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未来の食は、昆虫が支えてくれるかもしれない

株式会社グリラス インタビュー

昆虫食……知ってはいるけどちょっと……、そんな思いに駆られる人は多いのではないでしょうか。筆者もやはりそうで、環境にやさしいとはいえわざわざ選んで食べなくてもいいのではないか、と感じていたひとりでした。

その考えが少しほどけてきたのは、2020年に無印良品が「コオロギせんべい」の販売をしたときのこと。従来の“昆虫食”は、いかにも昆虫入りであるとパッケージや商品でアピールするものが多かったのですが、「コオロギせんべい」は普通のせんべいとなんら変わりない、抵抗感のないルックス。味わいも香ばしくおいしいせんべいそのもので、パリポリと食べられる、親しみやすさがありました。

今後、昆虫は私たちの食生活において一般的なものになっていくのでしょうか。無印良品の「コオロギせんべい」のコオロギを生産するベンチャー企業・株式会社グリラスの代表にお話しを伺いました。

 

 

2050年には確実にタンパク質不足が起こる

 

現在、全世界の総人口は約78億人ですが、2030年には85億人、2050年には100億人に達する見込みです。このまま人口が右肩上がりを続ければ食料の需要と供給のバランスが崩れ、タンパク質不足に陥る人が確実に増加するといわれています。一刻も早く、従来の食料確保の考え方から逸した新しいタンパク源の確保が必要です。

 

 

そこで全世界的に注目を集めているのが、「昆虫」。

高タンパクで栄養価に優れているほか、牛や豚などに比べて養殖に環境負荷がかかりにくいため、地球にも人にもやさしい食材になると目されています。

中でもコオロギは、育てやすくて加工しやすく、昔から食べられてきた歴史もあるため、次世代のタンパク源として積極的に開発が進められている一種です。

 

株式会社グリラスは、まだまだ一般に馴染みがなく、ともすれば“変わり者”とのレッテルを貼られかねない“コオロギ食”について、とことん真面目に取り組むベンチャー企業。徳島大学にて30年近く行ってきたコオロギ研究をベースに、食品としての研究開発を行なっています。

代表の渡邊崇人さんに、コオロギの可能性や今後の展望などをお話しいただきました。

 

渡邊崇人 株式会社グリラス代表取締役CEO/徳島大学大学院 社会産業理工学研究部 助教 世界でもトップレベルのコオロギ研究を行う中で、2019年に徳島大学発フードテックベンチャーとして同社を立ち上げる。教員として教壇に立ちながら、コオロギの品種改良や農林水産省が取りまとめを行う「フードテック官民協議会」内にサーキュラーフードを推進する組織を立ち上げるなど、さまざまな取り組みを行う。

 

“昆虫食”というワードを取り扱う難しさ

 

―飽食の日本に住んでいるとなかなか気づかないものですが食料問題はすぐそこに迫っていて、タンパク質不足はすぐに解決しないといけない課題のひとつです。こういった問題について、渡邊さんはどのようにお考えですか?

 

日本は豊かな国なので、食料問題は身近なこととして意識しにくいですよね。今でも世界的に見れば食料が足りない人はいっぱいいるし、なんらかの栄養問題を抱えている人は全世界で10%程度存在しているわけで。日本にいるがゆえに意識と実感が持ちづらい、そこが課題だと感じています。

 

―そんな日本において、どのようにこの問題と向き合っていったらよいのでしょう。

 

まさにグリラスで進めている方向性がそっくり当てはまると思います。環境にはいいけど品質は悪いというのではダメで、持続可能な食品でありながら品質もきちんと担保されている、その両輪で進めていかなければなりません。特に日本は食のレベルが高いので、その分“おいしさ”をしっかりと高めていく必要があります。

 

―特に“昆虫食”となると敬遠してしまう人も多くいると思われます。

 

昆虫食というワードには言霊のようなものがあると思っていて。田舎である、古いもの、昔ながらの伝統、廃れた文化といったイメージがつきまとい、科学的なイメージがないんですね。それと同時に、面白ネタ的な要素が入ってきてしまうこともある。

 

伝統は大切にすべきだとは思うのですが、これまでの流れは昆虫食を廃れさせまいとする方々が自らネタとして発信している面がありました。我々が食品として開発をスタートした2016年当時にも昆虫食を打ち出しているベンチャーはあったけれど、大抵が、昆虫食=ちょっと変わった文化に傾倒している私たち、という自己陶酔感が少なからずあった。そこをアイデンティティにしてしまっているがゆえに、「昆虫食は異端である」というブランディングを自らしていたわけです。

