天ぷら油で車は走る 廃棄油をリサイクルしたバイオ燃料

天ぷら油で作れるのは天ぷらだけではありません。コロッケや唐揚げも作れるという意味ではなく、バイオ燃料も、洗剤も作ることが出来るのです。岐阜県で地域に根ざした廃棄物業者「ケイナンクリーン株式会社」は、自社で回収した廃食油をリサイクルしたバイオディーゼル燃料で回収車を走らせ、さらに精製の際に出る副産物を使って洗剤を開発。ただいま販売に向けて動き始めています。

廃棄物をリサイクルするケイナンクリーン 代表取締役社長 近江則明氏と、その息子であり企画室室長の近江隼氏に、廃食油をリサイクルして作る製品について伺いました。
前編である本稿ではバイオディーゼル燃料の精製について、後編ではその副産物を使った洗剤についてを紹介します。

(画像右)近江則明 ケイナンクリーン株式会社代表取締役
1992年、米カリフォルニアで事業用操縦免許取得。1997年ケイナンクリーン株式会社入社。2012年代表取締役就任。
全国高純度バイオディーゼル燃料事業者連合会副会長、岐阜県環境整備事業組合副理事長、全国環境整備事業組合連合会環境資源委員会副委員長。
(画像左)近江隼 ケイナンクリーン株式会社開発室室長

天ぷら油で走る回収車

-まずはケイナンクリーンの事業内容について説明お願いします。

はい。弊社ケイナンクリーンは岐阜県内で一般廃棄物と産業廃棄物の収集運搬および処分をしています。それと下水処理場のメンテナンスや家庭についている浄化槽などの清掃・管理がメインですが、それ以外に、集めてきた廃食用油をリサイクルしてBDF(バイオディーゼル燃料)を製造しています。
弊社の回収車は100%うちで作ったBDFで稼働していますし、最近はその精製過程で出た副産物を使ってアルカリ洗剤を作るようになり、現在本社裏に製造工場を建設中です。

他にも、これは一年くらい前からなんですがAEDや新型コロナのPCRキットといった医療製品ですとか、今売り出してるのが現場で使う補助具の、いわゆるパワーアシストスーツを取り扱ってもいます。

-非常に多岐に渡っていますね。AEDやパワーアシストスーツというのは廃棄物収集とは遠いように思うんですが、何か筋道があってのことなんでしょうか?

AEDについては、我々はゴミの収集で町の中を走る仕事なので。同じ業者さんには車に積んでおいて万が一何かあったときにすぐ助けられる体制を取ってる所もあります。それにスーツについては、やっぱり現場で力仕事をするしてる人たちの立場ですとこういうものが欲しいだろうなという所から来ていて、こうした補助具は廃棄物処理業界でも需要が出てくると思います。なのでどちらも関連性がないように見えて、割と廃棄物処理に直結しているんです。

-現場から出てきた意見を吸い上げて事業に反映されてらっしゃるということでしょうか。

そうですね。洗剤やBDFといったリサイクルなんかも元々は社内で使うことを目的に始めたことですから。

-今回は、とくにそのバイオディーゼルについて聞かせて頂きます。多種多様なごみを収集してますが、天ぷら油の収集の割合はどのくらいですか?

廃食油の回収は事業の比率で言えば、もうほとんどないに等しいというか、他の事業と比較にならないです。他の事業についても、今はどれが一番っていうのがなくて、一般廃棄物、産業廃棄物、下水処理…その辺りが大体同じぐらいのバランスでやっています。

-なぜBDF事業を始めたんでしょうか。

必要に迫られたっていうのもありますが、やっぱり環境に関わる仕事をしているんだから環境を良くしていこうという思いがありました。最初にBDF製造を始めたのはISO認証(ISO14001認証:環境マネジメントに対する国際的認証)を取った2006年頃です。ぶっちゃけた話をすると、最初はアイドリングストップの徹底や電気をこまめに消したりしてCO2削減に取り組んでいたんですが、一生懸命やっても効果が薄かったんですよね。
そこで、我々は廃棄物業者ですので、廃棄物からリサイクルして何かできないかということを考えてるうちに食用油をBDFに精製する機械が一般に流通するようになってきたので、すぐに飛びついて今に至ります。

こちらは高純度のBDF「ReESEL」を作れる最新機種

当初は製造したBDFを社内のCO2排出削減のために使っていて、それ以上の余剰分は市のゴミ処理場に販売して、フォークリフト等の重機に使って頂いています。
また今後の事業拡大を見越して、一昨年前から全国20社くらいのBDFを作ってる業者たちで集まって「高純度バイオディーゼル燃料事業者連合会」という会を立ち上げました。今はディーゼル燃料を使う側のゼネコンさんや学識者さんたちを交えて45団体ですか。そこで私は副会長をやっていまして、BDFに関して、まだまだ色々と法律的な縛りがあるので、規制改革してもらうために国に対して交渉をしています。

-連合会はどんな交渉をされているんですか?

