廃材を100年使える家具にする

持続可能な家具とはどんなものでしょうか。

もともと家具は「長く使う」ことに価値を置いて作られてきた歴史があり、世界の家具ブランドでもその価値観を維持した上で、持続可能な素材を使った製品開発を模索しているようです。

使う側の我々からしても、テーブルやソファのような大型家具を、流行に沿って毎年買い替えるのは現実的ではありません。ヴィンテージ家具の豊富な北欧では、家具は代々引き継がれる財産として捉えられています。

日本でも桐箪笥などを引き継ぐ文化がありましたが、戦後、生活空間が洋式になると、引き継ぐのが難しくなってしまいました。しかし、使い捨て文化が持続可能でないことが明らかになった今こそ、サーキュラーエコノミーという形でその価値観を復活させるタイミングではないでしょうか。

原材料まで配慮した家具はまだ少数

サーキュラーエコノミーの原則には「製品と原材料を使い続ける」ことが含まれているので、長く使える家具を選ぶことは重要です。また、自ら修理したり、対応してくれるメーカーを選ぶことも大事なポイントとなります。

同時に、原材料に目を向ける必要があります。WWFによれば、森林伐採や火災が世界中で進んでおり、多くの生物が絶滅の危機に瀕しています。このような問題に知らずに加担することを避けるためには、FSC認証を取得した製品や、原材料の由来を明らかにしたメーカーを選ぶ方法があります。

しかし、そういった選択肢はまだまだ少ないのが現実です。

そこで今回は、「廃材」という原材料を使った家具ブランド「gleam」を紹介します。

gleamは、「旅する家具」をコンセプトに、インドネシアで役割を終えたカヌーを使ったテーブルや、穴の空いたドラム缶から叩き出したランプシェードなど、独特な雰囲気の家具やインテリアを製造販売しています。

東京・麻布のショップに並ぶ商品はほぼ全て廃材を活用したもので、「それっぽく」作ったものとは違う、本物の廃材ならではのヴィンテージ感が伝わってきます。

実際、素材となるカヌーや線路の枕木はもともと良質のチーク材で、過酷な使用環境に磨き抜かれたヴィンテージ品。メンテナンスをする事で何世代にも渡って使い続ける事ができるとのこと。

特徴的な店内は、コンセプトに合わせて自由に改装できるという基準で探したそうで、元々テラスだった部分がエントランスとなっていたり、言われてみると気づく自然なデザインが、随所に設てあります。

gleamを運営する株式会社グリーニークルー取締役の宇戸恒平氏にインタビューを行いました。

「何かに使えそう」でとっておいた素材

―どのように素材を調達していますか?

「うちで使っている素材は、もともとはインドネシア周辺で家の柱などで使われていたものや、漁で使うカヌーや、線路の枕木だったものなんですが、そういった廃材は繋がりのある現地の方々に協力してもらったり、その人脈を使って幅広く集めてもらっています。

それを現地の契約工場で製材して、天板だけの状態で日本に入れています。例えばカヌーだと木自体がかなり分厚くカーブがかっているので、削ったりまっすぐになるよう、普通の素材にはない手間をかけています。」

インタビューに応じ原材料となるカヌーや枕木の現地での状態れた刈谷課長

―その協力者というのは、海外向けに商売している方なんでしょうか?

「というより、単純に捨てるのもったいないとか、これ何かに使えないかなっていうのでとっておいてる感じです。

廃材を集め始めた時感じたのですが、僕ら日本人って地球のためにとかで頑張ってリサイクルしようって所から入って行くのに対して、現地の人たちは地球のためにとか、そういう感じではなく捨てるのはもったいないからとっておいているのが印象深かったです。」

宇戸恒平 株式会社グリーニークルー取締役 / gleamディレクター、デザイナー / 2008年に代表の高谷弘志氏とともに廃材を活用した家具ブランド「gleam」を立ち上げる。コンセプトの独自性と自由度の高いオーダーシステムが展示会や出展イベントで高い評価を得て、2014年にgleamショールームを麻布十番にオープン。2019年からはリサイクルスチールを使ったアイアンパーツブランド「26テツブヒン」を展開。

ほぼ全てが廃材を活かした商品

―このスチールの取手も廃材ですか?

「廃材ではないんですが、リサイクルのスチールを使用しています。オフィスや店舗の空間づくり事業ではドアなどのオーダー家具も制作していて、その付属パーツだけ売って欲しいという要望が多かったので、別ブランドで展開しています。

これもインドネシアの別工場で作っていて、そちらではもっと多色展開したりしているので、いずれ日本でもやりたいと思っています。」

26テツブヒンで展開するパーツ製品

―先に素材を見てから、商品化を考えていますか?

