日本は森林をすぐにでも「資源」にしなければならない

日本は森林の多い国である。このように言われ、「そうかな……?」といまいちピンとこない人は多いのではないでしょうか。

どちらかというと日本は自然よりも先進技術が進んでいるイメージがあるし、外国人が持つ日本のイメージも、やはり渋谷や新宿、秋葉原などのごちゃごちゃとした街並みが中心。自然とは程遠いものです。

しかし、実は日本の森林率は国土の有に66%、約3分の2を占め、世界各国の森林率としては先進国の中でフィンランドに次いで第2位。世界平均の森林率は約31%なので、日本は実にその2倍以上の森林率を誇る、まさに“森林大国”なのです。

これほど豊富な森林を有する国なのだから、さぞかし木材資源は潤沢に違いないと思いきや、これもまた違っていて、日本の木材の自給率はたった約3割。約7割を輸入に頼っています。

どうしてこんなことになったのか

昭和10年代、戦争によって大量の木材が必要になり森林がどんどん伐採されていきました。終戦後も復興のためにさらなる伐採が続き、各地の森林が荒廃。これによって昭和20〜30年代には自然災害が頻繁に起こるようになっていきます。

この状況を危惧した政府が、森林を増やそうと「拡大造林政策」を実施。早く育って資材にもなりやすいスギやヒノキなど針葉樹の人工林を、どんどん増やしていきました。

木材は今後重要な資源である、との政府の考えで実施された「拡大造林政策」でしたが、その読みとはうらはらに、安くて安定供給が可能な外国産の木材の輸入量が増大。

しだいに国産材の価格が落ち、伐採や搬出などにかかる費用も回収できず、林業経営が立ち行かなくなりました。

そして残ったのは手入れのされない人工林だけ、という悲しい状況に陥ったのです。

世界の森林事情と日本の森林事情は違う

世界の森林面積は全陸地面積の約31%を占めます。しかし、2000年から2010年までは平均して毎年520万ヘクタールもの森林が減少していました。

その原因はさまざまですが、主なものとしては森林から農地などへの転換や、焼畑農業、燃料用木材を過剰に摂取することなどとされ、とくに南アメリカやアフリカなど熱帯地域での減少率が激しいといわれてきました。

人間が排出する二酸化炭素などの温室効果ガスは、地球温暖化の要因のひとつ。森林は二酸化炭素を吸収して酸素を放出する役割を持つため、世界規模で森林が減少することは地球温暖化に拍車をかける事態です。このような事情から、森林保全のための取り組みが世界中で行われてきました。

豊かな天然林がまだ残っている地域では、しっかり守られるように保護地区などに指定して配慮。積極的に植林を行ったり、木を原料とするものをなるべく守ろうとしたりする動きが盛んに行われています。

こうした動きが世界中で起こっている中でいえば、日本の森林率はとても高く世界に誇るべき現状です。しかし、本来国内需要で賄えるはずの木材の約7割を輸入に頼っている状況はやはり異常と言わざるを得ません。

この不思議な状況をなんとか改善できないかと、新たな事業に取り組む人がいます。兵庫県丹波市にある 株式会社森のわ代表・足立龍男さんです。

足立龍男 株式会社森のわ 代表/ 1976年兵庫県丹波市生まれ。製材業を営む株式会社木栄から独立し、2008年4月に建築請負業・株式会社栄建を設立。「日本ログハウス・オブ・ザ・イヤー」ロケーション賞や「ひょうご木の匠木の住まいコンクール」優秀賞を受賞するなど各方面で高い評価を得る。その後、丹波市内の森林を整備することが急務と、2016年に株式会社森のわを設立。丹波市の森林再生に尽力している。

森林が「ある」ということに満足するのではなく、森林をいかに活用していくかが持続可能な未来を作る上で重要な課題のひとつと考え、森林の再開発を積極的に進めている人物です。そのためには、まず林業を支えることが大切だと足立さんは話します。

林業が衰退すると何が起こるのか

産業は移り変わるもの。かつて栄えていた炭鉱業も今ではほとんど見なくなったのだから林業もそのような運命にあるのだ、森林があること自体は良いことなのだから、そのまま生かしておけばいいじゃないかと思われるかもしれません。

しかし、ここに大きな落とし穴があります。

それは、森林の良し悪しが自然災害と直結しているということです。足立さんは、林業従事者による手入れがなされないと、災害による甚大な被害をもたらす可能性があると警鐘を鳴らします。