昨年に菅総理が2030年までにCO2排出量を45%削減(2010年比)という宣言をされたので、そこに乗って行った形になります。というのも、いまBDFの需要が非常に高まっていて、天ぷら油由来のBDFをそのまま使えばCO2の削減効果は100%なんですけど、圧倒的に集まる量が足りない事情があるのでそれ単体で安定的に流通させるのは難しいんです。そのため、BDFを軽油と配合して混合燃料を作るという取り組みを現在準備中なんです。

バイオディーゼル燃料の市場は広がるのか

-BDFと軽油の混合燃料について教えて下さい。

そのためには、まず弊社で作っているBDFを見て頂きたいんですが…こちらですね。

当初作ってたBDFが左です。BDFのJIS規格があるんですが、その規格に準拠したのがその茶色い燃料です。なのでこの茶色が普通のBDFで、不純物の含有率は4%程度です。

そして更にそれを精製した高純度バイオディーゼル燃料「ReESEL(Recycle Ester Diesel fuel)」というのが右側です。こちらは不純物が0.1%だけなので透明に近くなっています。
これは弊社とBDFの機械を作るメーカーさんと共同で研究開発をやっていて、燃料を蒸留する機械っていうのを作っており、純度でいくともう世界最高水準までできるようになりました。

-色が全然違いますね。

ええ。普通のBDFを使ってた頃は車のエンジントラブルが結構あったんですけど、高純度BDFはほぼ軽油と同じクオリティなのでトラブルなく走らせられますし、普通の軽油と同じ感覚で使ってもらえるので、軽油と混合して一般に販売しても全く問題ない品質になっています。

ですが、いま国で認められてるバイオディーゼルの混合比率は軽油の5%までとなっています。例えばこれを30%まで混ぜられれば、それを使っている人は30%分CO2の抑制をすることになるので、もっと上げていきましょうという法改正に向けて働きかけています。

-なるほど。ディーゼル燃料の需要はこれから増えていくんでしょうか。

日本の乗用車はほぼガソリンエンジンですけど、産業用のトラックや重機はほとんどがディーゼルエンジンなので、燃料の消費量でいったらかなりの割合を占めていると思います。乗用車に関しても、特にヨーロッパはいま電気自動車だけじゃなくてディーゼルエンジン車を一生懸命作っていますよね。国内ではやっぱりディーゼルっていうとトラックとかそういうイメージになっていますが、マツダさんなんかもクリーンディーゼルエンジンを作ってますし、ヨーロッパから輸入する車も結構ディーゼルエンジンの乗用車って増えてきてますね。

バイオディーゼル燃料の生産量を増やすには

-混合燃料として販売できれば一気に売り先が広がりそうですね。そして、BDFの製造工程で出る副産物で洗剤を作られているそうですが。

はい。廃食油をBDFにする精製過程でおよそ20%ぐらいがグリセリン廃液になるんですけど、これまではその使い道がなく、廃棄物として焼却処分していたんです。20%とはいえ結構な量になりますので、焼却処分の費用がかかります。このグリセリン廃液の処分が原因でBDFの利用拡大がなかなか進まないという状況だったんですね。なので、何か有効活用できないかとずっと考えていて、それを使って洗剤を開発したという流れになります。

-なるほど。活用先が見つかったということは、廃食油の回収とBDFの製造量も増やせることになったんでしょうか。

はい。なので、回収する量を増やす取り組みを今始めてるところですね。今まではコストの関係で廃食油を積極的に集めようとはしていなかったんです。大体1ヶ月に5,000リッターくらい、地域で困ってるところの分だけ集めてくるような感じでした。
ですが、今後はBDFの需要がどんどん増えてきていますし、洗剤が売れれば、原料もどんどん作っていく必要があるので、油の回収量をこれから増やしていかなければと思っています。

-回収量を増やすというのは具体的にどのように?