そういったやり方を側から見ていて、それでは普遍的な文化にはなり得ないだろうとは思っていました。

 

 

コオロギをパウダーにして使う試み

 

 

―グリラスが開発している主な商品は粉末状のコオロギパウダーですが、それも既存の昆虫食のイメージから脱するための戦略でしょうか。

 

そうですね、形を残していたんじゃ嫌悪感を抱いてしまう人もいるし、何より使いにくいです。実は実家が飲食店なのですが、自分の店で出すと考えたときにはやはり姿が残っていると難しいなとも思いました。

そこで、粉末にして形をなくした上で、何かに混ぜていくというやり方が良いのではないかと。これは、欧米の昆虫食推進の方向性とも近いです。

 

―食品として仕上げるにあたって大切にしていることはなんでしょう。

 

やはり安心安全性です。

幸いにも弊社は創業当時から良品計画さんと共同で事業を進めることができているので、日本での基準や工場でパウダーを作っていく上での安全性などしっかりとご教授いただきながら進めることができました。

 

安全性において重要なのは、その食品がいつ、どこで、誰によって作られたのかを明らかにすること、つまりトレーサビリティをしっかりとるというところです。もちろん異物混入のチェックもしながら、菌やさまざまな汚染がないかどうかも検査した上で商品として仕上げています。

コオロギであっても、豚や鳥などの加工品と同じような工程を辿りながら品質管理をしているので、安心して食品として提供できています。

 

 

食品ロスで育てられるサーキュラーフードでもある

 

―コオロギパウダーは、豚や鶏など生肉の代わりとして使われていくイメージでしょうか。

 

まずコオロギは個体が小さいので、生肉になることはありません。ですので、豚や鶏の代替タンパクという言われ方もしますが、それよりも、人口が増えてタンパク質の需要が高まる分をコオロギで代用しようという考え方が近いです。

例えばパンやパスタにコオロギパウダーを配合することで、穀物メインの主食でありながらタンパク源にもなる、というイメージですね。

 

 

―コオロギの養殖は環境負荷が少ないのも特長のひとつと聞きました。コオロギのエサには食品ロスを使っておられるそうですね。

 

はい。コオロギは雑食性なので、これまで捨てられるしかなかった食品ロスも十分なエサになります。

日本でも年間約2,531万トンの食品廃棄物等が出ているし、途上国でも途上国なりの食品ロスがある。食品ロスをコオロギが食べ、そのコオロギから作ったパウダーを新たなタンパク源として提供できればサーキュラーフードとして確立できます。我々が育てているコオロギも、現在エサは100%食品ロスで賄っていて環境負荷低減を実践しています。

 

また先日、2040年までに国内の食品廃棄物等の約1/10、年間253万トンの活用・循環を目指す、農水省の新組織「サーキュラーフード推進ワーキングチーム」も立ち上げました。

自社だけの取り組みを超えてチーム化した理由は、これまではそれぞれのベンチャーが独自に開発を進めているだけで、サーキュラーフードが大きなムーブメントになっていなかったからです。

社会にもっと浸透させるためには価値を理解していただくことが必要ですので、官民が一緒になってチーム戦で取り組めればと考えました。

 

 

コオロギの食品が当たり前の世の中に

 

―グリラスではコオロギパウダーを使ったオリジナルブランド「C. TRIA(シートリア)」も展開されています。商品開発において大切にしているポイントは何でしょうか。

 

まずはコオロギ感のないものを、との思いで進めました。最初に開発したのはクッキーとクランチで、味的にも食べやすいというか、まったく気にならないし分からないと思います。

 

―これまでの昆虫食の流れだと、パッケージにコオロギが描かれているなど何かしら昆虫をアピールする要素があるものですが、「C. TRIA」は一般的な食品パッケージとなんら変わりませんね。

 

そうですね、コオロギは敢えて省いています。

というのも、コオロギが暮らしの中の当たり前の食品になればという思いがあるからです。コオロギが当たり前の世の中なのであれば、パッケージにうれしげにイラストを入れる必要ってないよなと。むしろ描いてしまったら「コオロギって特別だよ」と言っているようなもので。

ブランド名にしても、一応“C”はクリケットの頭文字の意味を含みますが、分からないですよね。

 

―現在はどのような人が購入されているのですか?

