おいしい一皿が社会を変える力となる?サステナブルなベーカリーカフェ「ブリコラージュ」の挑戦とは

2018年にSRA(サスティナブル・レストラン・アソシエーション)から「サスティナブル・レストラン賞」が贈られたことでも知られるレストラン「レフェルヴェソンス」のシェフ、生江史伸(なまえ しのぶ)氏が六本木のけやき坂にオープンさせた「ブリコラージュ ブレッドアンドカンパニー」。小麦の香りがふんわりと広がる味わい深いパンと旬の食材を使った料理を合わせたパンディッシュが食べられる同店には、サステナブルなアイデアがそこかしこに散りばめられています。

 

フードシーンをエシカルな視点で見たとき、食材調達までの工程、農家や環境への配慮、フードロス対策が重要な課題とされがち。ですが、ブリコラージュが実践する“持続可能な店づくり”は、従業員の働き方や健康まで考えて構築されています。そうすることで、そこにあるすべての要素が共鳴し合い、幸せな空間を作り出しているのです。

 

今回は、おいしい一皿から未来の社会の幸福を願う、「ブリコラージュ ブレッドアンドカンパニー」のサステナブルな店づくりについてご紹介します。

 

きっかけは震災後の東北での炊き出しだった

(出典:ブリコラージュ ブレッド&カンパニー HPより)

 

店名の「bricolage / ˌbrɪkəˈlɑːʒ / ブリコラージュ」は元はフランス語で、英語では「DIY」、つまり「Do It Yourself」。欲しい時間や場所は自分たちの手で作ってしまおうという思いが込められています。

 

震災後の2012年、東北の地での炊き出しにおいて、「レフェルヴェソンス」生江史伸が作ったホワイトソースの煮込みハンバーグを「ル・シュクレ・クール」岩永歩が作った真っ赤なビーツのパンに挟んで、仮設住宅で避難生活する人々に食べてもらったこと。それがブリコラージュ誕生のきっかけとなる出来事でした。

食べてもらった人々の喜ぶ姿から、自分たちが美味しいものを作ろうとしてきた意義を共有できた瞬間。そこから紆余曲折を経て、新しい店づくりが始まりました。

 

「尊敬する職人である仲間や生産者と共に作り上げる、日常を豊かに彩る朝ごはんが食べられる店=食べ手と作り手が皿を通じてつながれる場所」

「人々の健康だけでなく、自分たちが住んでるコミュニティの環境にも貢献できるもの、そしてどんな人間でも挑戦する機会があって、幸せに働くことができる場所」

これが、生江シェフが作りたかったベーカリーカフェ、ブリコラージュです。

スタッフは経験不問で採用

(出典:ブリコラージュ ブレッド&カンパニー HPより)

 

ブリコラージュでは、スタッフは経験不問で採用しています。

 

海外の名店で修業を積んだ生江氏は、帰国して東京に「レフェルヴェソンス」をオープンし、いわゆる「一流シェフへの道」を順調に歩んできました。店は成功を収めたものの、頭に浮かんだのは、「毎日14〜15時間働き続けることや、才能が第一に求められる厳しい競争社会において、この先自分も含めて働くスタッフたちにとって幸せな環境なのか?」という疑問でした。そこで、レストランのクォリティを保ちながら、かつ従業員が幸せになれる場所をつくりたいという思いが膨らんでいったのだそう。

 

そこで行きついたのが、“人ありき”での店づくりでした。

意欲さえあれば、誰もが新しい仕事にチャレンジできるのが健全な社会。飲食業界のルールや価値観に縛られないスタッフが集まることで多様性が生まれ、働く者同士が互いに調和を大切にすることによって、店全体の価値を上げる。これが生江シェフの考え方です。

確かにスタッフが和気藹々と笑顔でのびのびと働く店内には、自然と暖かな空気や幸せな時間が流れます。店に訪れる人を幸せな気持ちにするためには、店で働くスタッフも幸せでなければならない。これは当たり前のようで飲食店がなかなかできないことの一つかもしれません。

自然の恵みを無駄にすることなくパンにする

(出典:ブリコラージュ ブレッド&カンパニー HPより)

 

ブリコラージュのパンに使用するのはすべて国産小麦の全粒粉。全粒粉とは、小麦の表面を削らずに、表皮から胚芽、胚乳まですべてを粉にしたもの。フードロスを出さない全粒粉を使用することは、「人が都合よく切り取るのではなく、食材の命をできるだけ無駄にせず味わいたい」という生江シェフのこだわりによるものです。

(出典:ブリコラージュ ブレッド&カンパニー HPより)

 

自然の恵みを一切無駄にすることなくパンにする。ブリコラージュでは、一般的に精麦した小麦粉でなければ膨らまないといわれるクロワッサンにも全粒粉がたっぷり入っています。

 

国産小麦の消費量を増やし、食料自給率を上げること。国産の穀物を増やすことが私たちの生活の安定に繫がること。小麦粉一つをとっても、社会と地球の問題に真剣に取り組む姿勢がうかがえます。

切れ端も売れ残りも大切な食材

(出典:アングロジャパニーズブルーイングカンパニーHPより)

 

カフェで提供する際にどうしても出てしまうパンの切れ端は、クラフトビールの原料として利用されています。このパンから作る「ブレッドビア」は生江シェフが長年思い描いていたものだそう。製造は長野県野沢温泉にある「アングロジャパニーズブルーイングカンパニー」が手がけており、売り上げの1%は、ゴミを出さない経済循環を目指すコミュニティ「530week」に寄附されています。

 