一般家庭で捨てられる天ぷら油のうち10%ほどが回収されていると言われています。これは弊社の近隣とかではなく全国的に10%。残りの90%は油を固める商品ですとか、あとはキッチンペーパーやなんかに吸わせてごみに出すっていうのが当たり前になっているんですが、例えば油を使い終わったら液体のまま100%回収できる仕組みを作ってあげれば、単純に考えれば1割しか集まっていない回収量が10倍になりますよね。

そのためには、まずは回収に出しやすい仕組みが必要です。いま、実は全国どこの自治体でも廃食油を集める取り組みをやってるんです。例えば地域の集会場とか、公民館とかに回収場所があって、1~2ヶ月に一度回収という形でやっています。ここ恵那市で言うと、市内に27ヶ所設置されてる油回収ボックスみたいなところに住民の方が油を入れに行く、それを月に1回集める業者さんがいて、それが弊社に集まってくるという感じです。

回収された廃食油タンク

ですが、住民の方にとって油を回収所へ持っていくのが大変ですし、そもそも回収しているということも、その油がバイオディーゼル燃料になってCO2削減に貢献していることも知っている人は少ないですから、なかなか集まりません。
こうした仕組みをもっと地域の方々に知って頂かないといけないし、例えば、普通の生ゴミだったらごみステーションに出していますよね。それと同じ感覚で廃食油も出せるようにする、100%回収できるようにしていくというのが、当面の目標です。

-一般家庭からの回収が増えると油に変なものが混ざったりしそうですが、その辺りどうですか?

たしかに、昔はよくありましたね。変なものと言ってもそう突飛なものはないんですが、天かすが入っていたりとか水が多少混ざっていたりとかは当然あります。事業を始めたての頃は、灯油とかエンジンオイルが混じっちゃったりとかがあったんですけど、回収先にも色々とお願いをしてきたので今はもう他の油が混じることはなくなりました。
エンジンオイルが混ざってたりしていた時は大変でしたね。そういう時はまず燃料が作れないですから。失敗燃料になっちゃって、全部捨てなきゃいけないという事も当初はよくありました。
その辺りを含めて、回収の仕組みを整えるとともに地域の方々に徐々に理解して頂く事が大切だと思います。

-30年以上地域で活動しているわけですから、恵那市では認知も進んでいるのではないですか?

地元の方ならケイナンクリーンという名前は知って頂けていると思うんですけど…それでも天ぷら油がバイオディーゼル燃料になって、それで回収車を走らせているっていう事は割と知らない方が多いので、今でもよく驚かれますね。もうBDF事業を初めて16~17年にもなりますが、やり始めた頃は結構ニュースなんかにもなっていたので、皆さんご存知かなと思っていたんですけど(笑)

バイオディーゼル燃料は軽油の代替足りえるか

-BDFについて、今後の展望を教えて下さい。

やっぱりバイオディーゼル分野はこれからもっと伸ばしていかなければと考えています。そのためには、廃食油だけに頼らずに、新しい原料からBDFを作れる取り組みをしたいなっていう思いがあります。

というのも、廃食油だけを原料にしているとどうしても国内で集められる量に限りがあるんですよ。BDFは軽油の代わりになる燃料ですが、軽油の国内消費量って年間3,500万トンぐらいあります。一方で廃食油っていうのは全国の統計からすると60万トン、つまり2%にも満たなくて、仮にそれを100%回収して燃料にしたとしても、とても軽油に替われるような存在にはなりません。
我々だけで細々とCO2削減するならともかく、バイオディーゼルの分野自体を伸ばしていくには、何か新しく原料から絞って作るっていう仕組みを直近でやらなければいけないと思います。その場合、農業分野との連携という形になってくるんですけれども。

一番やりたいのは、ここは田舎ですから休耕農地がいっぱいあるんです。
その使っていない農地を活かして、食物にならないけど燃料になるような作物を育てて直接油を絞ることでBDFの生産量を増やしていけるんじゃないかなと。そして、将来的に全国的な取り組みになれればと思っています。

-バイオエネルギーで農産物っていうとトウモロコシとかでしょうか?

そうですね。理想を言えば作物を育てて、一度油を使ってもらって、使い終わった油が廃食油になって帰ってくるのが一番いい仕組みなんですが、世界的な流れをみると現在トウモロコシやヤシの実とかそういうものから燃料を作るために森林伐採が起こっていたり、あと安い賃金で働かせるといった人権問題にもなってますよね。そういう事がないように、休耕田で食物由来じゃない、直接油が取れるものが作れればなぁと思っていて研究をしています。


サーキュラーエコノミーの視点から

時代を先取りしてカーボンニュートラルへの転換を果たしたケイナンクリーン。BDF事業は今後に大きな伸びしろがあり、さらなる成長に向けての大きな展望が見えてきました。
後編では、BDFの副産物であるグリセリン廃液を活用した洗剤の開発について紹介します。

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2021.12.17
取材先:ケイナンクリーン株式会社
https://www.keinan-clean.com/