ヨーロッパの循環経済法を、キーワード「サーキュラーエコノミー」から読み解く

「エシカル」「サステナビリティ」「SDGs」…。環境に関する話が始まると、いつも欧州、すなわちヨーロッパの国々についての話題で盛り上がります。各国がそれぞれに環境を大切にした施策を取る中で、いつもヨーロッパが話題の中心である理由は一体何なのでしょうか。また、具体的にどのような点が優れているのでしょうか。

今回は、「環境大国」が集まる由縁、先進的な取り組みを実践できる由縁について、探りたいと思います。

キーワード「サーキュラーエコノミー」政策とは

欧州(ヨーロッパ)の環境施策を語る上で外せない「サーキュラーエコノミー」。今回は、このキーワードを軸にご紹介したいと思います。

ごみの増加、資源・エネルギー・食糧問題の懸念が深刻化する中では、グローバル規模の視点で物事を捉えることが大切です。この視点から、物を長く使いごみを出さないための考え方が広まり、近年は「サーキュラーエコノミー」という言葉へ発展しました。

「サーキュラーエコノミー」は日本語に訳すと「循環経済」。「リデュース(Reduce)」「リユース(Reuse)」「リサイクル(Recycle)」の「3R」を基本にしながら、持続可能な社会を目指すこの活動は、日本では経済産業省および環境省が主導権を握り、推進されています。

「サーキュラーエコノミー」を推進する団体として知られる「エレン・マッカーサー財団」では、その原則を以下のように示しています。

  • 廃棄物と汚染を生み出さないデザイン(設計)を行う
  • 製品と原料を使い続ける
  • 自然システムを再生する

言わんとしていることは読み取れますが、少々抽象的にも見えます。もう少し、噛み砕いてみましょう。

「廃棄物と汚染を生み出さないデザイン(設計)を行う」はイメージしやすい所かもしれません。先に書いた通り、まずは「3R」を前提としたデザイン・生産を目指します。製品を世に放った後も寿命を伸ばすメンテナンスを行い、ごみを出さないことを優先するのです。

「製品と原料を使い続ける」も、ここに通じます。メンテナンスが行き届けば、製品を使い続けることに繋がります。リサイクルやアップサイクルが推進されれば、原料として使い続けることに繋がると言えるでしょう。

最後の「自然システムを再生する」とは、資源を使いすぎて自然に影響が出ないように、需要と供給を擦り合わせることです。自然資本は限りある物。保存はもちろん、増加するための施策も必要です。

上記を踏まえて、より簡単な言葉に置き換えてみました。「サーキュラーエコノミー」とは…

  • 物を「作る/使う」とごみが出る。できる限り、ごみを出さないように「作る/使う」をしよう。
  • 自然から得られる物を材料にする時は慎重に。自然を使う分だけ、自然を増やそう。

いかがでしょうか。少し分かりやすい表現で整理してみました。また、こうした柔らかい描き方の方が、自分にも実践できる気がしますよね。個人でも、メンテナンスをして長く使ったり、自然を大切にする商品を優先的に選んだり…といった実践は始められます。ぜひ、あなたも今日から「サーキュラーエコノミー」の輪の中に入ってみては。

ドイツの、「ごみを処分」から「減らす」へのパラダイムシフト

さて、ここからは「サーキュラーエコノミー」の考え方に通ずる施策を実践しているヨーロッパの国を取り上げ、その具体的な実践についてご紹介したいと思います。

「サーキュラーエコノミー」を体現している物として、しばしば取り上げられるのが「循環経済法」です。この法律では、商品を作る事業者に「3R」を前提にした生産を義務付けるとともに、誰がごみを出したのかという責任の所在を明らかにします。実践されている代表的な国として挙げられるのはドイツとフランス。今回の記事では、この2国の取り組みについて紹介したいと思います。

ドイツならではの施策とは

まずはドイツの施策から見て行きましょう。1972年に「廃棄物処分法」を施行したドイツは、容器包装廃棄物令を定めるなど、廃棄物処理・リサイクルの仕組み作りを発展させた歴史を持ちます。

廃棄物の回収を義務付けられた業界は「官民パートナーシップ」で廃棄物回収の仕組みを作り上げ、処理責任が誰にあるかを明らかにする定義付けをしたりと、様々な優れたルールを作っている環境大国です。

また、1996年には「廃棄物処分法」が「循環経済法」に改定され、容器・自動車・電池など、種類別に廃棄方法を定めています。この考え方が面白いのは、物別に種類分けした法律を作ったということ。業者別の法律では、「誰の責任か」が前面に押し出され、言葉を選ばず言ってしまえば「誰が悪いか」論に繋がります。物別に分けた法律にすれば、「何がごみとして出るか」が前面に押し出されるので、感情論じゃなく、目の前に出たごみとどう向き合うかの議論に繋がります。こうした法整備の上手さが、ドイツならではの強みと言えるでしょう。

ごみを生まない「リユース」に注力

廃棄物を正しく処理するために生まれた「廃棄物処分法」。そして、種類別の処分方法を明らかにした「循環経済法」。ここから、もう一段階進化を遂げます。

それは、2020年2月に行われた循環経済法の改定です。処分の方法から一歩先に進み、ごみの減量とリサイクルの促進を目的とています。

リサイクル製品の需要を高めるため、政府が率先して同製品を使うこと。返品された物・売れ残りなど「余り物」の処分について、生産者の責任を強化すること。道路や公園など公的な場所の清掃費用を、使い捨てプラスチック製品メーカーや流通事業者に義務付けること。上記のような取り組みで、誰が責任を持つべきかが明らかです。

