2021年度の「グリーン購入大賞」を受賞した「キミカ」ってどんな会社?

環境に配慮した製品やサービスを、環境負荷低減と社会的責任の遂行に努める事業者から優先的に購入する「グリーン購入」。その普及・拡大に取り組む団体を表彰する制度に「グリーン購入大賞」があります。

2021年度は、東京に本社があるキミカ株式会社が大賞と環境大臣賞を同時受賞しました。アルギン酸のメーカーといいますが、どんな会社なのでしょう。また、どんなサステナブルな取り組みをしているのでしょうか?

「グリーン購入大賞」とは?

「グリーン購入大賞」は、グリーン購入に率先して取り組む企業や行政、民間団体などの緩やかなネットワークとして1996年に設立された「グリーン購入ネットワーク(GPN)」が、環境省、経産省、農水省などの後援を受けて設けており、今年度で22回目になりました。

国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の一つに「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」という項目があります。持続可能な調達を通じて、脱炭素やSDGs、サーキュラーエコノミーを実現する取り組みに努めている企業や団体を表彰するものといえましょう。

大賞を受賞した「キミカ」って、どんな会社?

私は存じ上げなかったのですが、株式会社キミカは、天然の海藻からアルギン酸を抽出・供給する日本で唯一のアルギン酸専業メーカーなのだとか。

アルギン酸? なんだか難しそうな気がしましたが、2021年9月、キミカの広報担当の方から話を聞く機会があって、興味を持ちました。ちなみに、一昔前、「男には男の武器がある」というCMで有名だったエナジードリンク「アルギンZ」に含まれているのは、機能性アミノ酸アルギニンで、アルギン酸とは関係がないとのことでした。

アルギン酸は、昆布やワカメ、アラメヒジキ、モズクといった褐色の海藻類から抽出されるネバネバ・ヌルヌルの天然成分。海藻が海の中で波のリズムに任せてしなやかに揺れる、あの「体幹」を支えているのが、このゼリー状の物質だそうです。

水分を多く含んだ生野菜をはさんでも、長時間冷蔵していても、パン生地のモチモチ感が保たれているコンビニのサンドイッチ。その秘密は、アルギン酸の持つ保湿性と弾力性による効果によるもの。

インスタント麺のしこしこした食感を出したり、ビールの泡持ちを良くしたり、歯科治療で歯型をとる材料に配合されたり……。様々な機能を持つアルギン酸は、食品や医薬品のほか、化粧品、繊維、鉄鋼、製紙など幅広い分野で活用されているといいますから、私たちも知らないうちにどこかでお世話になっているに違いありません。

キミカは、このアルギン酸の国内市場で9割以上のシェアを持ち、世界の食品・医療業界でトップシェアを握っているといいますから、すごい会社です。

南米チリの漂着海藻を使う

キミカの取り組みは、なかなかユニークです。原料にしているのは、南米チリの南北に何千キロにも及ぶ海岸に漂着した、硬くて食べられず、使い道のない海藻です。生きた海藻を刈り取る行為は生態系を壊すことになるので一切行わず、コストがかかっても人手をかけて漂着海藻を拾い集めることにこだわっています。現地の雇用にも配慮して、海藻の採取はチリの漁民に任せています。

南米のチリと海藻はあまり結びつかないかもしれません。欧米人は海藻を食べる習慣がありませんけれど、チリの人は海藻料理を食べます。チリの有名シェフが来日した時、コロフという海藻の茎からとったうま味を凝縮した独創的なスープをいただいたことがあり、口の中に海がぱあっと広がった味の記憶は忘れられません。

チリには1000種類以上の海藻が生息していて、そういえば、近年日本でも、コチャユーヨなる海藻が「インカのスーパーフード」として話題になりました。私も試したことがあるのですが、スープに入れても噛み応えのある食感が残り、私が知っている海藻とは全く違っていました。

ちなみに、ローマ皇帝ネロの治世下で活躍した薬草学者、ディオスコリデスは「デ・マテリア・メディカ」というハーブなど医療用草木をギリシャ語で本にまとめていますが、そこには炎症に褐藻を使うように書いてあります。地中海世界では、海藻はクスリだったのですね。

海藻は「天恵の資源」~原料調達から最終処理までSDGsに即した手法を採用

海藻残渣まで肥料に

さて、アルギン酸製造の話に戻ります。

チリの漁民たちが拾い集めた漂着海藻は、広大なアタカマ砂漠に面した海岸で天日干し。短時間でカラカラに乾燥します。重量の大半が水分の海藻を乾燥するには通常膨大なエネルギーが必要ですが、何も手を加えない自然乾燥なので、電力や化石燃料を大量に消費することがありません。

海藻からアルギン酸を取り出す手法は、創業者の笠原文雄氏が考案した「浮上沈下分離法」を踏襲しています。難しい方法のように思えましたが、聞いてみると、特殊処理した海藻抽出液をタンクに静置しておくだけの、何ともアナログでエコな製法。簡単なので、チリの人たちにもすぐに受け入れられました。

