんあるので、我々のような拠点を先進国に作り、そこに日本はどうしても合わない人や、難民認定への道が見えない人が安全に暮らせる選択肢を広げていきたい。

4ステップは、現在のPC事業だけでなく、当事者の元々持っているスキルを活かせる機会を増やしていくこと。ひとつの業態だけでなく、横の広がりを意識して人材紹介のような形にできないかなと考えています。

そして5ステップは、先進国だけでなく途上国にも我々のビジネスを横展開して、世界中の難民という立場にいる人たちの受け皿を作っていく。世界的なネットワークができれば、「この国は合わなかったけれど、別の拠点でチャレンジしてみよう」とスライドされることができます。

多国籍なスタッフがオープンスペースで仕事をする場となっている。

―なるほど。すごく壮大である一方で、今確実に求められていることですよね。官民一体となって進めなければならないのでは、とも感じました。

この事業をビジネスとしてやろうということにもつながってくるのですが、かつてODA(政府開発援助:開発途上地域の開発を主たる目的とする政府及び政府関係機関による国際協力活動)で、カンボジアの地雷撤去をするプロジェクトが動いていたのですが、資金繰りが難しくてなくなってしまったという苦い経験がありました。ですので、自分たちでお金を回していかないと、長く続けられないという思いが強くあります。

ファーストエイド(最初の支援)だけでなく、次の支援も続けられるようにしなければいけない。そのためにも官民一体となって取り組むことが必要だと思っています。

 

 

2021.11.10

取材協力:ピープルポート株式会社

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