リユース浸透とビジネス、両立の道を探る

デジタルを通してリユース売買を望む個人をマッチングしてきたメルカリ。
リユースに携わっているのに「リサイクルショップ」といわれた時代から取り組んできたブックオフ。
これらの企業が業界を牽引してきたことでリユースという概念はとても大きな認知を獲得した。

しかし一方で、リユースが最適な形でビジネスの世界に浸透したかといえば、まだそうとも言い切れない。
環境課題を解決する上でとても重要なポジションに位置するリユースだが、ビジネス上のポテンシャルはまだ眠ったままだ。

今回は「リユース」をテーマに、今後の企業が環境負荷の低いビジネスを成立させるにはどうしたらよいかを考えていく。

リユースビジネスの現在地

ーリユースという考え方が広がってきている点についてどう思われますか?

新井 リユースそのものの社会的認知度が拡大したことはとても素晴らしいと思います。

そもそも環境負荷を考えた場合、リサイクルより先に着手すべきことがリユースです。
なぜなら、リユースが機能しないとリサイクル量、ひいては最終処分量が増える一方だから。

そういった意味ではリユースに携わる企業が業界を開拓してきたことには、ビジネス面のみならず環境面でもとても大きな意味があったと感じています。

ー反面、リユースビジネスは既に国内での限界が見えてきているという意見もあります。

新井 確かに現在の国内リユースビジネスは需給バランスが悪いと言えます。

リユースに携わっている方々の話を伺うと、国内の供給に対して需要が追いついていないようです。だから持ち込まれるリユース品の物量が国内市場で捌き切れず、海外に販路を広げざるをえないという現実があるようです。

ー海外に国内の資源が流出することは問題ですね。

新井 「資源循環もグローバル化」といわれる時代ですので、実は私自身は海外に資源が流出する点についてはそれほど問題視していません。

むしろ大量生産・大量消費社会のツケがリユース業界に及んでいるように感じており、その中でリユース業界は奮戦していると考えています。

ですが、不良品まで海を渡り現地で焼却・埋め立てられているという事実、輸送などのコスト面、それらに伴う環境負荷などを踏まえると、循環の輪は小さい方がベターだと思います。

ーつまり、環境に配慮するのであれば、国内でのリユースビジネスがもう一歩前進する必要があるわけですね。

新井 そうですね。そして同時に、まだリユースの世界には大きなビジネスチャンスがあると感じています。

例えば既存のリユースビジネスについていうと、本当に国内の需給バランスが取れていないのかどうか、不明瞭な部分もあります。
もしかしたら、欲しい人が欲しいものに巡り合えていないことで需要が満たされず、供給過多に見えているだけなのかも知れません。
これは需要・供給間でのやりとりがしやすくなるようにユーザビリティを向上することで解決できそうです。

また、供給する側がリユース自体を目的としているのではなく、お金を稼ぐことを目的にしすぎていることで循環が滞っている感も否めません。
実際に自らジモティーに無料でまだ使えるベッドを出品した際に、一晩で100人近くの方から欲しいと言われたことがあり、それを実感しました。

つまり現状ではリユース全体がまだ最適解を探っているような状態ということです。

浸透度もそれほど高くないとも感じており、より多くの人がリユース品に自然と関わっていけるよう接点を増やしていくだけでも状況は変わっていくのではないでしょうか。

中古品を右から左、がリユースではない

ーでは、システムを整備した上で関係人口を増やしていけば、リユースによる循環は一層加速しますね。

新井 おっしゃる通りです。しかし、それが難しいわけです。

聞いたところによると、リユース業界も新たな人材が流入してこない、割とクローズドな業界らしく、それではイノベーションは起こせません。
だから、多くの企業にポテンシャルを感じてもらい新規参入してもらうことが、ビジネス上も、リユース自体をさらに浸透させる上でも重要なことだと思います。

そういう意味では、多くの企業が「リユースビジネス=中古品を右から左に動かすビジネス」と思い込んでしまっている今は、新たな事業を開発する上でベストなタイミングともいえます。

少しだけ切り口を変えることでビジネスチャンスを掘り起こせる可能性は高いのではないでしょうか。

ー中古品を動かしてマージンを得るのではない、新しいリユースビジネスがあるのですか?

新井 確実にあると思います。

この話を理解していただくために、前提として現状で既にスムーズに流通しているリユースから説明します。

個人的な見解ではありますが、循環がうまくいっている分野は大きく2種類で、そのひとつはアンティーク・ヴィンテージといった古さが付加価値を生み出すもの。
楽器や家具や一部の衣類などが代表的です。

そしてもうひとつはリユースにより価格が大幅に下がるもので、中古車などの高額なものがそれにあたります。

これらは古さにより価値が高まるか、もしくは価格が大幅に下がるため、リユース品でも購入される理由が明確です。

ー確かにそれらを欲しがる人はいるでしょうね。

新井 そうなのです。もちろんどの業界にも苦労はあると思いますが、需給構造に非常に納得感があり理にかなっています。

その一方で、既存の国内リユースビジネスでうまく循環させられていない分野もあるわけです。
具体的には、生活に密着する家電・家具・道具などは、リユースであることで価値が高まるわけでも価格が大胆に下がるわけでもありません。

これらは既存のリユースビジネスでは大部分を海外に運搬する以外の解決策がありません。

しかし、この分野こそがリユース品のボリュームゾーンなのです。
だから、ここで角度を変えてリユースを広げていくことができれば大きなリターンがあると思います。

ーボリュームゾーンがまだ手付かずというのは不思議ですね。

新井 例えば、5年ものの炊飯器のリユース品を例に考えてみましょう。

製品ライフサイクルは8年程度といわれていますので先が短いことは明白、なのに価格も数千円と特別安いわけでもなく、おまけに補償もない。
それらが雑多とした雰囲気の店内で、掃除やメンテナンスも不十分な状態で売られている。

これでは購入する人が少ないのも頷けます。
だったら少し高くても新機能がたくさんついた新品を買おうと考えるのが自然です。

ここが国内で買い手がつかず海外に売られ、環境にも大きい負の影響を与えているのです。

新概念PaaSがもたらす「製品のサービス化」とは?

