日本の生活者の環境意識のリアル [前編] 環境系キーワードの浸透度から考える、人と環境課題との距離感

循環思考メディア『環境と人』では、生活者の環境についての意識を把握するために無作為の500人に対してアンケート調査を実施。

今回は、生活者と社会課題との距離感を見極めるべく、SDGs・ESG・カーボンニュートラル・サーキュラーエコノミー・エシカル消費という環境と関わりの深い5つのキーワードについての理解度・認知度を集計した。

その結果、それらのキーワードの浸透度は想定よりも低く、まだまだ未開拓な分野であることが判明した。

環境課題の解決に強い関心を持つ『環境と人』編集長 新井遼一は、このアンケート結果についてどのように感じるのか、インタビューを試みた。

タッチポイント数で圧倒する「SDGs」

ー今回は無作為の生活者500名にアンケートを行いました。
「SDGs」「ESG」「カーボンニュートラル」「サーキュラーエコノミー」「エシカル消費」という5つの環境と関わりの深いキーワードについて、

①日常的に使用するくらいに生活に浸透している
②人に説明できるくらいに理解している
③意味は理解している
④聞いたことがある
⑤初めて聞いた、これまで聞いたことがない

これらの5段階に分けてデータを収集し、集計した結果が以下のグラフです。
新井さんの率直な感想を教えてください。

新井 私の感覚とまさにマッチしたという印象です。

SDGs・カーボンニュートラルはメディアでの露出度が高いため、割と多くの方に接点があるワードです。
一方でそれ以外のワードは知る人ぞ知るといった状況であり、それが如実に結果に反映されていると感じました。

ー最も話題として取り上げられることの多い「SDGs」は、確かにほぼ全ての方が聞いたことがあり、約8割の人が意味まで理解していました。

新井 最近では子供向けの教育番組でもSDGsを歌にして流していたりと幅広い年代に対して認知を広めています。
メディアの影響力はやはり強いですね。

また、SDGsについてはメディアへの露出量の多さだけでなく、取り組み範囲が最も広い、いわゆる「社会課題のアベンジャーズ」であるという一面があります。

そういう意味では、他のワードは社会課題の一部分に特化したものであり、私なりに定義しているそれぞれのワードの相関図の通りの影響範囲だと感じました。

イチ手段に認知を獲られた「カーボンニュートラル」

ー次に理解度が高かったのが「カーボンニュートラル」でした。
しかし、それでも意味を理解しているパーセンテージは44.6%にとどまり、半数を超える方々が聞いたことがある程度、もしくは聞いたこともないと言う結果でした。

新井 カーボンニュートラルは温室効果ガスの排出量と吸収量をトータルでプラスマイナスゼロにするという考え方ですが、少し伝わりにくい概念だとも感じています。

恐らく「脱炭素」と聞くと「化石燃料の使用量を減らす取り組みですよね」という風に意味までご存知の方が増えるのかもしれません。

ー確かに脱炭素の方がポピュラーな言葉だという感覚はあります。

新井 とはいえ、脱炭素はカーボンニュートラル実現のためのひとつの手段ですので、そこだけが強調されるのは悩ましい部分でもあります。

つまり、カーボンニュートラルを実現するという大局的な考え方に注目すれば他の解決策も見えてくるはずなのに、脱炭素という部分に固執してしまうあまり、人の営みに悪影響を生み出す可能性があるということです。

これは世界的にも同様の傾向があり、昨年開催されたCOP27という国際会議では、日本が研究を進めているCCSという取り組みに対して非難が集まるシーンがありました。

CCSは、化石燃料で火力発電した際に排出されるCO2を集めて地中に埋めるという技術で脱炭素には繋がりませんが、カーボンニュートラルの実現に向けては大きく貢献するわけです。

しかし、世界の流れがカーボンニュートラルよりも脱炭素にシフトしていることで、化石燃料を延命させるような取り組み自体が問題と位置付けられました。

そういった風潮が強くなりつつある中、正しくカーボンニュートラルを理解することはより難しくなっていくのかもしれません。

狭く深くのキーワードは淘汰されるのか?

ーでは次に、「ESG」「サーキュラーエコノミー」についてです。
これらの言葉は6割以上の方が聞いたことがないという結果です。こちらについてはどう思われますか?

新井 今はまだ企業向けの言語であり影響範囲が狭いため、これも納得感があります。

ESGは日経新聞のようなビジネスメディアを見ている人にとっては、投資絡みのテーマで見覚えがあるかもしれませんが、理解にまでは至っていない可能性は十分にありえます。

また、TVなどの生活者に近いメディアでESG・サーキュラーエコノミーという言葉が使われているシーンを、私自身見たことがありません。

仕事で関わっている方々には身近な言葉ですが、それ以外の方はわからない・聞いたことがないという結果になるのは理解できます。

ー最後に、「エシカル消費」に至っては45.9%のもの人が聞いたことがないそうです。

新井 これは少し意外でした。

先ほどのESGやサーキュラーエコノミーよりはTVでの露出も増えてきているワードだったので、正直もう少し多くの方に認知されていると思っていました。

ただ、頻出するシーンに偏りがあるという意味ではESGやサーキュラーエコノミーと同じですが、どちらかというとこれは生活者が個人の活動の中で認知を獲得していこうとしている印象があります。

そういう意味では大きな企業が取り組んでいるものと比較したときに影響力が少し下がる傾向はあるのかもしれません。

認知バイアスがギャップを広げている

ー環境課題に関する言葉の認知度を通して浮かんでくる結論は、まだまだ生活者の理解や知識は総じて低いということでしょうか。

新井 そうともいえますが、まだそれくらいの状況で当然だとも感じています。

そもそも日本は世界と比較して環境課題に取り組み始めて日が浅いです。

しかも、環境関連の内容ってバイアスが強く掛かってしまう分野であるとも感じるのです。

例えば、上述の5つのワードのどれか一つを取り上げてみても、それらを真剣に追っている人の立場でいえば「環境によいことをする」という大きな目標は、雑な言い方で恐縮ですが大義名分になりやすいです。

そうすると、その言語や話題を知るのはもちろん実行するのも当然という認識になりやすく、その「当然」という感覚が、ご存知ない方々とのギャップを大きくしてしまうのです。

だから、私も含めそういったことを既に知っている人々が客観的な意識を忘れず、全体の傾向としてはまだまだ浸透していない、知らない方々が主流派、それが普通、そんな認識を持って伝えていかないといけないと思っています。

ー次に、『環境と人』編集部で独自に回答別に以下のように点数をつけ、各キーワードについて年齢別・性別で分類した際にどの程度の差があるのかを調査しました。

① 日常的に使用するくらいに生活に浸透している 100点
② 人に説明できるくらいに理解している 75点
③ 意味は理解している 50点
④ 聞いたことがある 25点
⑤ 初めて聞いた、聞いたことがない 0点

年齢ごと・性別ごとに平均点を出した結果が以下の表ですが、あまり差がなく驚きました。

新井 実際、年齢別・性別での差はないのだと思います。

点数化したときにおおよそ25点くらいと総じて低いため、これを30点・35点と徐々に増やしていかなければなりませんが、これは時代の流れで徐々に増えていくと感じます。

(後編へ続く)