食品・レストラン業界のサーキュラーエコノミー事例

食生活が与える地球環境への負荷を、一人ひとりが考えるのは今や当たり前の時代。では、食の分野において持続可能な未来を目指すには、どのような取り組みをしたらいいのでしょうか?

フードロスや食糧危機、持続可能な農業の在り方など、食の分野はさまざまな問題を抱えています。そこで今回は、食×サーキュラーエコノミーの観点から、国内外で実際に取り組まれている資源循環の事例をご紹介します。

食のサーキュラーエコノミーとは

食のサーキュラーエコノミーとは、本来廃棄されるはずの食品を資源として活用する仕組みのことを指します。欧州では、この先サーキュラーエコノミーの市場規模が拡大すると試算されており、多くの国が国家政策の軸に掲げています。

日本でも「第四次循環型社会形成推進基本計画の概要」の中で、2030年までに家庭系食品ロス量を半減(2000年比)させることを目標に掲げ、さまざまな取り組みを行っています。

ただ、廃棄されてしまう食品の活用を食品業界だけで完結させることは難しく、様々な業種や自治体、非営利組織との連携が不可欠。大きな期待がかかる分野だからこそ、多面的なアプローチが必要です。

サーキュラーエコノミーで解決できる、フード業界が抱える課題

では、食のサーキュラーエコノミーの実践は、どのような効果があるのでしょうか。ここでは、食品業界が抱える課題の中から、サーキュラーエコノミーで解決できる可能性が大きい3つの問題について見ていきましょう。

フードロスの削減

近年メディアでも多く取り上げられているフードロス問題。世界では、年間13億トンもの食料が廃棄されていますこれはすべての食料生産量の実に3分の1にあたるというから驚きですね。日本も例外ではなく、一人1日当たり茶碗1杯分の食料が捨てられています。

個人だけでなく、企業による食品廃棄も大きな問題。企業が食品ロスを生み出す要因としては、食品流通における「3分の1ルール」が根本にあります。

「3分の1ルール」とは、賞味期限がしっかり確保された商品を店頭に並べるために策定された商習慣です。

食品が製造された日から賞味期限までを3等分し、最初の3分の1の期間を納品期限(卸売業者が小売店に納品しなければならない期限)、次の3分の1の期間を販売期限(小売店が店頭に並べて販売する期限)と定めたものです。

このルールによって、日本ではまだ食べることができる食品が大量に廃棄されています。

フードロスは単にもったいないだけでなく、食品を焼却処分する際に出る温室効果ガスなど、食品業界だけにとどまらないさまざまな深刻な問題を引き起こすことも忘れてはいけません。

食料自給問題

日本の食料自給率は40%弱程度。残りは輸入に頼っているということになります。

しかし、現在は安定的に輸入できているものが、この先も問題なく輸入できるという保証はどこにもありません。

干ばつや異常気象、自然災害や感染症の流行、政情不安など、様々な要因で輸入がストップする可能性は大いにあります。食料自給率を上げる、つまり国内で消費する食料を出来るだけ国内で作ることは、大きな課題なのです。

プラスチック包装の削減

年間約4億トン生産されているプラスチックのうち、包装容器が占める割合は3分の1以上。環境保護の観点からプラスチック包装をなくそうという動きは高まっていますが、食品業界においてはなかなか進んでいないというのが現状です。

食品にプラスチック包装を採用する利点は、臭いを遮断できることと、酸化を防止できること。プラスチック包装ほど軽量かつ安価で、機能面でも満足できる代替素材がないことが、プラスチック包装の削減を妨げる大きな原因だと言えます。

食×サーキュラーエコノミーの先進事例

それではここからは、フード業界におけるサーキュラーエコノミーの実践例をご紹介します。どのような事例があるのが知るだけでも、食における問題や環境について考えるきっかけになりますよ。

廃棄物を生まれ変わらせる

本来廃棄されるはずの食品に新たな価値を見出し、生まれ変わらせることで美味しくいただこうという取り組みは、さまざまな食材において実践されています。

FARM CANNING

http://www.farmcanning.com/

農薬不使用・有機、自然栽培など持続可能な農業に取り組む生産者の規格外の野菜を、バーニャカウダソースや香味オイル、季節野菜のジェノベーゼなど、万能に使えるソースにして販売。すべて手作りで製造されており、その時期ならではの野菜の風味を引き出した自然な味わいが魅力。