化学薬品を全く使わないため、アルギン酸を抽出した後の海藻残渣(カス)も、ミネラル豊富な肥料として活用できるメリットがあります。この肥料は、チリの工場近隣の農家に無償で提供されています。

工場は、世界的なワイン産地マイポヴァレーに立地しているので、ワイン用ブドウ栽培に大いに利用されているようです。日本のワイン輸入量でここ数年トップの座を占めているのはチリワイン。皆さんが飲んでいるチリカベ(チリ産カベルネ・ソーヴィニヨン)も、海藻ミネラルたっぷりの肥料で育てられているかもしれませんね。

倉庫を建設、チリ漁民の生活を安定化

同社がチリの現地で最も苦労したのは、海藻を保管する仕組みづくりでした。海藻は、価格が乱高下する市況商品です。しかし現地では在庫を持つ習慣がなく、「在庫は海にある」という感覚でした。周辺には世界屈指の銅鉱山があり、海藻の収穫だけでは生活が苦しかった漁民たちの労働力を鉱山に取られてしまうこともたびたびでした。

つまり、漁民たちに、海藻を拾うだけで生計を立てられるという経済的安定をもたらさないと、継続的な調達は難しかったのです。そこで同社は、現地の海藻調達会社2社に資本参加して巨大倉庫を建設、漁民たちから継続的かつ安定的に買い取ることにしました。。倉庫保管を始めたことで、投機的な海藻乱獲はぐんと減り、漁民たちの生活水準を飛躍的に向上させることもできました。

また、工場の周辺地域は降雨量が減って水不足が社会問題化していました。複数の飲料タンクを設置し、近隣住民に飲料水を無償で提供するサービスも行っています。

キミカの創業について

創業者のひらめき

海藻からアルギン酸を取り出す手法は、創業者が考案したやり方を踏襲していると前述しました。ここで、同社の歴史について簡単に触れておきましょう。

創業者の笠原文雄氏は信州・岡谷の出身で、生糸の国際貿易を学ぶために東京商科大学(現一橋大)を卒業。兵役中にマラリアに罹患し、1938年、軍の命により気候温暖な房総半島に向かい、千葉県君津市の民間施設で転地療養することになりました。信州育ちの文雄にとって、眼下に広がる海岸線は新鮮な光景であったに違いありません。

当時浜辺は、打ち上げられた海藻カジメで埋め尽くされていました。カジメは硬くて食用には向かず、地元漁師も見向きもしない、まさに海の藻屑でした。

「海藻こそが海洋国家・日本に与えられた天恵の資源。ただ腐らせていてはもったいない。海藻資源を有効に利用することで、存亡の危機にある国家のお役に立ちたい」――こんな若者のひらめきから、キミカは誕生しました。

療養の傍ら独学で化学を学び、まず、海藻からヨウ素やカリウムを抽出しようと考えました。これらの栄養素を、鉱物ではなく繁茂する海藻から抽出することは、資源調達戦略から極めて重要な意味がありました。しかし研究を続けるうちに、天然の食物繊維・アルギン酸に注目することになります。

1941年5月、文雄27歳の時、君津化学研究所(現キミカ)を設立。当時の日本にはアルギン酸に関する文献・資料は皆無に等しく、一人で未知の世界に踏み出したのでした。

そして、日本で初めてアルギン酸の工業生産に成功。その研究成果により1961年に東京大学から工学博士の学位を受けました。東大が文系出身者に工学博士号を授与するのは初めてだったといいます。取得したアルギン酸関連の特許は20以上に及び、「海藻化学の父」としてアルギン酸の普及・発展を主導しました。

事業家としても才覚を発揮し、アルゼンチンなど世界の企業と技術提携して戦後乱立した同業他社との価格競争に打ち勝って事業を拡大しました。しかし、1984年、71歳で急逝します。

悪条件の中、チリに活路を求める

その跡を受けたのが、息子の笠原文善氏(現社長)でした。当時20代、大手製薬会社の研究開発部門を辞めて、急遽入社。ところが、事業を取り巻く環境は最悪でした。

エルニーニョ現象で海水温が上昇し、漂着海藻を安定的に調達するのが難しくなっていたのです。追い打ちをかけるように、海藻残渣の大口販売先から突如買い取り中止を宣言されました。東京湾の環境規制が厳しくなり、廃水処理に数億円の投資が必要になる一方、中国メーカーが低価格攻勢をかけてきたのです。

周囲から事業転換を勧められ、本気で会社の幕引きを考えたこともあったそうですが、会社を継続させる方法を模索。それまで商社経由で海藻を仕入れていたチリに進出することを決意しました。