一方、売れ残ったパンはどうするかというと、ラスクに再利用して販売されています。さまざまな種類のパンから作られたラスクが一袋にまとめられており、店頭では大人気。しかし、これはあくまでもフードロスを減らすための工夫であって、どれだけ人気があろうとラスクのためにパンを焼くことはしないのだそう。

サステナブルな店づくりはひとつひとつ楽しみながらゆっくりと

(出典:ブリコラージュ ブレッド&カンパニー HPより)

 

ブリコラージュには、他にも持続可能な店を作るアイデアが散りばめられています。その一部をご紹介しましょう。

最後の一滴まで掬えるオリジナルスプーン

ブリコラージュで使われているスプーンは、一本一本手打ちで仕上げた凹凸が美しい鉄製のスプーン。三重の松坂に工房を構える鍛冶職人 赤畠大徳氏にオーダーして作ってもらったものだそう。韓国のスッカラをイメージした形状で、スープを最後まできれいに掬えるよう、右利き用と左利き用が用意されています。掬いやすければ食べ残しが出づらい。オーダーメイドのカトラリーはフードロス対策の一環でもあるのです。

カフェの皿は未完成の有田焼

カフェでは鮮やかな藍が目を惹く有田焼の皿が使われていますが、中には絵付けが途中で終わっているものもあります。この未完成の皿は、生江シェフが工房を訪ねた際に、裏手に放置されていたもの。磁器は粉砕して再利用することが可能です。ですが、大きな工房となるとリサイクル率は60%程度と聞き、カフェで利用することに。

生ごみ処理機で可燃ごみを削減

ブリコラージュの厨房には、業務用に生ごみ処理機が設置されています。バクテリアの力で生ごみを分解し、安全な形にして下水流に流すことによって店から出る生ごみを削減。焼却炉で燃やさないことで、CO₂を約96%カットできます。このように日々のごみの量を可視化することで、スタッフの意識も変わってきたそう。

生分解性の竹ストローを採用

オープン当初、カフェではプラスチック製のストローを使用していましたが、再検討した結果、生分解性の竹ストローを使うことに。このように、違和感のあることはリサーチして改善していくのがブリコラージュのスタンス。他にも店舗でステンレス製ストローやインスレートボトルなど、ゴミ削減に繫がる商品も扱っています。

古材を再利用したフローリング

ブリコラージュのカフェスペースは日本の民家を思わせるどこか懐かしい空間。床材には、解体予定だった古民家で使われていたものを運び出した木材を再利用しています。椅子やテーブルも古い木製家具で、デザインもバラバラですが、それが訪れた人がホッとするようなあたたかな空気感を生み出しています。

制服は白いエプロンのみ

スタッフが身に着ける制服は白いエプロンのみ。その他は飲食店にふさわしいものをいうルールで各自が準備しています。生江シェフによると、与えられた制服を身に着けることは、時に別人格を生み出してしまうと言います。非日常を楽しむレストランではそれもいいですが、カフェやベーカリーは日常の延長線上にあるもの。スタッフも自然体のまま自分本来の姿で働いてもらいたいというシェフの思いが込められています。

料理を作ることは信頼する生産者との共同作業

(出典:ブリコラージュ ブレッド&カンパニー HPより)

 

ブリコラージュで使用している食材は、バター以外ほぼ国産。生江シェフが実際に会って話を聞き、自然との向き合い方や、その哲学に共感した生産者のものを使用しています。

生江シェフにとって料理を作ることは、信頼する生産者との共同作業。佐田岬で行われているオーガニックの養蜂場、愛媛の柑橘農家、北海道の全粒粉小麦…多忙なスケジュールの合間を縫って全国の生産者を訪ね、実際に見て、食べて、話をします。

 

付き合いのある生産者はみな「自分の行動が地球環境に対してプラスになるんだったら、それをやろう」という人ばかり。彼らは日々、環境のこと、100年先のことを考えています。生江シェフは、料理を通して彼らの生きざまを伝えるのが自分の役割だと話します。

つまりブリコラージュの一皿に込められているのは、生産者をはじめ、そこに関わる人たちの思いやストーリー。「食べ物とそれを作るさまざまな人と自然」、その繫がりを意識しながら食べることによってみんなが物の価値を考える。生江シェフの視線の先には、そんな未来が描かれているのでしょう。

「ブリコラージュ」は新しい価値観を発信する場所

(出典:ブリコラージュ ブレッド&カンパニー HPより)

 

古民家の床材を再利用し、年代ものの木工家具を配置した、くつろいだ空気が流れる店内。オープンキッチンのある開放的な空間では、スタッフがのびやかにきびきびと働き、高音質のスピーカーからはロックやジャズが流れています。供されるパンは噛むたびに小麦のいい香りが広がり、料理は食材ひとつひとつが力強く、とびきり新鮮。

ブリコラージュの幸せな一皿を口にした人々は、きっと目に見えない人や自然との繫がりに気付くでしょう。

 

物を選んで買うということはそれを作っている人に一票を投じるのと同じこと。食べ物にはそれを作るさまざまな人がいて、その背景には自然がある。その繫がりを意識しながら食べることで物の真価はどこにあるのかをみんなが考えるようになれば、世界はもっといい方向へ動き出すはずです。

生江シェフの考えに共鳴する人や物が少しずつ広がって、新しい価値観を発信していく力になる。ブリコラージュはその発信基地の役割を果たしていると言えるのかもしれません。

 

サステナブルな店づくりと言うと難しく考えてしまいがちですが、満足のいかないことや違和感を感じることを一つずつ改善していき、できていることに目を向けて楽しみながら取り込んでいくことが、よりよい世界を作るダイナミズムになる。ブリコラージュのサステナブルな挑戦はまだまだ続きます。