食品を保存しながら、自然環境を守る

改正容器包装リサイクル法の省令改正に伴い、2020年7月1日より、プラスチック製レジ袋の有料化が全国の小売店で一斉に始まりました。

それ以前にもエコバックを利用する人は一定数いましたが、有料化は消費者の環境に対する意識を大幅に高め、海洋プラスチックごみ問題への気づきを与えるきっかけとなりました。

デザイン性に優れたカラフルなエコバッグもたくさん登場し、ファッションアイテムの一つとして私たちの日常生活に彩りを加えています。

一方で、購入した食材を家庭でカットしたり調理したりした後、あまり意識せず日常的に使用・廃棄しているプラスチック製品があることにお気づきでしょうか。

そう、食品の保存に欠かせない「ラップ」です。

一度きりの使用でごみとなる樹脂製ラップ

便利で手軽な樹脂製ラップ

料理レシピに「材料:玉ねぎ半分」とあると、切った残りの半分の断面をすぐにラップで包んで冷蔵庫の野菜室に保存します。

作り過ぎて残った夕飯のマカロニサラダ、そのままガラスの器にラップをかけて冷蔵庫に入れ、翌日のお弁当にも、汁がこぼれないようまた新しいラップを敷いて詰めます。

お弁当のおむすびもラップごと握れば、手にご飯が引っ付かないので便利です。

炊飯器の余ったご飯は、ラップにくるんで小分け冷凍しておけば、いつでも解凍して食べられます。

煮魚やシチューを電子レンジで温める際にもラップは重宝します。

水分や旨味を逃さず適度に食品を蒸らす効果があるので、ふんわりラップをかけて加熱すると、まるで作り立ての食感が味わえます。

そんな日常使いのラップを切らさないよう、買い置きしている家庭も多いでしょう。サイズも豊富なので数種類購入し、用途に合わせて使い分けたりもできます。

食品の鮮度を長持ちさせ、忙しい現代人の家事に時短をもたらしてくれる逸品ですが、衛生上の観点から基本使いきりであるため、剥がしたラップは次々とゴミ箱に捨てられているのが現状です。

容器包装リサイクル法上、家庭で使用されたラップは可燃ごみと定義されています。

分別する必要がない上に収集頻度が高いため、私たちは当たり前のようにラップを可燃ごみとして捨てています。

毎日廃棄されるラップは25mプール50杯分

パッケージを含めたラップ製品1本(20m寸法)あたりの重さは約150グラムです。

仮に一世帯あたり月1本消費するとして、年間で約1.8キログラム。東京都の場合、2020年度の総世帯数は約700万なので、単純計算では実に年間約12,600トン、実に25mプール50杯分ものラップを廃棄していることになります。

さらに、各地方自治体の焼却施設で燃やされたごみは大量の灰となり、最終処分場で埋め立てられます。

環境省によると、最終処分場の残余年数は2020年時点で全国平均21.6年(図3-1-20参照)となっています。ごみ処理技術が向上しているとは言え国土が限られる日本、このペースでごみを出し続けると、21年後にはごみの行き場はなくなってしまうのです。

またプラスチックは、紙くずや合成繊維くずといった他の一般廃棄物に比べ、約5倍のCO2を排出(P3~4図参照)する為、これが地球温暖化現象に影響を及ぼしていることも否めません。

日常生活における利便性を優先するあまり、私たちはいつの間にか「大量生産→大量消費→大量廃棄」という一方通行の経済システム(リニアエコノミー)の上に胡坐をかいてしまっているのです。

次世代が安心して暮らせる持続可能な社会を実現するために、まずは日用品である使い捨てラップを、少しでも減らすことはできないでしょうか。

再利用可能なラップ代替品:蜜蝋ラップ

ごみを減らし(リデュース)、今あるものを再利用し(リユース)、リサイクルにつなげる。この循環を可能にする代替品の一つに「蜜蝋ラップ(Beeswax food wrap)」があります。

樹脂製ラップと機能は変わらず、洗って乾かせば何度も使える

最近耳にするようになった蜜蝋ラップですが、蜜蝋自体を保存に活用していた歴史は長く、古代エジプト時代にまで遡ります。当時はミイラの保存に使われていたという記録が残っています。

