日本が抱えるごみ問題を認識しよう。捨てる概念を変えるLoop

Loop Japan合同会社 代表 エリック・カワバタ氏インタビュー

Loop Japan合同会社 代表 エリック・カワバタ氏インタビュー

ペットボトル、食品用パック、調味料のボトル、洗剤の容器。私たちの身の回りには、プラスチック製の使い捨て容器が多種多様に用いられています。プラスチックはさまざまな形に変化し、安価で、使い勝手がよい一方、石油資源が原料であることや、海・土・大気汚染の大きな要因でもありサステナビリティを考える上ではデメリットも多い素材です。Loop Japanは、そのようなプラスチック容器を少しでも減らすべく自治体や企業とパートナーシップを組み、廃プラスチックを使用しないリユースシステムを推進する企業です。代表のカワバタ氏に、Loopの仕組みや日本が抱える資源循環の問題、世界の容器のサーキュラーエコノミー事情についても伺いました。

エリック・カワバタ / Loop Japan合同会社
日本代表。モルガン・スタンレー、ドイツ銀行の法律顧問や投資銀行役員、サステナビリティ関連のNPOなどを経て、2013年米国テラサイクルに入社。テラサイクルのアジア太平洋統括責任者とLoop Japanの日本代表、米国Loopのアジア太平洋統括責任者を務める。

使い捨て容器をなくしていく仕組み

―本日はよろしくお願いします。はじめにLoopの仕組みから教えていただけますでしょうか

店舗で一般的な商品と同じようにLoopの商品を購入していただくのですが、この時に商品代と容器代を支払っていただくんですね。家に持ち帰り全て使い切ったら、使用済み容器を販売店に設置している返却ボックスへ入れていただきます。この時容器の個体識別用にQRコード付きシールを貼るので、容器が回収された段階でどなたが何を返却したかがすべて把握できます。その後アプリを通じて先に支払っていた容器代を返却。使用済み容器は検品、仕分け、洗浄を経て、工場で中身を充填し、また店頭へと並びます。

日本では小売りと通販の両方を展開しており、通販も同じような仕組みで動いています。その際の配送には「Loopトート」というバッグを用い、段ボールや緩衝材など宅配時の梱包材削減に努めています。

―Loopはもともと海外で展開されていたサービスだと伺いました。

はい、2019年5月にアメリカ・N.Y.とフランス・パリで同時にスタートしました。その後2020年7月にイギリスでサービスを開始し、2021年2月にカナダ、同年5月に日本での展開が始まりました。今後オーストラリアでもスタートする予定となっています。

日本では現在は関東のみでのサービスとなっており、58店舗のイオンで展開(※2022年3月時点)しているのですが、今後は少しずつ広げ最終的には日本全国で展開できればと考えています。

日本はごみに対する問題意識が低い

―「捨てるという概念を捨てよう」をミッションに掲げておられますが、特に日本におけるごみ問題の課題についてはいかがお考えでしょうか?

ごみについて、皆さんそれほど意識していないのではないかと思っています。私自身、環境問題を仕事にするまで日本のリサイクル率は80%以上だと聞いていたので、Loopは日本には必要ないだろうと思っていたんです。

しかし、実に66.8%の廃プラスチックは日本から諸外国へと輸出されていますし、輸出する行為も「リサイクル」の定義に入っていると知って唖然としました。普通リサイクルといえば循環型の仕組みをイメージしますが、内実はまったくそうではない。今は中国への輸出が禁止されましたが、それまでは中国へのごみの輸出量世界一位がアメリカ、二位が日本でした。そして、現在も東南アジアなど一部の国へごみの輸出は続いています。

日本で廃プラスチックを処理する際には熱回収が主になり、CO2が発生する。世界の焼却場の約30%が日本にあることをご存知でしょうか。それほどごみが多いのです。幸い日本の焼却場は850℃以上で燃やしているので比較的クリーンな排気ではありますが、それでもCO2は確かに排出してしまいます。

―家庭でごみを分別したら必ず循環型のリサイクルがなされているものだと思っていましたが、全くそうではないのですか。

そうなんです。ペットボトルにはリサイクルのマークが刻まれていますが、必ずしも私たちがイメージする循環型のリサイクルではありません。

しかし、これは悲観すべきことだけではないと私は思います。というのも、日本人には「これは問題である、どうにかしなければならない」となった場合はすぐに行動に移す気質があると思っているからです。かつて、横浜がごみによってものすごく汚れていた時期があったのですが、地域の人や企業が行政と組んで街を綺麗にする取り組みを始めたら、あっという間に美しく変わったこともありました。

