「日本のエネルギーは日本で作る」廃棄物で動かすRPFボイラー

日本の製造業に携わる人々の頭を常に悩ませるものの1つが、原油価格です。石油であれガスであれ、天然由来のエネルギー資源は輸入に頼らざるを得ず、国際情勢によって価格が変動します。特にコロナ禍によって海外とのパイプが不安定になったいま、原油価格が大きく上昇傾向にあり各メーカーは製品価格を維持するために日々苦労をしています。

そんな中、岐阜県の食品メーカー「秋田屋フーズ」は原油依存の現状から脱却を果たすべく地産地消エネルギーへの転換に舵を切りました。
今回は秋田屋フーズ 関市洞戸工場に新設された、廃棄物を燃料とするRPFボイラーについて「株式会社マルエイ」アグリ・バイオエネルギー事業部 髙木氏にインタビューします。

高木翔平 株式会社マルエイ アグリバイオエネルギー事業部バイオグループ リーダー/
岐阜県岐阜市に本社を置き、LPガスや都市ガス、太陽光発電、新電力など総合的なエネルギーの販売を行う。
7年前より新規事業部としてバイオグループを立ち上げ、木質バイオマスや廃棄物由来の燃料を活用した省エネルギーの提案業務を中心に展開している。

廃棄物を燃やすRPFボイラーとは

―マルエイさんの事業内容を簡単に教えて下さい。

弊社は元々LPガスを中心に扱っており、2022年で137年を迎えます。
燃料販売を生業としていましたが、昨今の脱炭素の流れや、省エネ機器が全国に浸透してきた背景がありLPガスの需要がどんどん減っていくなか、エネルギーの多様化に合わせた事業をやっていかなければならない。そこで、太陽光発電事業をはじめ様々な事業展開をしてきました。
その1つとして椎茸の栽培といったアグリ事業と、廃棄物をいかに有価な燃料にできるかという所でバイオ事業が立ち上がり、アグリ・バイオエネルギー事業部ができました。

私が所属するのはこのアグリ・バイオエネルギー事業部のバイオグループで「地産地消のエネルギー事業」を理念として持っております。具体的には、間伐材の丸太を燃料にする木質バイオマス系ボイラーであったり、建築廃材を燃料にする廃棄物由来のボイラー、そして今回設置をしたRPFボイラーの設置です。

新設されたRPFボイラー棟

―今回この工場に新設されたRPFボイラーとはどんなものですか?

弊社が導入したのは「小型回転型燃焼炉RPFボイラーシステム」と言います。
「RPF」とは産業廃棄物を原料とした固形燃料のことで、産業廃棄物のうち、再生不可能な古紙や廃プラスチックを主原料としています。これを燃やしてエネルギーを発生させているわけですね。

廃棄物を固めたRPF燃料

RPFボイラー自体は前から日本にあるんですが、大型のものが主流で巨額の建設費用がかかるため、超大手企業しか導入できずあまり浸透してこなかったという経緯があります。なので、地方の企業が設置するのはなかなか難しかったわけですね。しかし、最近になってposcoさんという韓国の大手製鉄メーカーが小型のRPFボイラーの開発に成功したため、我々はそれを購入させて頂き導入に至りました。

―このボイラーは何が出来るんでしょうか?

ここは秋田屋フーズさんの工場の敷地なんですが、今建設しているRPFボイラー設備全体は弊社の所有物です。また、燃料であるRPFも弊社で買っています。その代わりにこのボイラーで作った「蒸気」をパイプを通じて送り、秋田屋さんに販売させて頂くというビジネスモデルになります。

製造で使う「蒸気」を販売している

秋田屋フーズさんはここ洞戸工場で、OEMなので名前は伏せますが、ある有名ゼリー飲料を作っているんですけれど、工場の中で原料を溶かしたり滅菌したりする際に大量の蒸気が必要となります。今は重油ボイラーで蒸気を炊いているわけですが、このRPFボイラーで作った蒸気を買って頂くことで今よりもクリーンなエネルギーで、なおかつイニシャルコストがかからないというスキームができ、導入に至りました。

―秋田屋フーズさんがこれを導入するメリットは?

