あなたのオフィスビルで出ているごみ、その行き先を知っている?

株式会社首都圏美化センター インタビュー

書類やお弁当、ペットボトルなどオフィスでモノを捨てた後、どのような工程を辿ってどのように処分・リサイクルされているのか、知らない人も多いのではないでしょうか。株式会社首都圏環境美化センターは、東京23区のオフィスビルを中心とした事業系の廃棄物を回収し、リサイクルへと回している企業です。事業内容をはじめ、廃棄物の現状や課題について改めて伺いました。

食べ終わった後の弁当容器の行方とは

株式会社 首都圏環境美化センター 取締役 斉京由泰/ 東京23区を中心に廃棄物・再資源化物の収集運搬・中間処理を実施。プラスチックリサイクル推進のための回収スキーム・新施設の構築に携わり、サステナブルな社会の実現のために注力する。
※インタビューには代表取締役社長の斉京由勝氏も参加していただきました。

―まずは事業内容について教えていただけますでしょうか。

由泰氏 東京23区内のオフィスを中心に、事業系一般廃棄物、産業廃棄物の収集運搬、産業廃棄物の中間処理、古紙等の選別圧縮が主な事業内容です。加えて、自動販売機横のリサイクルボックスから回収してきたペットボトル・缶・ビンを各営業所から一括して回収し自社で選別して出荷しています。売り上げの構成比は前者がだいたい8割、後者が2割といったところでしょうか。

―ではメインの事業となる回収業務について、具体的にどのような仕事内容なのですか?

由泰氏 事業系廃棄物の専門ですので、オフィスから日常的に出る廃棄物は全般的に回収しています。事業系一般廃棄物なら紙くずなどが多く、産業廃棄物なら廃プラスチックなどが多いですね。

―収集してきたものは社内で分別しておられるのですか?

由泰氏 そうです。廃プラスチックの場合だとまれに金属くずやバッテリー関係が混ぜられていることがあって、そういったものを取り除く作業にすごく時間を取られます。

―オフィスだとお弁当の容器なども多そうですが。

由勝氏 お弁当は食べ残しが大量にあったり、あまりに分別がひどかったりした場合には、我々の判断で“回収しない”というアクションを取るなどして運営しています。ただ、回収してきた後に割り箸やお手拭きなどが弁当ガラの中に入れ込まれていることが判明すると、かなり困りますね。

―捨てる側としては、弁当の中に割り箸とお手拭きを入れて始末よく片付けているつもりだと思うのですが、実は問題なのですか。

由勝氏 弁当ガラはプラスチック製が多いですが、お手拭きは紙、割り箸は木ですから、それぞれの素材で処理の仕方や処理業者さんが全く違うんですね。プラスチックの処理業者さんに割り箸が紛れ込んでいたら「どうして回収してきているの?」という指導が入ります。排出業者さんが特定できれば営業が分別のお願いをしに伺いますが、特定できなければ一つひとつ蓋を開けてみて、我々で分別しなければなりません。

由泰氏 ほかに、不燃ごみとして回収する廃プラスチックに金属が混ぜられていることも多いので、それらをひたすら取り除く、という作業にも時間を取られますね。このようにして純粋な廃プラスチックが集まれば、こちらで一次破砕をした後、専門業者さんにRPF化してもらい、製紙工場やセメント工場燃料として使われた後、最終的にはセメントの材料になっていきます。また一部の廃プラスチックは圧縮梱包し、化学工業会社さんで水素を取り出すといった処理でケミカルリサイクルをします。

*RPF化…廃棄物固形燃料化のこと。廃棄物から固形燃料を製造する技術を指す。

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―不燃ごみの処理は、破砕と圧縮の2パターンあるのですね。どのように分けているのですか?

由泰氏 基本的には破砕をし、残りを圧縮する形です。ただ、破砕してセメント会社に出荷すると工場燃料として使用されるサーマルリサイクルになりますので、圧縮量を増やし、環境負荷の低いケミカルリサイクルを進めていきたい考えではあります。

コロナ禍を経て廃棄物処理業界はどう変わった?

―コロナ禍は事業に影響を及ぼしましたか?

由泰氏 第1波から第2波は回収量が半分ほどになってしまったのですが、今は8割ほどに回復しています。テレワークが可能な会社さんが多く入居しているオフィスビルで、ごみの排出量がぐんと落ちた印象ですね。一方、変わらずに出続けている小規模なオフィスビルなどもあったりします。

由勝氏 古紙も減りましたよね。今はデジタルでなんでもできる時代ですから。

―もともと紙はなくなっていくだろうと言われていましたが、コロナ禍によって5年ぐらい先取りしたような感覚がありますね。

由勝氏 とくにミックスペーパーといわれている、コピー用紙などの紙類は廃棄物としてほとんど出なくなっています。その代わりといっては何ですが、ダンボールはすごく増えています。古紙を回収してきたら自社で圧縮までするのですが、これまでミックスペーパーを400tほど圧縮していたところ、コロナ禍で250tまで落ちた一方で、ダンボールがかなり増えてきています。

―業績的にも厳しかったのでしょうか。

由勝氏 ですので雇用調整補助金を受けました。廃棄物が半減したのでその分の回収車を走らせないようにして休みを増やし、補助金で賄うという方法です。これによって売上は落ちましたが、一定の利益は確保できました。

―処理の価格などの調整もされたのですか?

