ごみ拾いをゲームにする 新感覚ごみ拾い「清走中」イベントレポート

ゼロウェイストやサーキュラーエコノミー。様々な新時代のライフスタイルや価値観が2020年以降この日本でも台頭してきた感覚を覚える。一方で街を歩けば、ビーチに行けば、歩道に落ちている煙草の吸い殻やコンビニエンスストアのパッケージ、浜辺にたどり着く無数のプラスチック。このような光景を見ると本当にこの様な新しい価値観を日本は受容出来るのか、なんて考える事もある。

どうしたら身近に思うべきごみに親近感を覚え、問題点を理解出来るのか。今回イベント取材を行った「清走中(せいそうちゅう)」は良いヒントになるかも知れない。
2月19日(日)に神奈川県川崎市で実施された「清走中 溝の口編」へ「環境と人」編集部では参加、後日、株式会社Gab清走中事業部 北村優斗さんにインタビューを実施した。

「清走中 溝の口編」イベントレポート

イベント会場は溝の口駅そばの体育館。そこへ約200名の参加者が募った。ファミリー参加が最も多く、環境問題に関心が高い層である若者やビジネスマンは少なかった印象だ。

最初に清走中のミッションを参加者へ与える映像が流れた。その映像のスタイリッシュさや任務への士気を高める口調に子どもたちが奮起する姿が見えた。早速、清走中が始まる。

清走中とは「ごみ拾い」と「ゲーミフィケーション」を融合させた、ゲーム感覚ごみ拾いイベントである。参加者はごみ拾いのハンターとして、街中のゴミを集めながら、スマートフォンに通達されるミッションをクリアし、清走中攻略を目指す。​ミッションの達成度合いと拾ったゴミの種類・重さは「Gommy」というポイントに変換される。

清走中 溝の口編でも溝の口駅周辺の指定エリアでのごみ拾いとミッションの挑戦が行われた。制限時間は約90分である。この中で「Gommy」を稼いだ上位のチームは優秀なごみ拾いハンターとして入賞する。

スタートの合図で清走中エリア内でごみ拾いが始まる。「Gommy」の高いごみを中心に歩道のごみは瞬く間に無くなっていた。清走中では開催地に合わせてオリジナルのゲーム設定を行っている。つまり、ごみ拾いをする以外にも「Gommy」を得るミッションが幾つかあり、例えば参加者に配布されるサングラスを身につけ写真を撮ることで「Gommy」を獲得できる。

今回のミッションはゲストで参加したゴミ拾いパフォーマンス集団ゴミ拾い侍がミッションでの対戦相手となっていた。エリア内に散らばった2名の侍より秘伝書を集め、つなぎ合わせたQRコードより次なるミッションに参加する。スマートフォンでミッションをクリアすると更に「Gommy」が獲得できる。この様な細部の工夫は開催毎で変わるそうだ。

ごみ拾いとミッションに挑戦する時間を終え「Gommy」の集計の時間となり、その後表彰式があった。最も「Gommy」を稼いだチームは18715.6Gommyだった。

参加して印象的なシーンが2点ある。1点目は、実際にごみ拾いをする指定エリアと集合場所の体育館を結ぶ歩道である。煙草の吸い殻が多数あったその歩道は住宅街へ入る道でもあり、清走中の実施エリアではないが、イベント前後で見違えるように綺麗になったように感じた。

もう1点はイベント終了後の子どもたちの主体的な感想発表だ。主催者が参加者を指名せず、全員に感想を尋ねた。その際に5〜6名の子どもがサッと手をあげ感想を述べた。いずれもごみ拾いやごみそのものにポジティブな感想を持ったようだった。子どもたちのひかる感性が垣間見れたシーンだった。

着想は宝探し。高校生のときに感じたゴミ拾いの楽しさと違和感。

後日主催者である株式会社Gab清走中事業部 北村優斗さんへインタビューを実施した。これより先はそのインタビューである。

株式会社Gab清走中事業部 北村優斗さん

―清走中を始めたきっかけを教えてください。

始めは高校生の時にテレビ番組で世界中の海が今ごみだらけになってる事を知り、何か自分にできないかと思いました。

その時、授業のフィールドワークで河川敷でごみ拾いをする事があり、一緒に参加したメンバーがごみ拾いに飽きていく一方で、僕だけ違う感覚を得ていたんです。宝探しのような、凄く面白くなってしまったんですよね。

