GX時代のプロダクトデザイン[後編] ごみが生み出す新たなビジネスチャンスとは

前編では、GX(Green Transformation)が進む中、世界と日本の現状を客観的かつ論理的に検証した。

その中で明らかになったことは、日本企業が課題認識している以上に世界との差は大きくなっているということ、そして、海外企業の日本への進出に伴い日本企業は今後とてつもなく大きな変化に直面するであろうという事実だ。

そんな状況下で、メーカーをはじめとするこれからの日本企業は、どのように姿勢で「モノづくり」に取り組んでいくべきなのか。

前編に続き、編集長 新井 遼一に尋ねてみた。

GX時代のプロダクトデザイン[前編] 環境後進国「日本」の現在地を見極める

メーカーは「ごみが出ないプロダクトデザイン」を目指そう

ーそういった国際的な流れも踏まえた上で、これからの時代のモノづくりはどういったところに重点を置くべきでしょうか?

新井 ポイントは2つあると考えています。

ひとつは「ごみが出ないプロダクトデザイン」に取り組むこと、もうひとつは「ごみを活かすプロダクトデザイン」に取り組むことです。

ーまずは前者からご説明ください。

新井 「ごみが出ないプロダクトデザイン」とは、端的にいうと「売り切り」や「使い捨て」を前提としないモノづくりのことです。

「売り切り」を前提としないモノづくりにおけるキーポイントは「PaaS(=Product as a Service)モデルの導入」です。

これは、製品を売り切って終わりにするのではなく、製品が提供する「機能」をユーザーに継続的に販売するというサーキュラーエコノミーの考え方で、売り方そのものをシェアリングやリユースに変えていくことです。

PaaSモデルについてはリユース浸透とビジネス、両立の道を探るというコンテンツで詳細をお伝えしていますが、大企業においては導入までのハードルが高く、現時点で完全に実現できているのはあくまで限定された分野でしかないという課題があります。

とはいえ、PaaSモデルでの販売システムの必要性はこれから確実に高まっていくと考えられますので、少しでも多くのメーカーに長期の視線で考え取り組んでいただきたいと思っています。

リユース浸透とビジネス、両立の道を探る

ーなるほど。では、「使い捨て」を前提としないものづくりとはどういう意味ですか?

新井 循環を視野に入れたモノづくりのことです。

全ての製品をPaaSモデルに沿ってサービス化することは難しく、話が矛盾するようですが、実はどうしても「使い捨て」は発生してしまいます。

ですが、「使い捨てイコール焼却」と「使い捨てた後に再生できる」のとでは、環境負荷が全く違うわけです。

だから、最初から再生を念頭に置いた形で製品を企画していただきたいと思っています。

ー現状では再生を視野に入れたモノづくりができていないのですか?

新井 多くのメーカーが意識してくださるようになったと思いますが、リサイクルに携わる立場で見るとまだ十分ではないと感じております。

例えば、よく例に挙げるのが紙袋の持ち手部分です。
持ち手まで紙であればスムーズにリサイクルできるのですが、仮にそこをプラスチックでつくった場合、リサイクルするためには1点ずつ持ち手を外さなければなりません。

しかしそれを知らずに大量に紙袋をつくり仮にそれが廃棄となった場合、労力の問題から処理業者も1つずつ持ち手を外すことはできず、全て焼却せざるをえないのです。

ー複数の素材を使うことが悪いのですか?

新井 一概にそうとは言い切れません。

例えば複合素材を使用することで食品の保存期間が伸びるなどのメリットがある場合、フードロスの観点から考えると必ずしも悪いことではありませんよね。

ただ、合理的な理由がない複合素材の製品については、単一素材にするだけでリサイクルが可能になるというケースもあるのです。

だから、自社のモノづくりを改めて見つめ直していただき、目的や理由のないパーツがないか考えていただけるだけでも大きな前進に繋がることがあると思います。

「ごみを活かすプロダクトデザイン」が新たなチャンスを生み出す

ー「ごみが出ないプロダクトデザイン」については理解できました。では次に「ごみを活かすプロダクトデザイン」について教えてください。

新井 これまで廃棄に回していたごみを、リユース・リサイクル・アップサイクルの活用によって新事業の切り口にする考え方です。

こちらはメーカーに限らず、ごみを出しているあらゆる企業に新たなビジネスチャンスを生み出す可能性があると考えています。

ーリユース・リサイクルはわかるのですが、アップサイクルとはなんですか?リサイクルとどのように違うのですか?

