サステナブルな賃貸マンションを目指す不動産経営者のビジョン 前編

photo akira nakamura

2022年12月、東京都大田区北千束に「地球にも人にも優しい」というコンセプトの賃貸マンションが完成しました。

一般的に賃貸マンションの不動産収入と言えば、サラリーマンの副業のひとつ。その様な観点から多くの賃貸マンションは住居人の住み心地やサーキュラーエコノミーへの配慮を重視するというより、いかに効率的な収入源と出来るかが大切な運営軸です。

しかしながら、今回「地球にも人にも優しい」というコンセプトに基づき、オーナーと建築士が骨を折った賃貸マンションがcocoon oookayama(コクーン大岡山)。なぜこの様なコンセプトとなったのか?どの様な工夫をしたのか?マンションオーナーのワッキーさんと、建築を担当したスタジオA建築設計事務所 代表取締役 内山 章(あきら)さんにお話を伺いました。

目指すは日本一サステナブルな賃貸マンション

-まずお二人のプロフィールをお聞きしても良いですか?

ワッキー氏 はい、普段はIT企業に勤めています。不動産運営は副業としてやっています。内山さんとは自宅外壁のカラーコーディネート含めて長い間お世話になっていたのですが、設計・施工監理という意味では今回初めてご一緒させて頂きました。

内山氏 今年で25年目になる設計事務所(スタジオA建築設計事務所)が事業の主体です。一般の設計事務所ですが、特に断熱とデザインにこだわりを持って設計を行っています。5年前からは「エネルギーまちづくり社」を設立し、行政等に対して、建物とまちづくりに関わるエネルギーのコンサルティング業務をメインで行っています。工務店さんとエコハウスの開発だけでなく、行政とともに税金で建てられる庁舎などの公共施設のエネルギー政策策定だったり、自治体の建築だったりを幅広く動いています。

写真右 マンションオーナー ワッキー氏
写真左 スタジオA建築設計事務所 代表取締役 内山 章(あきら)氏

-今回完成したcocoon oookayamaはサステナブルな賃貸マンションを目指したと聞きましたが、どの様な特徴がありますか?

ワッキー氏 cocoon oookayamaは「地球にも人にも優しい」デザイナーズマンションを目指して建てました。特徴としてはエアコンをあまり使わなくても快適に過ごせるよう一般的なものより断熱材が多く入っていて、サッシはペアガラスを使った樹脂サッシで作られています。このペアガラスのサッシは遮音性も高いので目の前の道路に自動車が通っても走行音がほとんどせず、快適に過ごせると思います。

またフローリングには人肌に馴染みやすい無垢材を使用しています。大岡山より徒歩5分というアクセスの良さや洗足池も近く、室内は抜群な住み心地です。それと何より内山さんが設計したデザインの格好良さが特徴ではないでしょうか。

-どうしてこのコンセプトで賃貸マンションを建築したのでしょうか?

ワッキー氏 元々数年前からサーキュラーエコノミーに興味を持っていて、本業の方でも取り組もうとしています。子どもが生まれてからは、より良い地球を残すというのは私たちの務めではないかと思って、個人としても地域の人間としても取り組み始めています。そんな風に思う前より内山さんとはお付き合いさせて頂いてるのですが、内山さんの断熱についての知見を聞いてからは益々一緒にやりたいと思っていました。

重要視される断熱性能

-以前のインタビュー時にもこれからの住宅には高い断熱性能が必須とご説明頂きましたが。

内山氏 そうですね。前回のインタビューでは住宅全般における断熱性能をお話しましたが、今回はそれを賃貸マンションで十二分に活かしました。従来の賃貸マンションとは違い、エアコンの使用量が少なくて済み、エネルギー効率が良いです。住人にとっても光熱費がかからないというのは嬉しいはずです。

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-この様な断熱性能が高い賃貸マンションは珍しいですか?