KURKKU FIELDS

https://kurkkufields.jp/

農・食・自然の循環を体験できる場所「クルックフィールズ」のある千葉県木更津市周辺では、イノシシや鹿による害が深刻。クルックフィールズでは、そのイノシシや鹿などを使い、すべての部位を無駄にすることなく、ハムやソーセージなどの加工肉に生まれ変わらせています。

浜口水産

http://www.goto-maki.net/

長崎・五島列島は日本屈指の好漁場。浜口水産では、定置網にかかった規格外の地魚をブレンドした魚肉ハムを製造・販売しています。添加物や化学調味料、つなぎのでんぷんも使用せず、スパイスやハーブ、レモンを効かせた、ボローニャソーセージを思わせる味わいが好評。

HenoHeno

https://henoheno.jp/

これまでジュースなどに加工するしかなかった規格外の果物を、特殊冷凍機によって素材の味わいをそのまま届けることに成功。生産者が丹精込めて育てた国産果実で作られたフローズンフルーツは、解凍不要で生の風味を楽しむことができます。

新型コロナウイルスによるロス食材も、この技術により多数救われました。

KIKI NATURAL ICECREAM

https://kiki-icecream.com/

全国の生産者と強い絆を持つ旅する八百屋「青果ミコト屋」が実店舗を開店。野菜や果物、バター作りで余るスキムミルクやワインの搾りかすなど、生産者から届くロス食材を掛け合わせて作るアイスクリーム屋を併設しています。

素材を掛け合わせて作られるフレーバーは、奥行きのある味わいが魅力。

使い捨て容器を見直す

食品業界において切っても切れない容器問題ですが、こちらも今さまざまな取り組みが行われています。

Loop

Loopは、容器の使い捨てから耐久性のある機能満載のデザインに変える、循環型のショッピングプラットフォーム。これまで使い捨て容器で販売されていた製品をリユース可能な容器で販売するほか、使用済み容器を回収して洗浄し、再利用しています。

2020年にオープンした日本版Loopでは、すでに20社以上がパートナーとして参加。

sunaho

https://www.sunaho.co/

弁当コンサルタントの野上優佳子さんが中心となり、竹粉やコーヒーかすなどの植物繊維粉末製の弁当箱をリリース。一般的なバンブーファイバー製品に含まれるメラミンも不使用で、土に埋めれば分解されます。同素材のタンブラーも展開中。

nue by Totoya

https://www.nuebytotoya.com/

nue by Totoyaは、ゼロ・ウェイストを目指すオーガニックなバルクショップ。ナッツ、ドライフルーツ、パスタ、調味料、オイルなど、安心・安全な食材を量り売りで購入することができます。

扱う商品は、オーガニック認証商品や化学合成農薬・化学肥料不使用のものをセレクト。持ち帰り用の容器がない場合は、繰り返し使えるオーガニックコットンの巾着袋や真空瓶を購入できます。

レストラン×サーキュラーエコノミー

ARMANI/RISTORANTE

https://www.armaniginzatower.com/

アルマーニ/リストランテでは、食品ロス食材を取り入れた「LOSS FOOD MENU」を開始。フードロスバンクの協力のもと、不揃いや規格外の野菜や出荷先を失った食材を使い、アミューズからデザートまでの7皿のコースメニューに仕立てています。

FARO

https://faro.shiseido.co.jp/

ファロでは、2018年からヴィーガンコースを開始。「畜産や漁業がもたらす地球環境への負荷について考えたとき、肉や魚を使わないヴィーガン料理は新しい選択肢として必要」という考えのもと、ヴィーガンの固定概念を超える完成度の高い料理を提供しています。

ヴィーガンコース以外のコースでも、在来種を積極的に使用するなど、食材や食文化を次世代につなげることにも配慮がなされています。

異業種と組み合わせた事例

株式会社4Nature

https://www.4nature.tokyo/

株式会社4Natureでは、循環サイクルの実現を目指したサトウキビストローを製造販売。このストローは、産業廃棄物として処理されていたバガス(サトウキビを精糖化した際に出る残渣)とPLA(ポリ乳酸)から作られています。