その後、1900年代の欧米ではすでに、蜜蝋を染み込ませた布を食品保存用途で使用していたようです。

材料は全て生分解性のある自然素材であること、使用後は洗って乾かして何度も繰り返し使えることなどから、環境にやさしい代替品として蜜蝋ラップに注目が集まっています。

市販品も多く出回っており、値段は2, 3枚で20m樹脂ラップの約10倍以上です。

繰り返し使えるとは言うものの、日用品にしては高い…と思われるかもしれません。

その場合、蜜蝋ラップを自分で手作りする方法もあります。

家庭で手作りできる自然由来のラップ

家にあるコットン100%のハギレを使い勝手の良い大きさにカットし、クッキングシートの上にその布を置きます。

その上に蜜蝋を載せて(ココナッツ・ホホバオイルを加える場合も有り)、クッキングシートで覆ってから低~中温のアイロンをかけ、布に溶けた蜜蝋を染み込ませ、冷ましてクッキングシートをはがせば完成です。

作り方を公開しているウェブサイトも多数ある

蜜蝋ラップには粘着性もあるため、器やジャーの口に合わせてぴったり密閉することができます。カットした野菜や果物を形通りに包むのにも適しています。

自然素材でできたエコラップを日常生活に加えることで、使い捨て樹脂ラップの使用を少しでも減らすことができれば、より持続可能な社会の実現に向けた一歩につながるのではないでしょうか。

消費者の習慣、行動を変える規制

そもそも「ラップを使用する」という当たり前に疑問を持ってみることも、持続可能な社会を考える一つのきっかけとなります。

人は長年継続的に行ってきた習慣をなかなか簡単に変えられない生き物です。私たちはトイレットペーパーを切らす前に必ず買うように、ラップも定期的に購入し続けています。

レジ袋に関しても、法律によって全国有料化が定められるまでは、そこまで徹底したエコバッグ思想を持っていた人はかなり少数派だったのではないでしょうか。

欧州連合は2021年7月、使い捨てプラスチック製品の流通を禁止するEU指令(the EU Single-Use Plastics Directive)を施行しました。

欧州委員会によれば海洋ごみの80%がプラスチックであり、その内の70%を削減することで人々の健康と地球を守り、持続可能なビジネスを促進してサーキュラーエコノミー(循環型経済)に近づけることをターゲットとしています。

これにより小売店の食品包装は、プラスチック袋や樹脂製ラップから紙製に次々と切り替えられています。

禁止対象は外食産業のプラスチック製スプーン・フォーク・ナイフや皿などの10品目に至り、いわゆる私たちがコンビニやスーパーで購入するお総菜の容器や、そこに付いてくるスプーン等が一切使えない状況を想像してみると、非常に厳しい規制だとわかります。

ラップを使わないという選択

とりわけ環境への意識が高い北欧では、ラップ自体を使わないための保存容器が多く使用されており、またそれを製造するメーカーも複数あります。

使いやすいシリコン製容器

容器は主にシリコン製であり、スープなどの液体を入れてもこぼれないよう密閉する蓋が付いています。

プラスチックに比べて耐熱性・耐油性・耐酸化性があり、冷蔵庫の中で鮮度を保ちながら食品を保存することが可能で、そのまま電子レンジで温めることもできます。

さらに、シリコンの原料は天然由来のケイ石(SiO2)であるため、CO2削減効果も大きく、環境にやさしい素材であると言えます。

その他、ホーローやガラス製の容器にシリコンや木製の蓋が付いたタイプなど、様々な食品保存容器があり、色もカラフルなので、冷蔵庫の中もおしゃれになりキッチンの時間が楽しくなりそうです。

考えてみれば日本でも、初めて樹脂製ラップが発売された1960年より以前は、食品をできるだけ長持ちさせるために様々な工夫を凝らしていたわけです。

例えば、調理法を変えてみたり、食べきれる量だけを作るようにしたり、その日のうちに消費する食材だけ購入するようにしてみる。

そんな日々の小さな意識的行動の積み重ねが、リデュース→リユース→リサイクルと良い循環を生み出すことにつながってゆくのではないでしょうか。

私たちは日々、生産と消費を繰り返して生活しています。自然と共生しながら人間の経済活動を行える持続可能な循環型社会の実現に向けて、まずは使い捨てラップの使用を少しでも減らしてみませんか。