パッケージが食べられる!?余剰野菜や海藻から生まれた食品ラップとは

食品の保存に使われている食品ラップ。スーパーに並んだ食品が包まれているパッケージ。これらが環境に良くないことはわかっていても当たり前のように毎日使われて廃棄されている現実に、疑問を抱き始めている方も多いのではないでしょうか。

2020年7月に発表された調査レポート「Breaking The Plastic Wave」によると、2016年に海に流出した1100万トンのプラスチックのうちの80%が食品パッケージだと推定されています。これは早急に対策を進めるべき重大な課題と言わざるを得ません。

そこでこの記事では、自然界で生分解される素材から作られた食品パッケージについて紹介すると共に、食品パッケージによるプラスチックの廃棄物汚染問題について考えていきたいと思います。

食品を保存しながら、自然環境を守る

食品用ラップによる深刻な環境汚染問題

食品を保存したり温め直したり、おにぎりを握ったり…食品用ラップフィルムは現代人の食生活においてなくてはならない、利便性に富んだ便利アイテム。しかし、環境問題は日を追うごとに深刻さを増し、もはや待ったなしの状態にまで追い込まれています。

食品用ラップフィルムの使用には、海洋汚染に関わる問題があります。

国連環境計画(UNEP)の調査によると、一度海に流れてしまったプラスチックゴミは朽ち果てるまで1000年はかかると推測されています。その前にウミガメなどの海洋生物が誤って口にしてしまうと、窒息や消化不良を起こし最悪の場合死に至ってしまいます。プラスチックが粉砕されてマイクロプラスチックになってしまうと、もう回収することはできません。

UNEPの調査では、1950年以降に生産されたプラスチックは83億トンを超え、63億トンがゴミとして廃棄されたそう。リサイクルされたプラスチックはわずか9%にすぎず、回収されたプラスチックゴミの79%が埋め立てあるいは海洋等へ投棄されました。この現実を受け止め、私たち一人ひとりが使い方を考え直さなければ、取り返しのつかない事態になることは免れないでしょう。

日本においては家庭で使われるプラスチックのほとんどが焼却処理されるため、海洋流出のリスクは比較的少ないと考えられています。

しかし、特に人口の多い関東圏の海岸に実際に行ってみると、思っているより多くのプラスチックが浮遊しているのが確認できるでしょう。これは、プラスチックの使用量が過剰である証と言えます。

新型コロナウイルスの影響はこんなところにも

一方で、海洋汚染などの原因となるプラスチック製品の利用を減らす取り組みが、新型コロナウイルスの影響で後退しつつあります。在宅時間が増えた2020年は、家庭での調理や衛生意識の高まりにより、一般家庭のポリ袋・ラップ類の購入額がなんと前年比8.3%も増加。環境省の調べによると、毎年海に流出するプラスチックごみのうち2〜6万トンが日本から発生したものだと推計され、このままでは2050年の海は、魚よりもごみの量が多くなると言われるほど問題は深刻化しています。

インドネシアで生まれた海藻パッケージ「Biopac」とは

この半透明でカラフルなパッケージは、インドネシア生まれの「Biopac」。100%自然界で生分解される素材「海藻」でできており、食べることも可能だというから驚きです。原料となる海藻は、インドネシア原生のもので、年中収穫できるものだそう。もともと海藻なので魚も好んで食べるうえ、時間と共に海水に溶け込みます。土での分解にかかる時間は5~12日。

開発のきっかけは洪水だった

インドネシアは、海洋に流出したプラスチックごみの量が2番目に多い国。実に90%のプラスチックが海に流れ出ており、その70%が食品パッケージです。漁業マーケットの25%はプラスチックで汚染され、世界的に見てもかなり深刻な状況と言わざるを得ません。

神々の島か、ゴミの島か

「Biopac」の開発のきっかけは、雨季になると必ず発生する洪水。洪水は一見どうすることもできない現象と捉えがちですが、異常な頻度で発生する洪水は雨そのもののせいではないことがわかったというのです。それはなんとパッケージのゴミのせい。ペットボトルやヌードルのパッケージが排水の流れを止め、川を浅くしていることが大きな原因でした。

「パッケージのゴミを取り除くことができれば、洪水の発生率を下げることができる」…こうしてBiopacの開発が始まったというわけです。

海藻農家への貢献も

群島国家であるインドネシアでは、海藻は豊富に収穫できますが、使い道がなく供給過剰となり、海藻農家の貧困が問題に。Biopacのプロジェクトは、海藻の養殖を通して海岸付近に暮らす海藻の農家を支援しています。具体的には、質の高い海藻を栽培するためのノウハウの共有、海藻を乾かすための台の提供、需要の確保など総体的なサポートをすることで、地元への貢献を実現しているのです。

自国に豊富にある資源を使って環境問題を解決に導き、さらに地域への貢献も叶える。同じ群島国家である我が国においても、参考にすべき点は多いのではないでしょうか。

余剰野菜から作られた食べられるラップ「SCOBY(スコビー)」

こちらは、ポーランドで開発された、100%プラスチックフリーの食べられる食品ラップ「SCOBY(スコビー」。ポーランドのエコ専門家たちが「MakeGrowLab」というチームを結成し、余剰野菜から開発されたラップです。使用後は100%有機肥料となり、自宅で有機肥料として再利用することもできるほか、食べることも可能。賞味期限はなんと2年間だそう。

もとはデザイン学生だったRoza Januszさんが大学の卒業制作として提案したのが始まり。当初は紅茶キノコ(紅茶や緑茶、酵母とバクテリアからできる発酵飲料)に砂糖と他の有機物質を加えるなど、比較的簡単な化学反応で作るものでしたが、現在では地元農業で余った野菜を使って作られています。

ラップとしての機能も優秀

環境に優しいSCOBYですが、ラップとしての機能性も十分。従来のプラスチック製ラップと比較すると、SCOBYは柔軟性、耐性や耐水性に優れ、酸素をしっかりと遮断できるため食べ物を新鮮な状態のままに保つことができるそうです。バイオの改革とも呼べるこの製品はさまざまな海外メディアでも紹介され、世界中から注目を集めています。

まず私たちにできることは何かを考えよう

プラスチックはリサイクルすべきものという考えが定着している私たちにとって、「食べること」によってゴミそのものを出さないという発想は新鮮そのもの。しかし、この発想の転換はゴミの排出を削減できるだけでなく、リサイクルに伴う二酸化炭素の量も削減できる新たな一手になる可能性を秘めています。

比較的小さな企業や団体がこうしたイノベーションを商品化することは容易いことではありません。国や私たち消費者が、開発に取り組む企業や団体をどのような形でサポートすることができるのかが、これからの大きな課題になるのではないでしょうか。

まず私たちが今すぐできることは、日々の食品ラップやパッケージの消費を出来る限り抑えること。蜜蝋ラップやプラスチックフリーの保存容器など、周りを見渡せば選択肢はたくさんあるはずです。より環境に優しい社会の達成に向けて、小さな一歩を踏み出してみませんか。