そうですね、お客様にとって色んな利点があると思いますが…やはり一番は経済的なメリットです。それは単に燃料費が安いというだけではなく、石油やガスというのは価格が乱高下するんですよね。
我々もガス会社ですので価格変動の影響は常々感じていますが、海外メジャーから買っている以上それを受け入れざるを得ません。

そこを脱却するためには「日本のエネルギーは日本で作る」ということが絶対条件だと私は思っていましたので、もちろん安いかどうかも大事ですが、安定した価格で安定した量のエネルギーを供給することがお客様にとって最も大事だと思っています。特に今年ですと1月時点といま(12月時点)の原油価格が全然違うんですよね。倍近くのエネルギーコストがかかってしまっているので、そういったところを抑えていく必要がありますし、実際にそこを魅力に感じて頂けたのかなと思っています。

ボイラー設備。中に回転型燃焼炉が見える

―RPFの燃料としての性能はどうなんでしょうか。

廃棄物をリサイクルして燃料にしているので、環境に優しいというのがまず1つです。次に燃料としてですが、発生する熱量、つまりカロリーで見ると重油は9,000~9,300キロカロリーと言われており、一方のRPFはおよそ6,000キロカロリー位で、これは灯油とだいたい一緒くらいです。
なので重油と比べると大体1.5倍くらいの差があるんですが、単価が全然違うので価格面のメリットはかなり大きいと言えます。

地産地消のエネルギー事業

―設置に至る経緯を教えて下さい。

もともと弊社のグループ会社「丸栄石油」さんがこちらに重油を納入していたんですが、重油ですとどうしても他社との競合になってしまうので、何か違う切り口が出来ないかとずっと考えていました。その解決策として、廃棄物由来の燃料を使った今回のスキームを考えてご提案させて頂いた形になります。

また、私自身も廃棄物を有効活用してエネルギーにしていく事が日本にとって必要じゃないかなという感覚がありました。というのも日本は資源がない国なので、ずっと重油やガスを海外から購入してきた経緯があります。そこの部分を地産地消のエネルギーに転換し、エネルギーの地盤を固めていくことが日本経済にとって必要ではないかと。

それで重油に代わる燃料を色々と探していたところ、RPFに行き着きました。ちょうどタイミング的にも2017~2018年、中国への廃プラの輸出が出来なくなって国内にプラスチックが余ってしまった時期でしたね。
先程申し上げたように国内のRPFボイラーは大企業しか設置できず、RPFの製造業者さんとしても出し先が限られていたようで、非常に前向きに進めることが出来ました。

―RPF燃料の製造業者さんがいるんですね。

はい。同じ岐阜県内の産廃業者さんから購入させて頂いています。それに加え、ボイラーで使うボイラー水も元から秋田屋フーズさんで使っている井戸水をそのまま使用させて頂いていますので、全部が岐阜で完結しているという意味で「地産地消のエネルギー事業」という風に謳わせて頂いています。

自然豊かな場所に建てられた洞戸工場

―RPF燃料の仕入れに関して、地産地消も重要なファクターですか?

そこは絶対的に重要なポイントだと思います。そこで輸送費がかかってコストが上がってしまったら何にも意味がないですから。なので、ゆくゆくはこの事業を全国的に広げていきたいなと思っていますが、しばらくは近隣、例えば東海三県ぐらいで収めていという形で考えています。
今はたまたま岐阜県を中心に進められているんですが、今後違う土地で同じような形でビジネスをしたい方が出てきた場合はその地元でパートナーを見つけていく必要があるんじゃないかなと思います。

―RPF製造業者さんは他にどんな所に卸しているんですか?

我々が買っているRPF製造業者さんは岐阜県内で20年以上RPFを作っていらっしゃいます。しかし大型RPFボイラーを設置できる企業が少なくてですね、大手の製紙会社さんが岐阜・愛知に何件かあって、そこにRPFを納品をしているんですが、そこが例えば「メンテナンストラブルで炉が止まりました」となると売り先がなくなってしまう。そうすると原料である廃プラの仕入れもできなくなって、事業が止まってしまうような状況になりかねません。
それに、RPFをもっと売りたいと思っていてもエンドユーザーがなかなか増えないので業者間でもお客の取り合いみたいな状況があったそうで。

そこで今回のような小型RPFボイラーが複数あると有事の際に臨機応変に対応できたり、継続的に燃料を買ってもらえるというメリットを業者さんも感じていただけたようで、非常に協力的に動いて下さいました。