「山は遠くから見ると緑でいっぱいでいかにも健全なイメージですが、放置された人工林の中は、木が生い茂り太陽光が地面まで届かずに薄暗い状態です。草が生えない地面は茶色い土のままで、土の中に水を溜める機能もなくなります。

このような状態で雨が降らない日が続けば、すぐに水が枯れて近隣の農業に影響を及ぼしますし、逆に大雨が降れば大量の水が地面の上を滑り落ちていく。深刻な農業危機と土砂災害の危険と常に隣り合わせなのです。」

さらに、手入れされていない人工林は海産物にも影響を与えます。

草や低木が生えた豊かな森林では草花の循環によって土が栄養をたっぷりと蓄え、雨が降ると栄養分が水と一緒に海まで運ばれます。その栄養分によって植物プランクトンが増え、魚介類を豊かに育てる構造です。

しかし草や低木の少ない人工林では土に栄養分がなく、水によって運ばれる栄養分もないため、植物プランクトンも増えにくく豊かな魚や貝が育ちにくい。

「森林を整備することは、自然災害による危険を回避するとともに、農業・漁業にとっても良いことなのです」(足立さん)

森林をどう活用していくべきか

では、具体的に森林をどのようにすれば資源として活用できるのでしょう。足立さんに伺いました。

「そのまま放置しておくと基本的にはどんどん悪くなっていくものなので、木を植えたあと、しっかり育てて収穫し、適材適所で使うことが大事です。

戦後の拡大造林政策で植えられた木は、林業衰退に伴って育てることがおろそかになり、林の中で混み合っている状態。

木々の間隔が狭まり、枝葉が重なり合って成長を阻害してしまっています。こうなると木が大きく成長できず、建材などに使用できなくなる。木を切って収穫したところで高く売れず、細かく切り刻まれて安いバイオマス発電の燃料になるほか使い道がなくなります。」

積まれた間伐材

「まずは木を大きく育てることが重要です。そのために行うのが“間伐(かんばつ)”という作業。これは密集して生えている木々を一部間引きし、1本の木の枝葉をより大きく広げられるよう整えることです。

こうすることで葉っぱ1枚1枚に太陽光が降り注ぎ、大きな木が育っていきます。」

「また、間伐することで太陽光が地面にも届くようになるので、地面に草や低木、動植物が共生していきます。土にも栄養分が行き渡って水もしっかり蓄えられるようになり、適切に川へと流れて自然災害の危険も遠ざけます。

栄養たっぷりの水が海へと届けば海産物も豊かに育つ。もちろん、収穫した大きな木は家の柱としても使えるので、より高い価格で売買できます。」(足立さん)

林業と山主を支えるために

森のわの皆さん

木材が高い価格で売買できれば、林業従事者が増えて豊富な森林の整備が叶います。森林が整えば、水は適切に流れ、漁業も農業も豊かになる上、先で述べたように二酸化炭素の吸収率も上がり、持続可能な未来への第一歩となるに違いありません。

国もその事実を認識しており、間伐などへの作業に対して補助金を支払う支援を実施。足立さん率いる 株式会社森のわ でも、この補助金を積極的に活用。林業従事者に貢献し、間伐で収穫した木の売価などで余った分は山主へキャッシュバックしています。

間伐して太陽光が届くようになった森林

「これまで山は固定資産税をはじめ余計な費用がかかるだけで、負の遺産だったんです。だけど、きちんと整備してやれば環境改善にも役立つし、山主さんに還元することもできる。

そのためには林業従事者を増やすことが第一なので、“林業は儲かる”という活動にも力を入れています。

グループ会社に製材業と工務店があり、弊社で間伐した木は効率的に製材して建材として使うこともできる。林業で年収1,000万円を目指しましょうと打ち立てているし、実際、まったく無理な話ではありません。」(足立さん)

さらに、間伐して太陽光が入るようになった森林は、さまざまなアクティビティに活用できる可能性もあります。森林浴やトレッキング、キャンプなどのレクリエーションが楽しめる場所として開けば、キャンプ場ビジネスにも着手可能。森林は“負の遺産”ではなく、資源として活用できる可能性を存分に秘めているのです。

地球温暖化が叫ばれ、その影響で大雨などの異常気象が増えているという見方もあります。大雨や台風などによる自然災害を食い止めるためにも、森林整備について今一度考える必要があるのではないでしょうか。

「誰かがやらなければ、と思うのです」という足立さんの力強い言葉が、よりよい未来へと繋がっています。

取材協力:株式会社森のわ