新井 明確に定義づけされているわけではありませんが、一般的には、再原料化しているか否かで判断されているようです。

リサイクルは一度原料レベルに戻した上で製品化する手法、アップサイクルは再原料化せずに新たに製品化する手法、このような解釈をよく耳にします。

ただ、個人的には再原料化という工程の有無というよりは、出来上がったものの相対的価値がどう変動しているかで判断するのが妥当だと考えています。

例えば紙のリサイクルだと、再原料化した上で製品にしても、着地点は最高で紙どまりです。つまり価値の変動がありません。
それに対してアップサイクルは、紙から洋服、紙から家具という形で価値が変動します。流木をインテリアグッズにするのだってアップサイクルですよね。

ワンアイディアでごみを新たな製品として販売できるという意味で、アップサイクルはものすごく大きなチャンスを秘めていると思います。

なお、余談ですが、焼却時の熱利用などの燃料利用はダウンサイクルといわれています。

アップサイクルとリサイクル どう違う?~アップサイクルの役割と問題点~

ーごみを使って新たなビジネスを生み出すのであれば、元手がかからなくて済みますね。

新井 廃棄処理に回していた費用も浮くという意味ではコストカットにも繋がります。

ただ、新規事業を立ち上げることになるとサプライチェーンといった商売の仕組み自体を再構築しないといけないので、トータルで考えたときにコストが下がるとは断言できません。

とはいえ、今後は産業廃棄物の処理費用が上がってくる見通しですので、大局的にみるとメリットは十分にあると思います。

ーでは、企業にとってはアップサイクルに取り組まない理由はありませんね。

新井 理論上はそう捉えることもできるのですが、それほど単純な話でもありません。

そうはいっても企業の方々としてはなかなか取り組みにくい事情があります。

例えば、企業の多くは長年に渡り産廃処理業者に丸投げして「廃棄しておいて」と伝えれば済みました。
そこにビジネスチャンスを生み出そうという考え方にはなりにくいです。

そして日本の企業がそのようになっている背景には、安くても丸投げでも受注してきたという産廃業者側の問題もあり、この風土が変わるにはなかなか時間がかかると思います。

また、リユース・リサイクル・アップサイクルの中から最適なものをケースバイケースで選択するとなると、一定以上の知識と判断力が必要になります。

その点もチャレンジする企業が増えていかない理由のひとつだと思います。

静脈産業の構造がモノづくりを阻む

ーでは、企業が「ごみが出ないプロダクトデザイン」や「ごみを活かすプロダクトデザイン」に取り組むためには、何から着手すればよいのでしょうか?

新井 まずは自社から出るごみについてしっかりと見つめ直すことが大切です。
最近、SDGsに取り組むと宣言してボランティアやこまめな消灯に取り組んでいる企業の話をよく耳にします。
それをやめろとは言いませんが、自分たちが出しているごみをどうすべきかを考えた方が、よほど成果も大きく、イメージも変わります。

そのためには、まず自分たちの会社が何を捨てているのかを正しく把握しなければなりません。

そして次に、ごみに関する専門知識を持つアドバイザーを探しましょう。

例えば前述の紙袋の件ですが、持ち手にプラスチックを選んでいる企業のほとんどは、悪意なくそれを選択しており、単純に知らないことだけが原因なのです。

アップサイクルの件についても同じで、リユース・リサイクル・アップサイクルの中から妥当なものを選択するにしても専門的な知識が必要なのです。

ーでは、お世話になっている産業廃棄物の業者さんに相談すべきですね。

新井 ここに問題があります。

実はほとんどの産業廃棄物の業者は部分に特化した専門家なので、横串で考えることは難しいのが実情です。

その理由は、産業廃棄物処理などに関わる、いわゆる「静脈産業」が日本においては長らく縦割りで構成されてきたからで、例えばリユースの専門家はリサイクルやアップサイクルのことに造詣は深くないのです。
リサイクルひとつ取ってみても紙のリサイクルに携わる人は紙だけ、プラスチックのリサイクルに携わる人はプラスチックだけに特化しているといった状態です。

海外ではそういった分野を包括的に取り扱う巨大企業が存在するのですが、日本ではあまりにも細かく担当分野が設定されているため、進出を諦めたという話もあるくらいです。

つまり、知識を仕入れたいから静脈産業サイドの人々に相談したくても、歴史的背景のせいで横断的に考えられる「ごみのプロ」がほとんどいないのです。

静脈産業側から動脈産業側にフィードバックできない構造になっていることが、日本のモノづくりの前進を阻むひとつの要因ともいえる状況なのです。

ーそれでは企業がアドバイザーを探そうとしても難航しそうですね。

新井 現状は「学」の分野で専門的知識を持っている方はいらっしゃいます。

一方で、「産」の分野でアドバイザーをやっている方の多くは、これまで動脈産業側にいた方ばかりで、静脈産業に実際に携わってきた方が多くありません。
要は、あまり現場をご存知ない方が理論理屈をベースに奮闘されている状態です。

しかし、「価格」「品質」「安全性」というこれまでのモノづくりのキーポイントに「環境負荷への影響」という新たな側面が確実に加わってきつつある今、現場を知るその分野のプロが必要だと思います。

また、前編でお伝えしたように、世界からさまざまな評価基準を満たすことを要求されるようにもなってきます。

その時になってから取り組むのか、今から取り組んで先行者利益を目指すのかは企業の考え方次第ではありますが、個人的にはそこまでイメージして手を打つことが大事だと思います。