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世界No.1のリサイクルタウンは意外な場所にあった!?

「世界一のリサイクルタウン」はどこにあるでしょう?先進的な北欧やスイス? もしかしてシンガポール?それとも意外と日本国内?あまり知られていませんが、世界一リサイクルが行われている街は、実は中東にあります。

エジプトの首都カイロの東端に位置するマンシェットナセル。舗装されていない道や、ビルの屋上まで置き場がないほどゴミがあふれている通称「ゴミの街」。実は、これらのゴミはこの街の住民が出したゴミではなく、首都カイロからリサイクルを目的として回収してきた廃棄物なのです。

エジプトの首都カイロから出るゴミの半分以上がこの街に持ち込まれ、そのうち約90%が何らかの形で再利用されています。マンシェットナセルほど活発にリサイクルが行われている場所は世界中どこを探してもありません。そんな「世界一のリサイクルタウン」を取材しました。

 

コプト教徒たち

マンシェットナセルは、エジプトの首都カイロの郊外モカッタムにあるスラム街。ここでゴミの回収やリサイクルを生業としているのは、この街に住むコプト教徒の人々です。

コプト教徒とは、主にエジプトに住むキリスト教徒一派のことで、エジプトの人口の1割ほどがコプト教徒だと言われています。イスラム教徒が9割を占めるエジプトでは、彼らは迫害やテロの対象にされることもある少数派です。

マンシェットナセルでは長年、イスラム教で不浄とされる豚が飼育されてきました。その豚の餌となる残飯が持ち込まれるようになったことが、この街が「ゴミの街」と呼ばれるようになった所以です。さらに、大多数を占めるイスラム教徒にとって不浄とされる豚を扱うことは、差別視される原因にもなりました。

2009年春に、 新型インフルエンザの世界的流行を受けて、エジプト政府はマンシェットナセルなどで30万頭の豚を捕殺しました。豚がインフルエンザを媒介させるという確かな根拠はなかったのにです。

経済的大打撃を受けたコプト教徒達でしたが、この出来事によってカイロ中に処理できない残飯やゴミが大量に溢れる事態となり、コプト教徒たちが、これまで首都カイロの大部分のゴミ処理に大きな貢献を果たしてきたことが逆に証明されてしまいました。そして、近年マンシェットナセルの住人たちはこの国のリサイクル業を支えるようになってきているのです。

 

ゴミの街からリサイクルの街へ

マンシェットナセルに住むコプト教徒たちは、大きな音と悪臭に包まれながら日々、ゴミのリサイクル業に従事しています。1日総量1万トンものゴミを細かく分別しながら袋から袋へと移す分別作業をするのは、ほとんどが女性と子どもです。

街全体で集められたダンボール、プラスチック、布、ガラス、金属などは、リサイクルセンターへ運搬される前に、彼女たちによって仕分けされます。

ビニール袋のマテリアルリサイクルはその代表例です。ポリエチレンの含有量が高いビニール袋は、細かく切断してから溶解させて再利用されます。再生原料として、ここでは15種類の異なったプラスチックが廃棄物から作られています。それらは、50kg入の袋に詰めて再生原料として販売され、新たなゴミ袋やパイプなどが作られていくのです。ゴミをきちんと理解できる人が丁寧に分別して再利用しなければ、マテリアルリサイクルはできません。

この街のあるプラスチック再利用業者は、古いイタリア製の機械を使って、再生プラスチック製のハンガーを作っています。毎日1,800個のハンガーを製造し、カイロの洋服店に販売しているのです。再利用業者の多くはその仕事を先代から引き継いで行っています。昼夜、機械の音とプラスチックが溶ける臭いが途切れることはなく、リサイクル工場は夜通し活動していて、マンシェットナセルの街は眠らないのです。

マンシェットナセルでリサイクル業を営む人々は「中東の環境保護主義者」と呼ばれることを誇りに思っています。ゴミを分別、リサイクルするだけではなく、壊れたテレビ、リモコン、コンピュータのプラスチック部品なども新しい加工品へとリサイクルしています。この地域で働く貧しい人々は誰もがプラスチックなどの素材のスペシャリストなのです。

廃棄物の90%が何らかの形で再利用されるマンシェットナセルの街は近年、「リサイクル効果の世界的モデル」として注目を集めています。

 

ザッパリーンとは?

カイロ市内でゴミを集めて回っているのゴミ収集業者たちは、代々マンシェットナセルの街に住むコプト教徒達です。彼らはアラビア語で「ザッバリーン」(Zabbaleen=ゴミを集める人)と呼ばれています。

ザッパリーンの多くは、元々豚を飼育して生計を立てていましたが、1970年頃からカイロのごみを収集し、お金を稼ぐようになったと言われています。彼らは首都カイロの住宅地域を車で巡り、リサイクルできそうなものを日々探し廻って生計を立てています。彼らの多くは、週に6日間働く内、数日ずつ別の地区を廻ります。

3日間はムニラ (Munira)地区へ行って、ほかの3日間は北部のショブラ (Shubra)地区へ行くといった具合にスケジュールを分けています。ザッバリーン達の間ではそれぞれ縄張りがあります。多くのザッパリーン達は、先代から受け継いだ中流階級の住民らが暮らす集合住宅などをそれぞれが管轄しています。各家庭と個別に契約しているザッパリーン達もいます。

カイロ市には、指定の場所に出された分別ゴミを収集する公共のゴミ収集サービスがあります。それにも関わらず、なぜザッパリーンが必要とされるのでしょうか?

