食品をゴミにしない。フードロスを解決するイノベーティブな人々

EUでは、年間1,900万トンものまだ食べられる食品が廃棄されています。このままでは、向こう5年間で40%増加すると言われているほど深刻です。

フランスの例では、食品廃棄物のおよそ39%が生産現場、19%がスーパーなどの供給現場、14%がレストラン・ケータリング業界、42%が家庭から出ています。それぞれの業界が少しずつ工夫することで、大幅に食品廃棄物を減らすことができるのです。EUそしてアメリカで行われている食品廃棄物を削減する取り組みについてご紹介します。

ロンドン:「Food Saveプロジェクト」計測→改善案でレストランでの廃棄を削減

まずは消費の場であるケータリングやレストラン業界の現場での取り組みから。食品ゴミが出てしまう理由として、客の流れや注文の傾向がつかみにくい、一皿の量が多い、残った食べ物の持ち帰りができないなど様々な理由があります。

イギリスではボリス・ジョンソン氏がロンドン市長時代の2013年、Food Save プロジェクトを開始しました。70%食品ゴミを減らすよう取り組み目標を設定。それが効果を出し、12か月の間に20軒のレストランが70トン近い食品ゴミの削減に成功。それを受けて、市は200店舗に対象を拡大しました。

出典:Resource

まず、1グラム単位まで測れるゴミ箱を店に設置して、どの場面でどれぐらいゴミが出るか計測し、食品が最も無駄になっているところを特定します。とあるレストランでは、客が付け合わせの野菜をよく残すことが分かり、メニュー形態の見直しを実施。それまではメインのお肉と野菜が一つの皿に盛りつけられ提供されていましたが、肉は肉、野菜は野菜に分け、客に好きな野菜を選んでもらうようにすることで食べ残しを減らすことに成功。

他にも、前日に売れ残ったメニュー・食材をもとに次の日のメニューを決めることで、厨房で出る食品ゴミを減らす対策が行われました。毎日残りものを使った新たなメニューを考えるのは時間や労力を使います。しかし無駄にする食品が減れば結果的には収入の増加にもつながります。行政からの目標設定と、データをもとにしたアドバイザーによる改善案というとてもシンプルな方法ですが効果は抜群です。

ベルリン:近所で余り物をシェアするサイト「Food Sharing」

同じく消費の現場である家庭から出る食品ゴミ。どのくらいの量の食品を無駄にしているか気づかないまま、消費者はつい買いすぎてしまうという現実があります。また、「賞味期限」と「消費期限」を正しく理解していないことが原因で、まだ食べられるものを捨ててしまっていることも多いのです。消費期限は文字通り、その日までに食べなければならない日。賞味期限はその日を過ぎると、風味や色に落ちが出る可能性を示唆した日付です。

ベルリン在住のフランチェスカ(34)はほぼ食材を捨てません。消費期限を過ぎたものに対しても同じ。彼女に言わせると、消費期限は製造者・販売側が安全を保証してくれる日付に過ぎず、日付をすぎても十分食べられる場合が多いそうです。ただ食べる前に臭いを嗅いだり、ちょっと食べてみて腐ってないか、おかしくないか確認して食べればいいだけの話。

そして彼女は「Food Sharing」サイトを頻繁に利用するメンバーでもあります。このサイトの仕組みは簡単で、ネット上に自分のいる地域を登録し、表示された地図上に表示されるバスケットを確認するだけ。

出典:https://foodsharing.de/

例えば、長期の旅行前に冷蔵庫の中の食品をどうにかしたい場合、クリック一つで近くに住む人と食品をシェアすることができるのです。

フランチェスカは、このサイトのボランティア活動をしていて、カフェテリアから連絡があると引き取りに行き、持ち帰った料理をサイトに登録。あとはピックアップしてくれる人から連絡が来るのを待つだけというわけです。徐々にカフェやパン屋など事業者がサイトに参加し、売れ残った料理や商品をシェアするようになったといいます。さらにベルリンにある企業などもサイトに参加。

こうした活動の結果、500トンの食品が廃棄されずに済んだとのこと。ただ気になるのが衛生面。これまでのところ、サイト上でシェアされた食品で食中毒は発生していませんが、サイト上には肉や卵を使った料理に対する注意喚起が掲載されています。

