神々の島か、ゴミの島か

 

世界で最も人気なリゾート地のひとつ、インドネシア バリ島。

「神々の住まう島」と呼ばれるほどに美しいこの南国は、ここ10年で観光客が200万人から600万人まで爆発的に増加していたが、新型コロナウィルスの世界的蔓延によって一転、苦しい局面に立たされることとなった。外界から遮断され、観光客が途絶えたバリ島に残ったのは大量のごみだった。

これまで観光需要で忙しくしていたこの島の住人たちは、コロナ禍によって立ち止まって振り返る時間が与えられることになった。島の経済の8割を担っていた観光業への依存と、それに伴う過剰な開発を見つめ直し、美しい自然と文化を守る「神々の島」本来の姿へと再生させるための活動に動き出した人たちもいる。

 

観光の途絶えたリゾート

バリ島の東海岸にあるサヌール島はここ数十年のあいだ観光地化されていない静かな場所だったが、ここ5年で状況が一変した。観光客は爆発的に増加し、それに伴い仕事が増加。このエリアのほとんどの人々が観光に従事しており、ほとんどの人々が閉鎖の影響を強く受けている。海岸に沿って立つヴィラやバンガローは全て空になり、お金が入ってこないためスタッフは解雇され、施設もメンテナンスもされていない状態になっている。


サヌール島に限らず、バリ島の多くの人々は観光の恩恵によって生活の糧を得ている。

この1年、政府からの援助があるものの、それも充分ではなく、バリ島の人たちは互いに助け合い、食べることもままならない人を助けようとしている。食べ物が必要な人やホームレスに食べ物を配っている男性もいる。この男性は自分の店を持っていたが、全てを失った。それでも無料で食べ物を提供することができてとても幸せだし嬉しいと語る。今あるものに感謝しなければと思う。バリの人々は常に祈り、神々を信じている。

 

これまでの文化への回帰

人の途絶えた観光に代わり、これまでの産業へと回帰する流れもある。

観光業の隆盛によって衰退した産業のひとつが海藻の養殖だ。代々地元の人々が営んできた海藻の養殖場は、クラブハウスやインスタ映えのする砂浜のブランコにとって代わられるようになり、その数を減らしていた。

海に浸かって手作業で海藻を収穫し、ボートに繰り返し積んでいく。地面に広げて乾燥させた後で、島外へ加工用として出荷する、古くからのシンプルな農作業。昼も夜も体力を使う、かといって大きく稼げるわけではない辛い仕事だ。

「選択肢がないから自然に帰るしかないんだ」と語る若い男性は、コロナ前は観光客向けのバンガローのオーナーだった。家族に楽をさせるために島外へ出て観光業を学び、銀行から融資を受けて建てたバンガローだったという。しかし、コロナ禍の煽りを受け宿泊はゼロに。収入は大きく減り、返済も大変だという。

「今でもここで生きていけるのは、海藻があるからだ。一つの仕事だけを賛美してはいけないという教訓になった。コロナ禍が明け、もし元通りの生活になったとしても、観光と自然な生き方を両立させなければならない」と彼は笑顔を見せた。

 

コロナを機に立ち止まって考える

バリ島副知事はパンデミック終息の時代には、観光業にも変化があるだろうと語る。「観光はバリの社会そのものに利益をもたらすものでなければならない。そして、今こそそれが何なのかを考える時期だ」と言う。

バリでは100年以上前から観光が重要な財源ではあったが、その多くはバリ島外の人間が運営するもので、落ちたお金の7割はバリの外に出ていく。しかし、観光客によって残されたごみはバリに残ったままだ。この様な考え方を改めなければならないという流れが、現在のバリでは起きている。

バリにおけるごみ問題は、コロナ前からその評判を貶め始めていたといえる。クタ・ビーチに転がっている大量のプラごみがどこから運ばれてきているのかを知る人はほとんどいないが、その多くは川から流れてきたものだ。

廃棄物管理が十分でないバリ島において、ホテルやヴィラの裏に面している川は半ばゴミ捨て場と化してしまっている。ホテルやヴィラに泊まるのはもちろん観光客だが、その観光客一人あたりが出すごみの量は地元の人々の3.5倍と言われている。

バリには一元化された廃棄システムがなく、ゴミの行き場がない。神々の住む島がこのままではゴミの島になってしまう。バリ住民による有志団体「スンガイ・ウォッチ」は、この状況を変えようとしている。

コロナ禍での閉鎖は思いがけないチャンスとなった。かねてからごみ問題をなんとかをしたいと言う意識があったバリ住民たちは「スンガイ・ウォッチ」に参加するようになり、観光客が途絶えて時間ができたこの機会に、毎週の清掃活動を開始した。

参加人数は20〜30人と徐々に増え、今では150〜200人となっている。再び国際的な観光地として開放される前に島を綺麗にリセットしたいという狙いだ。コロナで職をなくした人々も、この団体に参加している。コロナ以前は観光業に従事してきた彼らは、今では毎日の様にカマやチェンソーなどを持ち寄って川へ行き、日々プラスチックごみと戦っている。

 


「いま、村や地元の人たちが一丸となって川やビーチ、田んぼを清掃している。しかし、まだまだ長い道のりになるだろう」と語る参加者は、農家の男性だ。田んぼに転がるプラスティックごみに悩まされている農家たちも、この問題を解決してくれるコミュニティを必要としていたのだろう。スンガイ・ウォッチは、いまや毎日2トンのゴミを収集して、仕分けを行っている。

 

コロナ後の「神々の住む島」は

「バリ島のごみ問題に対する答えは、伝統の中に存在する」と語るのは、バリでロックミュージシャンとして活動するガーデ・ロビ氏。バリには経済的繁栄と自然保護のバランスを取るための伝統的なルールがあるが、過剰にお金を求めるのはこのルールに反している。経済とエコロジーは別個のものではなく、今直面している事態は私たちの優先順位をシフトするための大きな教訓なのだと語る。

「バリ島の人々は、自然に生かされていることをよく理解している。決して自然を傷つけてはいけない。とりわけ、バリでは自然と文化の観光をコンセプトにしていて、それが私たちにとっての財産なのだから」と語るロビ氏。

 

新型コロナウィルスの蔓延から1年以上が経ち、バリ島は観光業の再開に向け、準備を進めている。再びコロナ前の賑わいを取り戻したその時、バリ島はかつての「神々の住む島」として、人々を迎えてくれるのだろうか。

 

 

リサーチ:TOKYOVISION