先日、ヨーロッパを中心に、日本やアメリカなど先進国が加盟する「OECD」がリサイクル率について調査したのですが、日本のリサイクル率はたった19%であると示されたんですね。これは、34カ国のうち下から5番目の数値です。日本独自のリサイクルの定義ではなく、世界的な基準で見ると日本はリサイクル率がすごく低い。このことを国もようやく認めましたので、世の中にも広まっていくでしょう。ですから、かつての横浜の事例のようにこれからきっと変わっていくに違いないと希望を持っています。

最初の一歩を踏み出すための“かっこよさ”

―Loopはまさにその流れにフィットする仕組みですね。改めて、ビジネスとしての可能性についてもお伺いしたいです。

既存の製品と価格的には大きな差がないですし、日常的によく利用するスーパーマーケットで展開しているのでとても使いやすいと思っています。日本では牛乳瓶やビール瓶などにおいては循環型システムがすでに確立していますので、違和感も比較的ないと考えています。

とはいえ、まずは試していただくことが必要なので、手に取りたくなるような“見た目のかっこよさ”は意識している部分です。環境問題についてあまりピンときていなくても、つい使いたいなと思えるようなデザイン性を大切にすることで間口を広げ、リユースに挑戦していただく。その後、使い続けるうちに利便性に気づき、実は日本には深刻なごみの問題があるのだと認識いただく。そうすることで世の中が少しずつ変わっていくと思うのです。

―Loopはごみ問題を気づくきっかけにもなるということですね。容器のデザインはどのようにして決めているのですか?

10回以上繰り返して使える容器かどうか、リサイクルしやすい素材かどうか、洗浄しやすいかどうか、という3つの基準を設けていいます。それをクリアすれば、どのようにデザインするかはメーカーにすべてお任せしています。

―洗浄や回収などのコストについてはいかがですか?

洗浄のコストはメーカーに負担してもらっています。ごみ問題について「なんとかしなければならない」と考えているメーカーは多く、私たちの思いにも多くのメーカーが賛同していただけています。現在30社以上とパートナーシップを結び、より良い未来のために共に歩んでいます。

日本と欧米とで異なる消費者の声

―日本の企業も確実に問題意識を持っているのですね。

そうですね。私がすごくいいなと思うのは、現状では「ごみ問題を解決せよ」という消費者の声はそれほど上がっていないのにも関わらず、企業が積極的にこの問題について発信し変えなければならないという意識が根付いていることです。

海外、特にヨーロッパの消費者はかなり声高に叫んでいて、その声に反応してごみの対策を行なっている企業が多い印象ですので。

―ヨーロッパの消費者はごみ問題への意識が高いのですか?

特にフランスやイギリスでは、ニュースやドキュメンタリーなどメディアでも大々的に扱っているので問題意識が高いですし、実際に消費者が企業に対してアクションを起こしています。

ある製菓メーカーが直面した、こんな話があります。そのメーカーは以前から「ポテトチップスの袋をリサイクルできるようにします」と公言していたのですが、いつまで経っても始まらなかったんです。そのことに消費者が怒り出し、みんなで空き袋を集めて段ボール箱に詰め、メーカーに送り返すというアクションが広まりました。そのうち、わざわざ段ボールに詰め込まなくても、袋に住所が書いてあるのだから郵便ポストにそのまま突っ込めばいいじゃないかと言い出し、実際に袋がポストに大量投函されるようになった。これに対し郵政省が怒り出し、メーカーが対応せざるを得なくなったんです。

ヨーロッパはこのような形でさまざまな企業が、いわば「やむを得ない」形でごみ問題への対応をしている実情があります。しかし日本はまだそこまでではありませんよね。課題はもちろんあるけれど、会社が先だって対策をしていることを鑑みれば今後がらりと変わる可能性もあるのです。

―変わる兆しが少し見え始めている、そんな中でカワバタさんが思い描いている未来を改めて教えていただきたいです。

リサイクルやリユースに向いていない廃プラスチックはありますので、すべて置き換えるのは難しいと思います。けれど、確実にリサイクル・リユースできるものは存在している。だからこそ、まずは廃プラスチックをとことんまで減らしたいです。飲み物や調味料など日常生活で使い切る頻度の高いもの、言い換えればすぐにごみになるものから、Loopのシステムを導入していただくことを願っています。

取材協力:Loop Japan合同会社