さらに使用済みのストローを回収し、家畜排せつ物や食品のコンポストと混ぜることで堆肥化するシステム設計も目指しており、サーキュラーエコノミーの課題である廃棄物の回収もクリア。

産地直送あいのり便

http://www.ainoribin.com/

「産地直送あいのり便」は、高速バスの空きトランクに乗せて、全国各地の野菜や魚介類、肉類を都市に直送するサービス。さらに「バスあいのり3丁目テラス」では、高速バスで全国から届いた食材を使った料理を提供しています。また、不定期で開催される「バスあいのりマルシェ」では、新鮮な野菜がリーズナブルな価格で購入できると好評。

海外の【食×サーキュラーエコノミー】最新事例

予約アプリ「Meal Canteen」

フランスの予約アプリ「Meal Canteen」は、食堂を利用するユーザーがメニューを事前予約することで、食料廃棄抑制に貢献できるシステムです。食堂側は必要な量のみ調理することができるので効率的。

また、アプリからはメニューに対するフィードバックを送信することもできます。これによって、食堂側はメニューの改善を行い、食べ残しを減らす対策を講じる事が可能に。

リターナブル容器でサステナブルなテイクアウトを目指す

ロンドンのデザインスタジオPriestmanGoodeが開発した食品配送用の容器は、繰り返し使用できる素材を使用することでテイクアウトサービスのサステナブル化を実現。容器本体はカカオ豆の殻から作られたバイオプラスチック製で、さらに配送用のバッグにも天然由来の素材を使用しています。

また、注文時に容器代をデポジットとして上乗せし、返却時に払い戻すシステムにすることで、確実な回収を目指します。

廃棄予定のジャガイモから生まれた建築資材「Chip[s]Board

Chip[s]Board」は、ロンドンのデザイナーと科学者が作り出した新しい建築素材。規格外のジャガイモや皮から作られており、合成樹脂や化学物質を含まないため、廃棄時に土に埋めても環境に悪影響を与えることがありません。

廃棄されるはずのジャガイモの皮が環境に無害な建築資材に生まれ変わり、役目を終えても分解されて肥料となるというサイクルで、サーキュラーエコノミーを実現しています。

食×サーキュラーエコノミーの観点からできること

食は人間にとって生きていく上で欠かせない一番重要なもの。持続可能な未来を目指すためには、フード業界の努力だけでなく、一人ひとりの意識がとても重要です。

こちらでは、食×サーキュラーエコノミーの観点から、個人でもできることについてご紹介します。

安心・安全な食材を選ぶ

食材を購入する際に、どのような食材を選ぶかは、とても重要です。生物サイクルのループを回すためには、化学肥料や農薬が使われていない、有機栽培や自然農法で作られた農作物を選ぶこと。

「買う」という行動は、投票行動と同じであるということを念頭におき、一人ひとりが安心・安全な食材を選んでいけば、生産者を取り巻く環境もおのずと変わってくるはずです。

食材や飲み物などをバルクショップで購入する

包装ごみに関しても、個人ができることはたくさんあります。食品を量り売りしてくれる店を利用し、そもそも包装容器を持ち帰らないこと。最近では専用ボトルで持ち帰ることができるクラフトビール専門店など、楽しみながら購入できるショップも増えています。

必要なものを必要な分だけ購入することで、ロスをなくす効果も。

地産地消を意識する

食のサーキュラーエコノミーの基本は、生産者と消費者の距離をできるだけ近づけること。これによって、輸送のコストや環境負荷を減らすことができます。

消費者の立場からも積極的に地元の食材を購入することで、新鮮な食材を得られるだけでなく、環境にも優しい生活に繋がります。

まずはできることから

大量生産・大量消費・大量廃棄というリニアエコノミーを前提とした食料システムは、様々な問題を引き起こし、私たちは今直ちに解決しなくてはならない局面に立たされています。

本記事では食品業界の問題を起点に、食におけるサーキュラーエコノミーの事例を紹介してきました。食は人に幸せと健康をもたらすものですが、それと同時に食を維持するための地球環境を再生していくことが、これからの食品業界に求められています

まずは食に関するさまざまな課題と向き合い、今できることで第一歩を踏み出す。私たち一人ひとりの行動が、食を取り巻く環境を変える原動力となるはずです。