「ファッションは命より重い」という現状

店頭に大量に並ぶ衣料品。一見して、これらが莫大な環境負荷をもとに作られているとは考えにくい。しかしながら、ファッション業界が地球環境に与える影響は想像よりも遥かに大きい。

国連は、ファッション業界が世界で第2位の汚染産業と報告している。これには様々な要因があるため、順を追って見ていこう。

Tシャツ1枚を作るのに7,500リットルの水を使用

衣料の素材として代表的なコットン(綿)は、植物由来のためなんとなく優しいイメージがあるが、その栽培には大きな犠牲を伴う。

まず1つは、大量の水を使用する点だ。

コットンは全農産物の中で最も多くの水を必要とする作物であり、Tシャツ1枚を作るのに必要な水の量は約2700リットル、ジーンズ1着ならなんと7500リットルもの水が必要となる。7500リットルとはつまり人間一人の8~10年分の飲み水に匹敵する。

実は全産業のうち2番目に水を使うのがファッション業界で、世界の総排水量の約20%と言われている。

世界一水と殺虫剤を使うコットン

とはいえジーンズに7500キロの重さがある訳ではないし、農業で使った水はどこかで循環してまた戻ってくるのではないかと考えてしまう。

しかし、例えば綿花の耕作面積が世界一のインドでは主要21都市の地下水源が枯渇する一方で、上水道の70%が汚染され毎年推定約20万人が死亡している。

この背景には、コットンが世界で最も殺虫剤を使う農作物でもあることが関係している。世界の殺虫剤の16%が綿花栽培に充てられている事を鑑みるに、上述した上水道汚染の一因になっていることは想像に難くない。

さらに、漂白・染色工程においては更に大量の水が必要となり、これらの工程で世界の廃水(=汚染水)の20%を排出している。

ファストファッションの主な仕入元である途上国の加工工場では、廃水処理機能が不十分なことから、廃水が川や海にそのまま流されることも珍しくなく、これもまた深刻な環境汚染を引き起こす。

買う側からはまったく見えない押し付けの仕組み

他にも児童労働や薬剤散布による健康被害など、ファストファッションの急拡大による歪みのしわ寄せが、全て途上国に押し付けられる形で表れている。

そして、日本の衣類の約95%が海外からの輸入品だ。人の命を奪い、漂白剤を川に流すこの犠牲を生み出しているのは、コットン100%の服を着ている私たち消費者に他ならない。

ファストファッションにしても、確かに「新興国の雇用創出」という側面があり、貧困から救われた人も沢山いるはずだ。ファッション業界側からすれば、一方的に悪者にされるのは心外だろう。しかし、現状は明らかに行き過ぎてしまっている。

「ファッションは命より重いか」と問われれば100人中100人がNOと答えるだろうが、現実には、非常に見えづらい形でそうなってしまっている現状がある。

では、コットンの使用をやめて、ポリエステルやナイロンなどの化学繊維の服を着ればいいかと言えば、もちろんそうではない。

石油由来の素材はCO2排出を増やし、洗濯によって低品質な化学繊維から毎年50万トンの微小プラスチック繊維が海へと流れ、海洋生物と、それを介して人類の体内に蓄積される。

誰が歯止めをかけるのか

こうした現状に誰もが手をこまねいているかと言えば、当然そうではない。

これらの問題はすでに国際的な場で幾度も討論され、近年、供給側において急ぎ見直しが図られている。

2019年には国際的な呼びかけからファッション協定が組まれ、大手ファッションブランドをはじめとする32社が署名をし、持続可能な社会実現のための目標策定と実施を行っている。

ユニクロ、H&M、GUなど大手ファストファッションの店舗で植物の写真とともに、緑色の文字で何かエシカルな取り組みについて書いてあるポスターを見たことがある人は多いだろう。

いわく古着を回収して難民キャンプに送る、いわく売上の一部を保全活動に使っている、環境負荷の少ない新技術を開発しているなど様々あるが、しかしながら一方で、製造時の負荷を何%削減しようとも、単純な事実として、メーカー側は生産を止めることは出来ず、新しい服を作り続けざるを得ない。

衣料品の生産量は2000年からの14年間で2倍になり、今後さらに拡大していく見通しだ。そのため、この破滅的な流れに歯止めをかけるのは私たち消費者でしかあり得ない。

今ある服を大事に使う

衣料品の生産が倍になった反面、人々は半分の期間で服を捨てるようになっている。これまで見てきたような多大な犠牲を払って作られた服のうち、平均40%の服は1度も着られない。あまりにも不合理と言わざるを得ない。

では、今から行動を起こすには何をすればいいか。

最もシンプルで力強い対策として、今ある服を長く大事に使うことに尽きる。3つのRで言うところのリデュースだ。アパレル業界がいかに「オーガニックな素材を使っている」「環境に配慮している」と謳おうとも、Tシャツ1枚を捨てることが水2,700リットルを捨てることと同義であるならば、何よりも捨てないことが第一ではないだろうか。

次に有効な手段は、リユースだ。日本においてフリーマーケットやバザーなどが流行したのは90年代と言われているが、時代を遡ると、江戸庶民の着物のほとんどは古着だった事からして、衣類というのは元来着回して循環していくものだった。

着なくなった服をメルカリに出すことも立派な環境への貢献と言える。

最後に、リサイクルがある。捨てないことが第一だが、着られなくなることも当然あるだろうし、引っ越しの際にとても売り物にならない古い服がごそっと出てくるかも知れない。

それらをゴミ袋に入れる前に、1日水を流しっぱなしにするより遥かに環境に悪い可能性があることを考えてみて欲しい。そして、近くに回収ボックスがないか調べるのがいいだろう。