―聞く限り「小型」というのがポイントになってきそうですね。

そうですね。やっぱりRPFボイラーの納入に一番ネックだったのはサイズ感と金額の部分だと思うんですよね。サイズが大きければ大きいほど建築費用がかかってくるので、とにかく小型にしていく必要があったというのがRPF業界、ひいては廃棄物系のボイラーの課題だったんです。
そこは韓国も同じ問題を抱えていたので、今回poscoさんが小型ボイラーを開発に成功して、我々が日本で初めて導入したという流れになります。

小型の回転型燃焼炉

建設費用でいえば、従来のRPFボイラーの建築費用は何十億円じゃ足りないくらいなんですが、今回は総工費4億円で作ることが出来ました。現在は試運転しながら調整する段階なのですが、コロナ禍で韓国の技術者さんが来られないため国内の技術者さんに助けていただいて2月から本稼働できるかなという形で動いています。

―今は重油で稼働していますが、本稼働したらRPFボイラーに切り替わるんですか?

蒸気量としては工場全体の100%を賄えるだけのパワーを持ってるんですけど、メンテナンスの可能性があるので既存のボイラーは残した状態で、メインをこちらにして併用する形になると思います。本稼働すると大体1時間に180~200kgぐらいのRPFを燃やしていく形になり、年間で大体2,000トンぐらいの燃料消費量になる予定です。RPFで年間2,000トンというのは業者さんからしても決して少なくはないと言っていただける量です。

10日分のRFP燃料をストックしておける燃料ピット

廃棄物系ボイラーのこれから

―廃棄物燃料の活用について、諸外国に比べて日本は進んでいるんでしょうか。

日本が進んでいる/遅れてるって言うのは微妙なところで、遅れてもいないし進んでもいないという所じゃないでしょうか。ただ、日本は資源が限られていてエネルギーを輸入に依存している事情がありますので廃棄物燃料の活用を進めることは大事ですよね。
お隣の韓国も資源がない国なので非常に苦しい思いをされてるみたいで、こういった新型ボイラーが生まれたという経緯があるみたいです。

他に日本特有の事情で言えば、実は廃プラをRPFという固形燃料にしているのは日本だけなんです。他の国は固めずに「フラフ」というパラパラの状態でそのまま燃やすというような形をとっています。たただしこれは固めた方が輸送コストを抑えられるという理由なので、パラパラの状態でも燃やすことはできます。

(出典:日本容器包装リサイクル協会 https://www.jcpra.or.jp/

―廃棄物系ボイラー事業というのは、今後伸びていく分野なんでしょうか?

そう思います。一口に「廃棄物」と言ってしまうと単にゴミになってしまうんですけど、捉え方によっては有効なエネルギーになるという風に考えておりまして、例えば廃タイヤなんかもこれから燃料として使われるシーンが増えてくると思います。

ガソリン車から電気自動車へ転換の流れがありますが、電気自動車になっても廃タイヤは絶対に出てきますよね。タイヤは元々石油ですから、プラスチック以上にカロリーが高くて、これから有用なエネルギーになっていくんじゃないかなと思いますね。そういった廃タイヤなんかも有価で購入して燃料にできればエネルギーとしてわざわざ海外から重油やガスを買わなくてもいいので、日本の経済にとって有益な資源になっていくでしょう。

―活用の幅が広がれば社会的な注目度も上がっていきそうですね。

そうですね。やっぱりCO2排出はじめ企業活動に関わる環境意識が高まってきているので、ホームページ等でお問い合わせを頂くことが多くてですね、特に大手の企業様から実際に現場を見させて欲しいっていう依頼が寄せられているので、皆さん興味を持たれているんだなという感覚はありますね。

―直近で何か新しいお話は来たりしてますか?

次に動くのは洞戸工場のボイラーが安定した事を確認してからになりますが、岐阜県内ですでに一件、真剣に検討して頂いている所があります。社内目標としては、この蒸気販売の形でまずは五台設置すること。もちろんそれ以外に自分達で購入したいというパターンも今後出てくると思うので、それはそれで対応させていただこうと思ってます。

サーキュラーエコノミーの視点から

今回設置したRFPボイラーは基本的に燃焼炉まで搬入できればRPF以外の素材も燃焼可能で、ウッドチップなどの木質バイオマス素材や廃タイヤなどを今後使用していくことも考えられるそうです。こうした廃棄物が有価で取引されるようになり国内での使用が活発化していくことで、廃棄物を原料としたエネルギー事業が増えていくと思われます。

2021.12.17

取材協力:
株式会社マルエイ
https://www.maruei-gas.co.jp/

株式会社秋田屋フーズ
https://www.akitayahonten.co.jp/aki0102.html