日本の生活者の環境意識のリアル [後編] 具体的行動から導き出す環境課題への関心度の実情とは

循環思考メディア『環境と人』では、生活者の環境についての意識調査として、無作為の500人に対してアンケート調査を実施した。

環境と関わりの深い5つのキーワードについての理解度・認知度の集計結果から現在の日本の生活者と環境課題の距離感を検証した前編に続き、後半となる今回は生活者の環境課題への関心度について検証した。

日本の生活者の環境意識のリアル [前編] 環境系キーワードの浸透度から考える、人と環境課題との距離感

生活者は社会課題についてどの程度の関心を持っているのか、また、それを今後どのように社会に広げていくべきなのか。
編集長 新井遼一にインタビューを行った。

環境への関心度も中央化傾向が如実に

ー次に、回答してくださった全ての方を対象に、環境課題にどの程度の関心があるかを確認したのが以下のグラフです。今回のアンケートでは、

①積極的にイベントやセミナーに参加するくらい関心がある
②自らそういったSNSやニュースを探したりフォローしたりするくらい関心がある
③テレビのニュースなどで流れてきたものを見る程度の関心がある
④関心がない
⑤そういった情報を避けるようにしている

このような具体的行動面から関心度を調査しましたが、こちらについても率直な感想をお願いします。

新井 全体的にまだ受動的であると思いますが、現段階では違和感のない結果だとも感じています。

仮に、環境意識の高い欧州で同じアンケートをした場合でも、とても関心が高い方々の割合は日本より多少多い程度で大差はなく、6〜7割は中間層になるはずです。

これは、どんなことについてもいえると思うのですが、生活者全体で捉えた場合の傾向は似通ってくると考えています。

ただ、欧州の素晴らしい点は中間層の方々を自然とそういった方向へ導く仕組みを整えているところです。

意識よりルールを変えよう

ー欧州では、具体的にはどのような手法を取っているのですか?

新井 最も一般的な手法は、法によって企業に制約条件を設けている点です。

法で規制することで、例えばスーパーの商品ひとつひとつが環境に配慮されたものになっていきますし、価格も特別に高くなくなります。そうやって生活に溶け込ませるわけです。

ーつまり、意識よりもルールを変えるということですね。

新井 そうです。物ごとを浸透させるためには、因果関係を考えないといけないのだと思うのです。

人々の意識を変えて環境を整えるという流れは、これだけ多様性が叫ばれる現代社会では難しく、方法論としては上策ではありません。

そうではなく、法がそうだから企業活動が変わり、その結果生活者の生活が変わっていき、その結果、環境がよくなる。
こういった自然な流れをつくる必要があるわけです。

もちろん日本でもこのような流れをつくろうと努力していますが、欧州はそれがとても上手だと感じています。

日本でエシカル消費は広まるか?

ー確かにその方が負担感が小さいですね。

新井 大事なことは、そういうものだという前提でいかに手を打っていくかだと思います。

もちろんグラフの赤・青部分の割合を増やしていかなければなりませんが、そのためには黄色いボリュームゾーンにどう伝えていくかが何より大切です。

その際に、環境負荷が小さいから、エシカルだから、と正論を押し付けるのではなく、より入りやすい状況を構築していく方がスムーズです。
法規制だけでなく、その方が便利、かっこいい、面白い、安く済む、こんな入口から巻き込んでいかなければなりません。

国や自治体が補助金を出すのもそういった円滑化を目論んでのことですよね。

私の知る環境課題への意識が高い方々も、既にそのような姿勢にシフトチェンジしており素晴らしいと感じています。

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世代論や性別論で傾向は掴みきれない

ー「関心がない」「そういった情報を避けるようにしている」と回答した方が意外と少ないように感じた一方で、SDGsネイティブと表現される20代以下の方々が最も関心がないという意外な結果が出ました。

新井 今回のアンケートでは、その世代のサンプル数が少ないので確実なことはいえません。

ですが、グリーンウォッシュやSDGsウォッシュと呼ばれる上辺だけでのアプローチに対する嫌悪感や忌避感があるのかな?とは感じました。

統計に反映されている方の声ではありませんが、実際にそのような若い方々の声を聞いたこともあります。
企業がサステナブルです、環境によいです、といっているアクションへの違和感や疑問を拭えず、結果的に関心をなくしてしまうようなケースですね。

例えば、廃資源を使ったサステナブルな商品です!といっていても、実態はその廃資材の1%も使っておらず、そこには全くインパクトがないという話はよく聞きます。

そんな状況を見続けてしまったら、ファクトベースでやってほしい、やってくれないからもう諦めよう、そのように思ってしまう可能性はありますよね。

ーその一方で、比較的関心が低いと思われていた30〜50代については、若干の差はあるもののほぼ同じような結果で、「関心がない」「そういった情報を避けるようにしている」と回答した方は1割程度でした。

新井 活動をしている中で詐欺・陰謀と言われることがあり、大体がその年齢層の方々からの言葉だったため、私自身、少し偏った見方をしていたと感じました。

しかし、そういうことを言葉にする方の印象が強いだけで、多くの方はそうではないということです。

これも何についても同じで、声の大きなマイノリティが目立っているだけだと、現実的な数字から再確認できました。
これは頭に入れておかないといけないと反省しました。

ー同じように、男性は女性と比較して関心が薄いと言われていましたが、そこにも大きな差はありませんでした。

新井 要は、SDGネイティブはどう、年齢が高いとどう、男性だから、女性だから、といった思い込みは危険だということですね。

例えば、確かに年代別に教育内容が異なるという事実はありますし、その影響もゼロとは言えませんが、どんな時代を生きてきた方でも新たな情報の影響も受けていて当然です。

つまり、自分のこれまでの人生で長く接した価値観に引っ張られる人もいれば、そうでない人もいるわけで、情報量がこれだけ増えた現代においては、世代論や性別論はあまり意味をなさなくなってきているのだと思います。

「自分ごとにしろ」だけでは何も変わらない

ーとはいえ、世代や性別問わずまだまだ環境課題への関心は低いことはわかりました。ただ、環境課題の解決に対して非協力的だという結果でもなかったと思います。
そうすると、知らないからできない、または何をやっていいかわからないといった感情からアクションが生まれていないのでしょうね。

新井 確かに、今はまだ知らないという方には知ってほしいし、何か行動を起こせるきっかけを提供できれば、と思います。

しかし、知ってください、やってください、自分ごとにしてください、では限界があるというのは前述の通りです。

だから、人の無意識的な営みの積み重ねが、自然と環境負荷をなくすことに繋がる、そんな状態を目指さなければなりません。

ーそうすると、どうしても企業に変わってもらうことは前提条件になりますよね。

新井 まさにそうなのですが、メリットがなければ企業も変わる方向に動機形成のしようがありません。

だから、メリットを感じてもらうために環境系のコンサルタントの人々は「時代はこうだから、そうしないと売れません!採用できません!」と伝えるわけです。
それは間違っているわけではないですし、正しい面は多大にあります。
私もそれを伝えるときだってあります。

ただ、そういった目先のメリットだけでなく、大きな意味や意義を感じてもらえるよう膝を付き合わせて伝え続けることが、それ以上に大切だとも思っています。

実際、話をしていく中でそれらが伝わったと感じるシーンに数多く立ち会ってきました。

今回のアンケート結果を踏まえると、本当に否定的な人はごく少数。
そして国際社会における方向性の面では絶対にアゲインストではない。

だから、どこかで誰かに刺さると信じて企業を中心に地道な活動を続けていきたい、そのような気持ちを新たにすることができました。