日本でエシカル消費は広まるか?

渋谷PARCOの地下にある日本酒バーで、「廃棄される酒粕からつくったジン」として、エシカル・スピリッツのLASTを紹介された瞬間から、このメディアで記事にしようと決めていました。

ジンというと、BEEFEATERのようなカクテルベースのものしか飲んだことがなかったので、LASTの華やかな味わいに、ジンに対する価値観が変わりました。しかもそのストーリーは「未活用のものにスポットライトを当てる」。僕が世に知ってもらいたいコンセプトそのものです。

蔵前にオープン間近の「東京リバーサイド蒸留所」を訪れ、COOの小野氏を取材しました。

エシカル消費というライフスタイル

エシカル消費というライフスタイルが世界的に広まっていますが、日本ではどうなんでしょうか?

「まだ日本では興味のフェーズだと僕は思っています。それが当たり前の購買活動につながっているのがヨーロッパ、北欧系の諸国ですね。」

―どういった部分に違いがありますか?

「交流のあるイギリスのディストリビューターは、基本的にサステナブルやエシカルといった観点がひとつもないブランドは取り扱わないと話していました。まず国民の認知度、意識を前提として、企業もそういった意識を持っているし、法規制も日本と比べて厳しい。そのあたりに違いを感じます。」

小野力 エシカル・スピリッツ株式会社COO/ 1994年生まれ。ファーストキャリアで、デロイトトーマツコンサルティングにてコンサルティング業務に従事。その後ロンドンに移り、Fuzed Innovations Ltdを 起業し、共同創業者兼CEOに就任。大小のスタートアップ企業におけるコンテンツ マーケティングソリューションを開発し、2019年にはSAP.iO Foundry Tokyoプログラムの採択企業に選出。2020年、株式会社dotD入社。Managing Directorとして大企業の新規事業を支援。エシカル・スピリッツを共同創業を経て、2021年3月よりCOOに就任。

―小野さん自身もイギリスで生活していらっしゃいました。周りの人の意識も日本と差がありましたか?

「イギリスにいた頃は、オーガニックフェアトレードのものしか買わない、という人が周りに多くいました。日本だとその絶対数は少ないと思います。」

スーパーの棚が変われば意識も変わる

―エシカル消費というと富裕層が中心で、いわゆるブルーカラーの人の意識はそこに向いていないというイメージですが、イギリスではどうなんですか?

「おっしゃる通り、お金に余裕のある人の方がそういう投資もしやすいとは思います。ただ、さっきのディストリビューターの話のように、街のスーパーの店頭にエシカルなブランドの商品が増えてきていて、それが買いにくる人の意識形成にも影響している気がします。」

余ってしまったバドワイザーを蒸留したクラフトジン「REVIVE」

―なるほど、スーパーの棚が変われれば、無意識に日々の選択肢が変わってくるということですね。いずれは日本でもそういうフェーズが来るんでしょうか?

「はい。5年後、10年後には、そういった還元性や循環性をもっている商品が当たり前になると思っているので、その中でどう差別化するかというのが我々の課題でもあります。

個人的には、お酒という嗜好品を楽しむ時に「あ、ちょっといいことしてるな」っていう感じを少しでも持っていただけたらいいなという想いがあります。」

未活用のものを活かすというミッション

―その未来像の背景には、どういう意識の変化があると思いますか?

「今のいわゆるZ世代の方々は、「モノの楽しみ方」が変わってきていて、買ったモノに対するルーツやストーリーを大切にします。この世代にとって魅力的なストーリーを発信できるプレーヤーが生き残っていくんだと思います。」

東京リバーサイド蒸留所屋上にはボタニカルに使用するハーブ園がある

―具体的にはどんな発信をしていきますか?

「当社のコンセプトでもある、未活用のものを活かすというストーリーです。なぜその状況があるのか、未活用という状況をどうすれば無くしていけるのか、ということを伝えていきます。

例えば、今使っているボタニカルに間引きされたスダチがありますが、香りも良くて美味しくて、普通のスダチより間引きしたやつが欲しい、という発想をお客さんが持ってくださり、結果として農家さんの選択肢が増えるような状況を作りたいと思っています。」

COO小野力さんと稼働間近の蒸留機

ストーリーの前に、品質

―ただ、間引きモノなら当然安いんでしょ?と買い叩かれてしまう気がします。あまりそこを主張するとプライシングに影響しませんか?

「そこに関しては、品質へのこだわりが前提にあります。実際、ストーリーだけにお金を出してもらうのは非常に難しいですし、全く同じ品質に対して、サステナブルだから2倍の値段を出すかっていうと、単純に考えたら出さないですよね。その差を埋めるのは、やはり納得できる品質だと思っていて。

なので、ストーリーや値段を抜きにした、ブラインドテイスティングの状態で価値を感じてくださる品質を追求しています。」

―だからこそ賞も積極的に狙っていくということですか。

「そうですね。LAST Episode 0 -Elegant-は 、WORLD GIN AWARDS 2021 で 日本最高賞をいただきました。しっかりと美味しい物をつくっているという自信にもつながります。」

廃棄された酒粕を蒸留したクラフトジン「LAST」

―海外の賞に出品されているんですね。

「我々は海外を舞台と考えていますので、日本の素晴らしい未活用素材のことを海外に向けて発信できれば、日本自体の認知向上にもなると思っています。」

―素晴らしい取り組みだと思います。日本全体で見ると無駄になってるものってすごく多い気がします。

「最終的には酒粕や未活用素材が人気のマーケットになって、我々が仕入れに困っちゃうくらいが一番いい形なのかなと思っています。」

サーキュラーエコノミーの視点から

クラフトジン「LAST」の場合、酒蔵から発生する酒粕を有効活用し、クラフトジンとして製造するアップサイクルの取り組みと言えます。エシカル・スピリッツでは、他にも余ったビールなど様々な廃棄原料をアップサイクルする事業を進めており、通常使用する原料としての農作物等を削減しています。

サーキュラーエコノミーでは、再生産可能な生物資源を利用価値の高い順に活用する、カスケード利用が推奨されています。また、容器であるガラス瓶の国内リサイクル率は67.6%(2019年)なので、リサイクルにおけるロスや輸出入を考慮すると循環率は高いと言えるでしょう。

さらに、例えばリユースであるリターナブル瓶を使用できれば、サーキュラーエコノミーとして一歩進んだビジネスモデルとなる可能性があります。

エシカル・スピリッツの今後の展開に注目したいです。

2021.05.11

取材協力:エシカル・スピリッツ株式会社