そのゲーム感覚でごみ拾いをするというのが清走中の着想になっているのですが、当時毎日楽しくやっているつもりのごみ拾いを周囲から「意識高いね」や「偉いね」と揶揄されて、この違和感を解消する、僕が面白いと思っている感覚をコンテンツにしたいと考えました。

―そのゲーム感覚っていうのは具体的にどのような瞬間ですか。

大きめのゴミを見つけたとき、特にペットボトルとかです。あと、河川敷や街では、ごみって草むらの中にあり、隠しアイテムみたいな感覚があります。

また、新潟県の海でごみ拾いをした時、中国や韓国、ロシアの見たことのないごみが漂着していて、その海外のごみを見つけたときの、今まで見たことのなかったような「ごみはここまでたどり着くんだ。」という、得体の知れない物感がありました。

ー実際に参加させて頂き、そのごみ拾いの楽しさが随所にある事が十分に分かる清走中 溝の口編でしたが、ファミリー層が多い印象を受けました。

はい、清走中のターゲット層はまさにファミリー層です。当初僕が思っていたような「ごみ拾いって意識高いでしょう。」みたいな固定観念を壊したいと思っているので、日常的にごみ拾いをしている人や、環境問題に関心がある人をあまりターゲットにしていません。

むしろ今までごみ拾いを学校や会社でやらされる時はやるけども自分からはしないとか、ごみ拾いに対して関係ない、特段興味ないという人をメインターゲットにしています。

 

あとターゲット層の話でもう1点。開催地の地域住民も同じくターゲット層です。ですので、その地域に住んでいるファミリー層が最も参加してほしい層で、今回の溝の口編も集客に関しては上手くできたと思っています。

多種多様なパートナーシップの色を出せる清走中

―今回溝の口を開催地として選んだ理由を教えてください。

今回の開催は富士通株式会社さんとその包括協定を結んでいる川崎市さんからのご依頼でもあります。川崎市の中でも高津区は脱炭素モデル地区であり「脱炭素アクションみぞのくち」という取り組みをしています。今回はその一環で清走中を開催させて頂きました。

ーその様な企業や自治体とのパートナーシップ開催は稀な例でしょうか。

いいえ。基本我々は企業さん、自治体さんからご依頼を受けて、お話に合わせてイベントを制作するという形を取っています。地域性やイベントの趣旨を清走中の内容に反映させるので、ご依頼頂いた企業さん、自治体さんに色んなご協力を貰います。一緒に作っていく、割と官民共創な作り方が多いです。依頼者様は大企業から中小企業、公益財団法人さんも、地域も日本全国で様々です。

ーこれまでもごみ拾いを、例えば文化やアートにしよう、スポーツにしよう等、様々な手法でその敷居を下げる試みはなされてきましたが、あえてゲーム化する事のメリットやデメリットはありますか?

メリットとしてはごみ問題に興味がないような人にもアプローチできる事だと思っています。今まであった「ごみ拾い×○○」の○○って、参加者の健康意識が高かったり、生活に余裕のある人であったり、間口がこのエンタメより狭いイメージがあります。年齢や嗜好、生活スタイルに依存しないのがゲームの良さです。

デメリットとしては単純にゲーム化することってかなり難しい、コンテンツを作る能力が要るので、簡単にできるものではありません。これは自分たちも苦戦しているところです。面白いミッションやストーリーを開催地の特色や諸制限に合わせて制作するのは手腕が問われます。

ー清走中を開催している中での課題感はありますでしょうか。

この清走中をきっかけにごみに関心を持ってもらうことができているのですが、その後、どうアプローチしていくかが課題点です。イベント単発で終わってしまっているのが現状なので、そこはまず清走中の中でもう少し強くアプローチできるといいなとは思ってるところですね。

ー「環境と人」でこれまで取材させて頂いてきたリサイクル会社さんや産業廃棄物処理業者さんはごみに関してのプロですが、市民の皆さんとの関わり方に苦戦しているイメージを受けます。是非ごみのプロ達とのコラボレーションも期待しています。

まさに、これから関わりたい方々かもしれません。多種多様なステークホルダーの皆さんと清走中を作っていきたいです。

2023.1.24
取材協力:株式会社Gab 清走中事業部
https://www.seisouchu.com/