この「Food Sharing 」の共同創業者ラファエル・フェルマー氏は「1年後にはさらに多くの食品を廃棄されないように救いたい。広くいろいろな人に参加してもらうには、国も巻き込む必要がある。消費者が努力をするだけでなく、ベルギーのようにまだ食べられる食品を廃棄したスーパーには罰金を科す法案を作るなど、国のトップにも考えてほしい」と語ります。

モンペリエ:食品を長持ちさせる包装

食品販売の現場ではどうでしょうか。スーパーなどでは半額や2つ買えば1つ無料など、消費者に必要以上に買わせる傾向があるため家庭からの廃棄量が減りません。さらに、消費者は傷やゆがみのない綺麗な商品を好むところがあり、傷がつかないよう、きれいに梱包されることが求められます。新しい時代には、新たな梱包材が必要です。

フランス・モンペリエにあるINRA(フランス国立農学研究所)のナタリー・ゴンラッド氏は、マスタードの種を使った細菌を寄せ付けないフィルムの開発に取り組んでいます。抗菌物質を含むシートで、でんぷん質からできたシクロデキストリン(環状オリゴ糖)の包接化合物が活性物質を取り込み、品物を守ってくれる仕組み。包摂化合物とは、分子の穴に別の分子が出入りすることができる物質のことで、今回の場合は、殺菌効果のあるマスタードシードの分子が出入りすることになります。

シクロデキストリンは湿気に反応するため、フィルムが乾燥している限り反応はしませんが、果物など水分量の多い食品が水分を放出すると、それに反応し抗菌物質のマスタードシードの分子を放出、食べ物が腐らないように守ってくれるのです。

実際、特殊フィルムと通常のフィルムで覆われた苺を常温に4日間置いてみると、普通の苺が黒くカビが生え傷んでいるのに対し、特殊フィルムの方は真っ赤なまま。まだ開発段階ですが、このフィルムのおかげで、今よりも6日間、果物が長持ちすることになるのです。

ボストン:食べられる容器を開発する「マッド・サイエンティスト」

アメリカ・ボストン地区ケンブリッジの科学者デービッド・エドワード氏。1999年当時に彼は喘息の治療に効く薬の開発に成功し世界に名の知れた科学者となりました。一躍大金持ちになったデービッドは、薬の開発で手にした大金を、自分の創造力を形にすることに使おうと考えました。科学者として、一人の人間としてどうしたらよりよい世界にすることができるか? 彼は自分の持ちえる知識と分子を使って、容器を必要としない食品や100%食べられる容器の開発に取り組んでいます。ついた異名が「マッド・サイエンティスト」。

デービッド・エドワード氏  出典:YouTube

デービッドが目を付けたのは、葡萄の皮。美味しいわけではありませんが、食べられて、中の実や水分を包み込む容れ物の機能を果たしています。別の容器に入れなくても、そのまま冷蔵庫に入れて数週間置いておいても大丈夫。葡萄の皮からアイディアを得て、研究を重ねた結果、2010年に耐水性の食べられる皮を開発。味にも種類があり、空気や水を通さず、食べ物を入れておける画期的なもの。例えばアイスクリーム、スープやゼリーなどを入れることも可能で、水と天然繊維、カルシウムなどを混ぜ合わせると、メッシュ状のゼリー質な気密袋ができて、中の食べ物を水や外気から守ってくれる袋になるため、プラスチック容器やビニールに入れる必要もなく、果物を食べる時のように水洗いして、そのまま口に入れることができるのです。まさに未来の食べ物と言えるでしょう。

ところがこれがアメリカの食料品店では皮肉にも紙箱に入れられた形で売り出されており、一つ2ドルと価格にも課題が残ります。そこでデービッドは未来の食に関するヴィジョンを世間の人に理解してもらうため、「カフェ・アートサイエンス」をオープン。スタイリッシュなメニューの中に開発した商品を体験できるようにしています。

カフェ・アートサイエンス 出典:EATER Boston

持続可能な経済と生産・消費、環境を守りよりよい社会にするため、世界中で日夜奮闘する人々。彼らこそ私たちの未来を作る立役者なのかもしれません。

リサーチ:TOKYOVISION