由勝氏 それはしていないですね。我々は集めて処理したものを、セメント会社やRPF化などの処分をしてくれる会社に持ち込むのですが、コロナ禍前は廃プラスチックの処理施設が満杯だったので処理代金も高くなっていきました。コロナ禍になり、全体的にごみの量が減ったので処分場のキャパシティも増えましたが、処分費は変わらずに上がったままです。

―コロナ禍以前は処理施設がいっぱいだったんですね。これは、どういう状況だったのですか?

由勝氏 以前は廃プラスチックなどを中国に輸出できていましたが、2017年12月に輸出禁止が発表され、自国で処理する必要が出てきたからですね。廃プラスチックにもさまざまな状態があって、品質のいいものはいろんなリサイクル方法があるけれど、品質の悪いものは廃棄せざるを得ず、焼却炉などに大量にいってしまったという形です。

参考:中国を変えた一本の映画

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廃棄物回収業界におけるひずみと課題

―事業系一般廃棄物*について、東京都では分別の基準がしっかり決まっているのですか?

*事業系一般廃棄物…企業から出る廃棄物のうち産業廃棄物に該当しない廃棄物が事業系一般廃棄物となりオフィスなどで日常的に出る生ごみや紙くずなどを、特例として自治体が運営する家庭から出る一般廃棄物と同じ施設で処分して良いことになっている。

由泰氏 決まっています。基本的には生ごみ・紙くず・木くずぐらいしか事業系一般廃棄物として処分場に持っていけませんので、そこに金属やプラスチックなどが混ざってしまっていると、処分場から「どうしてこんなものを回収してきているのだ」と指導されることになります。

―家庭から出る一般ごみでは、プラスチックも可燃の対象になっている自治体があります。事業系ごみと家庭ごみとで分け方が異なるのですね。

由泰氏 そうなんです。家庭から出るごみは基本的には何でも可燃ごみとして処理しても大丈夫なのですが、事業系廃棄物はそうではない。だから、同じ清掃工場*に持っていった際にも、家庭ごみは廃プラOKなのに対し、我々の回収してきた廃棄物は定期的に展開検査があり、中身をしっかり確認され、廃プラが入っていたら「これは産業廃棄物でしょ」と言われてしまう。廃棄物処理法上における、ひずみみたいなものがあるように思います。

*清掃工場…自治体が運営するリサイクル可能な資源の分別や可燃ごみの焼却処分などを行う施設。

―たしか、弁当ガラは産廃ではなくて一般でもいいのでは、なんて議論があったように記憶しているのですが……。

由勝氏 そうですね。事業系ごみとして出されているとはいえ、組合が「飲食に関わることなのだから」と動いて、“弁ガラ受け入れ”ができました。ただ、一般廃棄物としてすんなり処理してもらうことはできず、弁当ガラの受け入れ先は江東区にある中防不燃ごみ処理センターのみ。しかも食べ残しがあったり割り箸が混入していたりするのを一つひとつチェックされ、受け入れ不可となる場合も多いので、ほとんどの回収業者は産業廃棄物として処理している現状です。

―回収業者さんのみならず、廃棄物の排出元である企業がこういった事実を知り、積極的に分別する必要がありそうですね。

由泰氏 我々もあまりにも分別ができていない廃棄物に関しては、回収しない、ということで意思表示をしていますが、当社のように意思表示している回収業者さんはまだまだ少なくて。たまに「前の業者さんはこの状態で持っていってくれたよ」なんて言われることもありますし、実際そちらのほうが負担感がない分重宝されていたりはするので。その部分に関しては、業界全体として同じ方向を向けていないなと感じています。

―そういった意味では、今回私たちのメディアに出てくださったり、消費者にも見やすいHPを作られていたりと、発信することの大切さを感じておられるのかなと思いました。

由泰氏 自分たちが黙って作業しているだけでは、この先のリサイクルを推し進めるのは難しい段階にきていると思います。リサイクラーさん、当社のような回収業者、そして排出元さんが三位一体となって進めていかなければいけないですし、そのためには積極的に発信することが不可欠だと考えています。そうして意識を広めることで、お客様のほうから「この業者さんはこの状態で回収しているけれど、大丈夫?」と相談をいただくまでになればなと思っています。

(後半へ続く)

2022.12.06
取材協力:株式会社 首都圏環境美化センター
https://www.shutoken-env.co.jp/