 

今はSDGsの文脈の中で受け止められているので、その分野にアンテナの高い方々が多いとは思います。年代としては幅広く、20代から60代までさまざまな層にご購入いただいています。

 

コオロギパウダー配合の冷凍パンも新たに開発

 

―今後ラインナップも増えていくのでしょうか。

 

はい。まず9月29日にオリジナル商品第二弾として冷凍パンとカレーをリリースしました。

我々としては、朝起きてから夜寝るまでのさまざまなシーンの中でコオロギを使用した食事が選べるように、多彩な商品を揃えたいと思っています。

まずは第一弾として「間食」のお菓子を発売したので、第二弾は「主食」や「主菜」になるようなものとしてパンとカレーを展開した流れです。

今後もおつまみや夜食など、さまざまなシーンに合致する商品がリリースできればと考えています。

 

また味わい的にも、クッキーとクランチはコオロギがほとんどわからないものでしたが、次はコオロギの味を生かしたものを展開し、さらに次のステップとして、コオロギが入っているからおいしいというものを作っていかないといけないと考えています。

 

 

それで、実際のところ味はどうなのか

 

これまでのお話の中で、世界の食糧事情を考えていく上で昆虫がキーポイントになることは十分に理解できました。ただ一方で“虫を食べる”ということについて、どうしても抵抗感があるのも事実です。

 

環境にやさしいけれど、昆虫。タンパク質が豊富とはいえ、昆虫。おいしい? 苦い? クセがある? ついあれこれ考えてしまいますが、まずは食べてみなければ始まらないと思い、グリラスのオンラインサイトにてクッキーとクランチを購入してみました。

 

 

価格はクッキーが1,290円(8袋入り)、クランチが980円。スーパーなどで購入できるいわゆる普通のお菓子よりは高価格ですが、大量生産品でないことを考えると納得できる価格です。

またクッキーとクランチに関しては送料無料なので、より気軽な感覚で購入できました。

 

渡邊さんが言っていたようにパッケージにはコオロギが大きく打ち出されておらず、ほんの少しだけ“コオロギのある未来”についての思いが書かれているのみ。

何よりおしゃれなルックスなので、SDGsに関心のある人へのプレゼントにも良さそうだと感じました。

 

 

クッキーは、ココアとハーブ&ガーリックの2種類。コオロギパウダーが配合されていることは見た目からはわかりません。普通のクッキーと同じように、甘くて香ばしい食欲をそそる香りが楽しめました。

 

 

ひと口食べた率直な感想は…「まったくもっておいしい」。

ソフトな食感のクッキーは、ほろりとほどけるやさしい口溶け。ココアは甘さ控えめで、香ばしさが際立ちます。一方ハーブ&ガーリックは甘味とガーリックのバランスが絶妙で、今まであまり食べたことのない新しいおいしさがありました。

コオロギを食べている感覚はまったくなく、舌触りも香りも味わいも含めて存分に好ましかったです。

 

 

クランチも同じくコオロギ感はなく、サクサクとした食感とチョコのハーモニーが楽しめました。どちらかといえば、クランチのほうがとても馴染み深いおやつという感覚です。

 

またクランチ1個のタンパク質含有量が3.6gあるのもうれしいと感じました。日本人はただでさえタンパク質不足だといわれているので、おやつで気軽にタンパク質の補給ができるのはありがたいです。

 

 

コオロギの品種改良とサーキュラーフードの推進

 

コオロギを食べるということは、現在においては少し特殊な食体験であることは事実です。けれども、これから産官学のさまざまな立場を巻き込みながらサーキュラーフードを推進していくことが決定している流れの中で、かなり一般化されていくことは予想されます。

 

まずは「食べてみる」。

そして「慣れていく」。

そういった一つひとつの積み重ねが、未来の地球に向けて今私たちができることなのかもしれません。

 

「我々の大きな目標は、タンパク質不足にあえぐ世界の人々の元にコオロギパウダーを届けることです。となると数万トンものコオロギパウダーが必要になりますが、我々の力だけでは到底難しい。まずは生産パートナーさんと協力し、生産量を上げていかなければなりません。

その上でグリラスクオリティを担保するために、生産パートナーさんで作ったものをグリラスに集約し、品質のコントロールをしていくことも大切です」と渡邊さん。

 

さらに、食用に適したコオロギの品種改良や飼育方法の改良も随時行い、“おいしさ”もしっかりと追求していくのだと話します。

「人手もかかるし、本当に大変なんですけどね」と笑うその奥に、次世代に繋がる“豊かな食”への光が確かに見えました。

 

 

取材協力:株式会社グリラス

https://gryllus.jp/

環境と人 編集部

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