中でも、「リユース」に力を入れ、最初からごみを作らないということを優先するのがドイツならでは。しかし、一方でどれだけの量を減らし、どれだけの量をリサイクル商品に置き換えれば成功なのでしょうか。その辺りの「数字」面が曖昧で、しばしば批判されることもあります。

プラスチック製品との向き合い方

2010年代から様々な取り組みを行うドイツ。環境省と小売業者の合意で、スーパーマーケットのプラスチック製レジ袋が有料化され始めました。また、マイクロプラスチックのゼロ削減を目指したり、先述した「容器包装廃棄物令」を改定したりと、これまでの目標を超える、さらなる目標を打ち立てることも続けています。近年ではEU主導の「特定使い捨てプラスチック製品禁止指令」が国内に落とし込まれるなどの動きも。国内での改革と、EUレベルでの改革を組み合わせながら、法律を軸に環境を考えるのがドイツ流です。

フランスの事例

フランスで「循環経済法」が施行されたのは2020年2月。同法は、「使い捨てプラスチックからの脱却」「消費者への情報提供」「廃棄物の対策および連帯再利用(社会への還元)」「(製品の)陳腐化への計画的な対応(長寿化)」「より良い(環境負荷を抑えた)生産推進」という5つの柱を持ち、大量生産・大量消費・大量廃棄の社会を見直すための一歩を踏み出しました。

フランスの「循環経済法」の特徴

まず、同法では、2025年までにプラスチックのリサイクル率100パーセントを目指し、2040年までプラスチック包装を禁止すると謳っています。フランスでは、2016年から既にプラスチック製のレジ袋が禁止されています。違反した場合の罰金も定め、プラスチックゼロへの一歩を踏み出しています。

循環経済法には、消費者に正しい情報を提供するための施策も。回収・リサイクルの対象であるごみに付ける「トリマン・マーク」の導入が具体例として知られています。複数の素材から成る物には、ごみ分別に関する情報を義務付けられます。また、内分泌かく乱物質を含む物を売り出すためには、その情報をインターネット上に公開する必要があります。

「取締る」と「同じ方向を向く」を一体化

廃棄物については、社会へ還元するための方法論を確立させています。

繊維製品や電気製品の中で回収・リサイクルの手順が確立されていない物は、2022年までに売れ残り商品の廃棄を禁止し、寄付などの対応を求められます。食品についてもルールが整えられ、売れ残れば罰金が発生する場合もあります。

このように、循環経済法を基に、環境を重んじた経済を目指すのがフランスの方法論です。

しかし、これだけではありません。実は、フランス政府と企業の間で決められた「プラスチック包装に関する国家協定」もまた、大きな役割を持っています。

内容としては、問題のある包装の削減や、リサイクル率の向上、市民への啓発や教育の実践などが挙げられます。

「循環経済法」が、ルールに則って取締る法である一方、この「プラスチック包装に関する国家協定」は政府・企業・市民が「同じ方向を向く」ための施策という側面が強いように感じられます。

「取締る」と「同じ方向を向く」を並行して行うからこそ、先進的な取り組みを行えるのだと思います。他国に先駆けてレジ袋禁止を実践したフランスに見られる政府の思い切りと市民の共感は、この「並行」作戦にあるのでしょう。

マークの取り扱いという課題

また、美意識の高いイメージの強いフランスだからこそ…といった取り組みも。それは、化粧品に関する物です。回収・リサイクルを促進させる法律は、化粧品業界に大きな影響を与えました。売れ残った商品を廃棄することの禁止から、再生可能なパッケージの使用まで。そして、情報表示に関するルールも整えられました。しかし、この動きに関連して一つの問題が起こっているのも事実です。

それは、先述した「トリマン・マーク」に関係します。

このマークが環境に良い製品の証のため、これに類似した物が付いていると紛らわしいのです。この二つの矢印が組まれたマークに似た物に、「グリーンドット」マークがあります。これも環境に配慮した製品のマークとして機能していたのですが、「トリマン・マーク」との紛らわしさから削除される方向にあります。フランスでは「グリーンドット」を外すけれど、他国では使用するべきという場合も。

こうして、フランス市場と世界の市場で使うマークが異なり、逆に紛らわしさに繋がるという懸念があるのです。例えば、今後日本でマークを導入する時にも同じことが言えるでしょう。輸出・入に分けてマークを使い分け…。こんがらがった結果罰金に繋がる。そんな未来も見えます。マークを印刷し間違えて廃棄、なんて本末転倒な結果だけは避けたい所です。

おわりに

今回は、ドイツとフランスというヨーロッパにおける「環境大国」の、その法律と施策について掘り下げました。

その軸は、日本でも聞く機会の多い「3R」。近年では、「3R」の上位概念である「5R」などの概念も耳にします。教育現場で扱うことも増えたワードですが、一方で社会に溶け込んでいるとは言い難い現状もあります。日本生まれの「もったいない」という考え方は世界でも評価されているのに、なぜ社会が追い付かないのか。

その答えの一つとして、法律の整備と社会への浸透という課題が見えます。

日本における法律の整備と、今後の展望についてもいつかご紹介できればと思います。