カイロ市民たちに話を聞いてみると、公共のゴミ収集サービスよりもザッバリーン達の方が好まれていることがわかりました。「地域の住人たちにとってザッバリーンなしには生活を考えられないよ」とまで言う人もいました。その理由は、利便性とゴミ出し習慣にありました。

ザッパリーンが好まれている大きな理由は、彼らが各家庭を一件ずつ回ってどんなゴミもそのまま回収してくれるからです。エジプトでは歴史的に、ゴミを分別して出すという習慣が全く根付いていないため、ザッパリーンの存在は無くてはならないものになっているのです。ザッパリーンが顧客宅からゴミを収集しても、その稼ぎは一件につき2ユーロほど。ザッパリーン達の稼ぎは月約60ユーロというわずかな稼ぎです。

それでも、彼らにとっては日々生きていくのに十分な稼ぎです。彼らの多くは先代からこの仕事を受け継いできました。一日中ゴミ収集に廻ってザッパリーンの仕事が終わるのは夜中です。車に山積みになったゴミは持ち帰ったあと、翌日になってから荷降ろしするといいます。

 

2002年の危機

2002年、エジプト政府は首都のゴミ収集と分別のため、スペインとイタリアの2つの企業と契約。外国企業は、ザッバリーンらの競合相手となり、ザッパリーン達は突然、不法労働者とされてしまいました。仕事を失いザッパリーン達は生活の危機に陥ったものの、それも長くは続きませんでした。

ほどなくして、カイロの街中にゴミが溢れ返る事態になってしまったのです。ヨーロッパとエジプトのゴミ廃棄システムが大きく異なっていた為、この2社はその違いを理解できずに失敗してしまいました。

エジプトではゴミを分別して捨てる事はなく、ゴミの量や重さもヨーロッパとは比べものにならないほどの規模です。結局、ヨーロッパの2社は早々にカイロから撤退することになり、ザッパリーンたちは再びゴミ回収とリサイクルの仕事を取り戻しました。そして、ゴミ収集からリサイクルまでを一手に請け負う彼らの重要性は日に日に増しています。彼らは、今となっては現代エジプトにはなくてはならない存在なのです。

 

高級素材「アルミニウム」

アルミニウムはボーキサイトという鉱物を主要な原料とする金属です。生産過程で非常に多くの電力を使うことで知られています。しかし、アルミニウムをリサイクルで再生産する場合は、ボーキサイトから精製するエネルギーのたった3%だけで作ることができます。97%ものエネルギーを節約できるため、世界中で活発にリサイクルされている材料の一つです。

 

マンシェットナセルでアルミニウムのリサイクル業を行う家庭はこの地域で最も裕福な人々です。彼らはリサイクルで再生産したアルミニウムバーを国内で販売するだけではなく、ヨーロッパや中国にも輸出しています。マンシェットナセルのアルミニウムリサイクル工場は、今ではエジプトのアルミニウム製造の一大拠点となっているのです。

まだ熱のこもった8kgのアルミニウムバーが、工場から出荷されていきます。一日最高30トンのアルミニウムとその他の廃棄物がここで処理されています。車やオーブンの部品、ドアハンドルなどのアルミニウム廃棄物が窯の中で、600度の熱に溶かされていきます。エジプトの家庭ごみにアルミニウムが含まれているのはとても珍しいことです。そのため国内のアルミニウム買い取り価格は、1トン260ユーロと高騰し続けています。

エジプトで集められたアルミニウムだけでは世界中からの強い需要を満たすには十分でありません。

そのため、ここのアルミニウム業者たちは、ヨーロッパや南アジア、ドバイなどの近隣諸国からアルミニウム廃棄物を輸入しています。それらは、すべてマンシェットナセルの工場でリサイクルされ、再生されたアルミニウムバーは再び国外へ輸出されていきます。アルミニウムの国際価格は株式市場のように変動を伴うので、輸入と輸出の割合は全てその時の価格次第で決まります。国内での買い取り価格が高ければアルミニウム廃棄物を輸入して、海外での価格が高ければ再生品を輸出するのです。

しかし、この23年間アルミニウムの輸出は増減を繰り返しながらも長期的には増加し続けています。アルミニウムの労働者は月におよそ500ユーロほどを稼ぎ、その額はエジプト人の平均月収の倍にもなります。彼らは、マンシェットナセルでは最も稼ぎの良い仕事をしているのです。

 

マンシェットナセルの未来

マンシェットナセルを埋めつくすゴミの山には、高い価値を持ちリサイクル可能な廃棄物が含まれています。このゴミの山こそが、この地域の金脈のような存在として見らており、それは本質的に日本でも同じです。

マンシェットナセルのリサイクル労働者たちは、賛否両論ありながらも、カイロ市内の誰かが捨てたものを富に変えて生計を立てています。環境破壊が問題になってきてる昨今では、カイロの廃棄物リサイクルを一手に引き受けるこの街の重要性は年々高まっているのです。

統計によると、2050年までにカイロの人口は倍に増えると言われています。カイロ市民が生み出すゴミの量もそれに準じて倍に増えると予想されています。マンシェットナセルで暮らす様々なリサイクル業者たち。彼らの活躍がこの街の未来の命運を握っているのかもしれません。

 

リサーチ:TOKYOVISION

環境と人 編集部

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