ーなるほど。では、リユース品のボリュームゾーンを適切に国内循環させるにはどうすればよいのですか?

新井 ここにPaaS(=Product as a Service)の概念を持ち込むことがキーポイントになるのではないでしょうか。

PaaSとは、従来のように製品そのものを売り切るのではなく、製品が提供する「機能」をユーザーに継続的に販売するというサーキュラーエコノミーの考え方です。

売り手側に所有権を持たせたまま、消費者にサブスクリプションやシェアリングといった形でサービスを提供し、何かあればメンテナンスしたり代替機を送るといったアプローチで、既にさまざまな分野の企業が取り組み始めています。

例えば、仏ミシュランでは自動車タイヤそのものではなく自動車の走行距離に応じたタイヤ使用料を支払ってもらうサービスを始めています。
これは「走る」という機能を売っているわけです。

厳密にはPaaSモデルの例とはいえないかもしれませんが、最近では家電や家具などのサブスクリプションサービスも増えてきており、事例は枚挙にいとまがありません。

ーPaaSモデルを活用すれば、リユース品やごみそのものの量を減らしながら企業主体でリユース品の循環が実現するということですね。

新井 多くの製品については課題解決に向けて前進するのではないかと期待しています。

ー多くの、ということはそれだけで解決しない分野もあるということですね。

新井 はい。PaaSモデルを現実的な運用にのせる上で変化が必要な分野があります。
その分野では、サービスを提供する側の企業が考え方を変えていく必要があるでしょう。

というのも、PaaSモデルにしたときの「価格設定」と「回収期間」の設定がとても難しいのです。

先ほどの例を踏襲して炊飯器で考えた場合、それなりに良質な新品が1万円程度で購入できる今の日本で、生活者は炊飯器自体をレンタルするサブスクリプションに月々いくらなら払おうと思うでしょうか。
月千円という価格設定だとしても、サブスクリプション10ヶ月分だと考えると、買った方がコストパフォーマンスが圧倒的に高いです。

また仮に「米を炊く」という機能をサービスとして提供するにしても、それを実現するためのネットワークまで考えるとそうそう安価には設定できません。

ー確かにそうですね。では、もっと価格を下げて更に長期で回収するのはどうですか?

新井 まさにそれが「回収期間」の問題です。

長期で回収しようと思った場合、製品寿命を伸ばす必要があります。
長く使える製品なら、利用可能期間も長期化するので現状よりリユース品としての価値は高まりますし、一見ベストに見えます。

しかし、仮に20年使える炊飯器を販売したとしても、その間に生まれる技術革新の恩恵を受けられないと思ったら、「8年くらいで切り替えるのがちょうど良い」と生活者は最初の購入段階で躊躇するでしょう。
その追加された機能の多くを結局は使わないのに、です。

そうするとリユースに回ってくる物量が少ないため、ユーザビリティは上がらず、サービスもリユース自体も浸透に繋がっていきません。

また、そうなると企業としては買い替え需要もリユースによる新しいキャッシュポイントも生まれなくなります。
これだけ経済が停滞している日本で活動する企業が、環境のことだけを考えて超長期で世界観を変えにいくのは現実的ではなく、企業に無理を強いるのもおかしな話、となります。

リユース×PaaSが新たなビジネスを生む

ーでは、PaaSは机上の空論ということですか?

新井 いえ、そう結論づけるのは早いと思います。

そういったものづくりに携わる企業が意識と仕組みを根本的に見直せば、自然なリユースの流れと利益創出は必ず両立できると思います。

例えば「ライフサイクルを長くする」という言葉の解釈を、「壊れずに長く使える」だけではなく、アプリケーションのように「部品交換や追加をしやすくする」に変えてみてはどうでしょう。

そうすれば、先ほどいった技術革新の恩恵を消費者も受けられるようになります。
そこで生み出される長期の顧客接点を活かして新たな商品を売っていくこともできます。

ウィークリーマンションや賃貸マンションの管理に携わる法人へ、家電をパッケージングして修理・交換ありの形でリユース品をサブスクリプション販売してもよいですよね。
法人相手なら取り扱う数量や金額が大きい上に、相互の企業価値が高まります。

結果的に海外への不要な流出は減り、リユース品の国内循環は進みます。

ーなるほど。PaaSなどの新たな考え方を引用して新たなリユースのビジネスモデルを開拓するタイミングが、まさに今ということですね。

新井 とはいえ、これらはあくまでも業界外の者が考えたひとつの仮説でしかありません。

ですが、つくる側も使う側もリユース前提で考える社会システムが必要になる点は間違いありません。
なぜなら、リユースを整えていくことは世界的な命題だからです。

ぜひ、そういった企業の方々の生の声を伺い、一緒にディスカッションを繰り返すことで本当に実現する可能性が高いPaaSモデルを構築していきたいですね。