内山氏 賃貸用住宅で断熱をしっかりやるというのはまだ珍しいですね。最近ちらほらと聞くようにはなりましたが、実際に建てようとすると特に資金面で、様々なハードルがあるので難しいですね。

-それでも断熱性能を上げたということはメリットがありますよね?

内山氏 端的に言えば、住人は住み心地の良さを知ってしまうので引っ越したくなくなります。そうやって長く住んでもらうことで、オーナーさんは賃貸マンションを空室率を低く見込んで運営することが出来ます。空室率が下がる分安定して家賃が入るということですから、断熱材など付加的な初期投資にも見合った融資の返済計画を作れます。賃貸マンションを建てる際はコストを可能な限り削って回転させるのが一般的な考え方ですが、それとは逆行したやり方です。

photo akira nakamura

住人・オーナー共に良い部屋づくり

-他、細部で住み心地にこだわっていますね

ワッキー氏 はい、私もペアガラスについては内山さんからの説明を理解していたのですが、実際に出来てみて感動しているところです。窓の開閉で空気が変わるというか、都会に居ながらこんな静寂の空間はなかなか無いですよね。

内山氏 快適さもですが、衛生面でもメリットがあります。ペアガラスにする事で結露がなくなります。一般的なアルミサッシだと、冬場に朝起きると窓がびしょびしょになっているじゃないですか。それがほぼなくなります。そうするとカビも生えてこないので衛生的ですし、部屋の傷みも抑えられるので退去時のクリーニング費も安くなります。この点はオーナーさんのメリットです。その観点で言うとフローリングも同じです。

-なるほど。窓のサッシよりフローリングの傷を治す方がコストが掛かって面倒なイメージがありますが。

内山氏 無垢材って一枚一枚、木目もいろんな方向に向いているので個性が合って傷がついても目立ちづらいですし、イメージよりも安価な材料なんです。入居時に傷がついていると取り替えてくれと言われるんですが、そういった事が少ないのはオーナーさんにとっても良いです。

photo akira nakamura

-今日はかなり気温も低いですが、こうして座っていても底冷えしません。

内山氏 はい、無垢材のフローリングは熱伝導率が低いので冬場は冷えづらく、夏はひんやりしていて暑さの影響を受けづらいです。こういった点も住みやすさに繋がると思います。

地域に根付いて長く住んでもらうサステナビリティ

-なぜこのような特徴ある賃貸マンションを建てたのですか?

ワッキー氏 建築士ではないので専門性はないですが、内山さんのお力を借りて、入居者の方が長く住みたい家を作ることと、その過程で地域と関わりを持ってもらう事を私なりのサステナビリティの理想としました。その為に賃貸マンションの更新期間を一般的な2年ではなく、4年にしたという工夫も小さな事ですがあります。そうやって地域全体で良い循環を新しい住民の層を取り込みつつ回していきたいです。

-ワッキーさんは地域作りへの取り組みをしていると以前お聞きしましたね。

ワッキー氏 まさにそれです。コロナ禍になって私自身が地域との関わりが重要だと、特に子育てをするなかで感じました。どの地域にもあることだと思いますが、「元々地域に住んでいらっしゃる方の層」と「賃貸マンション住まい等で新しく引っ越してきた方の層」との関係性を生む機会は少ないと感じています。特に東京都は顕著だと思います。ですが、お互い知り合ってみたら個性的で面白いマッチングやご縁があるはずです。何かできることはないかと考え、「ふらっと大岡山♪」という地域のオンライングループをfacebookで運営したり、月に1度地域でゴミ拾いイベントを開催したり、今後も地域で出来る事を模索中です。

-それは素晴らしいですね。インタビューご協力ありがとうございました。

(後編はこちら)

サステナブルな賃貸マンションを目指す不動産経営者のビジョン 後編

2022.12.09

インタビュー協力:ワッキー氏(cocoon oookayama オーナー)

内山章氏(スタジオA建築設計事務所 / エネルギーまちづくり社