「そうですね、現地では偶然の出会いや素材探しをしています。

例えば、そこのペンホルダーはバイクのナンバープレートを使ってるんですが、東南アジアってバイクの量すごいですよね。しかも、日本と違って更新時にナンバープレートを交換しなきゃいけないと聞いて、そしたらあのナンバーはどうなってるんだろうと思って調べると、結構廃棄されていたりして。じゃあそれを使って何か作ってみようと。」

廃材という前に、デザインが優れていること

―商品化する時のコツはありますか?

「デザインするときは、素材自体にかなり個性があるので、それを活かすために余計な事はせずシンプルに考えています。

基本的に決して加工しやすいとか、扱いやすいものではないというのもあるのですが、あまり廃材を使用している事にこだわりすぎず、素材感を活かしつつ、家具としての使いやすさを大事にしています。」

現地の製材所の様子

―廃材にこだわらない、というのは意外でした。

「もちろんそこは1番の特徴ですし、サーキュラーエコノミーのような取り組みにも賛同しています。

だからといってそれだけを売りにしたくないというか、廃材っていうのはあくまで二次的な付加価値だと思っているので、廃材感をことさら強調したりはしません。デザインや使いやすさも含め、総合的にみて選んでもらえる商品を作りたい、というのが根底にあります。」

廃ドラム缶から叩き出したランプシェード

トライアンドエラーを繰り返す

―ブランドを立ち上げた経緯を教えてください。

「一緒に立ち上げたパートナーと同じ家具屋で働いていて、東南アジアに買い付けや視察に行っていました。

その時に、使われなくなった船がビーチに積み上がっていたり、コンクリートに置き換わった線路の枕木が脇に置いてあるのを見たのがきっかけです。ずっと使われていた木材の経年変化の美しさ、これをうまく家具に反映できたら面白いんじゃないかって感じたのが始まりですね。」

―他に今注目している廃材はありますか?

「色々悩んでいるんですが、最近だと廃タイヤでうまく雑貨を作れないかということで、ペン立てとかごみ箱など、いくつか試作しています。

ただ、どうしてもタイヤっぽくなっちゃうというか、それでもいいんですが…木材に比べると作れるものも限られていて、難しいですね。もうちょっとトライしてみたいと思います。」

―他にもうまくいかなかった例はありますか?

「沢山あります。例えばこの廃ドラム缶を使った製品ですと、質感を残して小さい小物入れとして作ってみたんですが、素材が硬すぎて小さい割に手間がすごいかかって、ちょっと製品としてはコストが合わずダメでした。叩き出し(手作業による加工)で作るので。」

原材料となる現地のドラム缶

効率を求めないものづくりの輪を広げたい

―今後の展望と課題について教えてください。

「やっぱり今主となっているインドネシア以外の国や、日本国内の廃材いうのを商品化できるようにしたいと思っています。

課題としては、普通の家具より手間も技術も必要で、効率的ではないものづくりなので、そのコストを賄えるビジネスとして成立させる販路開拓ができるか。それができる人や技術者、賛同してくれる人といかに繋がれるかですね。」


取材をしていく中で、廃材の現地写真などを見て感じたのは、出来上がった製品を見るだけでは決してわからない苦労があるということでした。

宇戸氏は「個性のある素材」とこともなげに述べていますが、あのような状態から家具を作るという発想は、なかなか出来るものではないと思います。

実際国内でも、同じような状態の廃棄物処理現場はありますが、もはやどうにもできず、まとめて焼却するしかありません。

その後ろ向きなコストよりも、アップサイクルを通じて素材を社会に戻すことにコストをかけたいですよね。それを実現するのが宇戸氏の言うような賛同者のネットワーク、例えばクラウドファンディングのような手段なのかもしれません。

サーキュラーエコノミーの視点から

gleamの取り組みは、そのままであれば単純焼却、もしくはバイオマス燃料となる可能性が高い素材を活用し、新規で投入される木材資源を削減している点で、サーキュラーエコノミーの原則の一つ、「製品と原材料を捨てずに使い続ける」に合致していると言えます。

また「長く使う(廃棄物を出さないデザインをする)」という原則に対して、宇戸氏はこう述べています。

「うちの製品に関しては、 適切なメンテナンスをしていけば何世代にも渡って使えると思います。システムとしては2年間は無料、その後も有償で対応しています。」

gleamに限らず、中〜高価格帯の家具では、修理をサービスに組み込むことは一般的であり、これらの家具製品自体がサーキュラエコノミーの特徴を備えていると言えるでしょう。

しかし、ビジネスとしての持続可能性という点では、現在gleamが主要な素材としている船や枕木などは、いずれカーボン製やコンクリートに置き換わってしまうと宇戸氏は言います。

「まあそれは1つ役割が終わっただけの話だと思うので、それはそれでいいんじゃないかと思います。」

さらりとそう言ってのけるこのブランドには、また新たな素材を循環させるビジネスを打ち立て、自然体でサーキュラーエコノミーを実践していく可能性を感じます。gleamの今後の展開に注目です。

2021.08.26

取材協力:株式会社グリーニークルー gleam麻布店

http://gleam.jp/