1988年、チリにアルギン酸プラントを建設して操業をスタート。ここから、前章でご紹介したチリでの取り組みが始まります。

キミカが取り組むアルギン酸とサステナビリティ

サステナビリティへの貢献は、漂着海藻にこだわる原料の調達方法やエネルギー消費を最小化した製造工程だけにとどまりません。「アルギン酸は、SDGsの達成に不可欠な素材として、持続可能な社会づくりに貢献しています」と、キミカの広報担当の方は強調していました。

植物性代替肉

その一つが、植物性タンパク質の利用技術を陰で支える役割です。

世界人口の増加によって、食料不足は年々深刻化しています。特に、畜肉の供給量は限界に達しつつあり、近い将来、タンパク質が不足すると危惧されています。こうした食料問題の解決策として近年期待されているのが、大豆などの植物から取り出したタンパク質を肉の形状そっくりに加工した「プラントベースミート(植物性代替肉)」です。

プラントベースミートは畜肉と異なり、混ぜて練っても粘りが出ません。そのため、バーガーのパテのような形状に加工するには、高い結着力のある結合剤を加える必要があります。アルギン酸のユニークな物性は加工結着や成形にうってつけ。プラントベースミートの製造に幅広く活用されています。

畜産は環境負荷が大きく、国連食糧農業機関のレポートで「温室効果ガスの18%が畜産によるもの」であり、「畜産は環境問題の最も重要な原因のひとつ」と指摘されています。現在の畜産がもたらす環境負荷を軽減する対策としても注目されています。

食品端材の結着

加工結着を得意とするアルギン酸の物性は、食品ロスの解決にも貢献しています。

食品ロスの要因の一つが、食品加工場で発生する「端材」です。規格に沿う商品にするためには食材の一部を切り取ること自体はやむを得ないことです。そこで注目されているのが、端材同士をつなげることで価値ある商品に生まれ変わらせる結着技術です。

アルギン酸を活用すると、端材となった肉同士をつなげて一枚の肉を形作ることができます。野菜同士を結着することもでき、たとえばオニオンリングの加工などに利用されています。

人工フカヒレ

また、サメを乱獲から守る「人工フカヒレ」でも、アルギン酸は重宝されています。

天然のフカヒレは高値で取り引きされる高級食材。世界各地でサメの乱獲が起きて問題化しています。生きたままヒレだけを切り取って、傷ついたサメをそのまま海に投げ捨てる残虐な行為が後を絶たず、天然フカヒレの流通自体を禁止する国が増えています。

こうした問題の解決策として期待されているのが「人工フカヒレ」。アルギン酸のゲル化の性質を利用して加工すると、見た目も食感も天然フカヒレと遜色のない人工フカヒレが出来上がります。単なるコピー食品の域を超え、サメを傷つけることなくフカヒレ料理を楽しむことができる「サステナブルフーズ」として、持続可能な社会づくりに貢献してるといえましょう。

再生医療

アルギン酸を使った再生医療の研究も進んでいます。

心身ともに健康に過ごせる「健康寿命」を延ばすことは、超高齢化社会の日本にとってとても重要です。そのカギを握るのが再生医療。アルギン酸は生体に使用する素材、バイオマテリアルとして、再生医療に応用されています。たとえば、膝の軟骨がすり減って歩けなくなった患者さんの膝にアルギン酸を注射します。ゲル化して必要な場所にとどまり、軟骨細胞の再生を促す足場として働きます。実用化に向けて、研究は最終段階まできています。ほかにも、人工臓器の制作にも利用されるなど、再生医療の分野でアルギン酸の役割は年々高まっているようです。

まとめ

創業者の「もったいない」精神から始まったのが、キミカの事業でした。

海藻の生態系に介入することなく原料を調達し、その残渣まで肥料として利用して、すべてが自然の中で循環されているビジネスモデルの一つとして、私たちが参考にできることは多いのではないでしょうか。

現地で働く人たちへの目配りも忘れていません。チリにおける漁民の貧困解消や生活向上につながる取り組みなど、サステナブルな働き方、暮らし方を教えてくれます。そして日本国内では、「地域に必要とされる存在になり、社員皆が会社を誇りに思えるように」との願いを込めて、環境に関する出張授業や清掃ボランティアなどに力を入れているそうです。

「中小企業は社会課題を経営課題ととらえていないと社会で生き残れない。サステナビリティという課題は、会社の存続に直結している」というのが、笠原社長の持論です。

コロナ禍は、キミカにとっても売上への影響が小さくありませんでした。しかし、昨年2021年は欧米での食品向けが好転し、工場はフル操業が続いていて、数年内に年商100億円超えを目指しています。

アルギン酸一筋に深堀りしてきたことが強みでしたが、気候変動などで原料調達に大きな変化があった場合、一番の弱みにもなりかねません。今後はアルギン酸以外の素材にも力を入れる方針のようです。食品のとろみ付けなどに利用される天然のキサンタンガムなどはすでに商品化されています。