紙の業界にいると、紙が好きでたまらなくなる

紙の業界に入って8年目ですが、最近、どんどん紙を好きになっています。

食い扶持だから、というのもありますが、紙の魅力は知れば知るほど深いという点にすごく惹かれています。

あらゆる面で人間の生活に浸透していながら、ほとんど意識されていないんです。便利すぎて、存在が当たり前になっている。理想の侵略者です。プラスチックもいい線いってましたが、最近は悪者になってしまいました。

何千年かすると、半導体がこのポジションになっているんでしょうか?

残念ながら知る由もないですが、意外と変わらず紙を使ってる気もします。

この記事では、そんな紙のいいところを紹介したいと思います。

紙のいいところ1 / 2,000年以上付き合っている

紙と人間の付き合いは2,000年以上と言われています。犬と人間が1万1,000年なのでそれには及びませんが、2,000年前といえば縄文時代。歴史は土器と同じくらいでしょうか。

また、紙が中国から日本に伝わったのは7世紀ごろとされていますが、日本では紙を神聖視したため、当時主流だったぼろ布を原料とせず、楮(こうぞ)三椏(みつまた)といった植物から繊維をとり、独自に美しい和紙をつくったと言われています。

そのような経緯で高級品だった当時の紙は、平安時代からリサイクルされていたようで、現代でもしばしば「リサイクルの優等生」と言われたりします。

紙のいいところ2 / 半永久的に製造できる

紙の原料といえば「木」のイメージが強いですが、実は60%以上が古紙からできています。これは、水で古紙を繊維の状態まで解きほぐし、乾燥させて再利用できるためです。

原料の残りの40%は木材で、これも製紙メーカーによる「自分で使う分は自分で植える」植林事業でつくった木材が使われています。

植物は成長期に最もCO2を消費するので、植林の方が成熟したアマゾンなどの原生林よりもCO2固定化効果が高いと言われています。

ちなみに、このメーカーによる植林事業は、東南アジアなどで開発により天然の森林と生態系が破壊される問題が指摘されたことで、持続可能な森林管理を認証するFSCという規格が制定されました。

これは、消費者がFSC認証を受けた製品を購入することで、違法伐採や生態系の破壊を防ぐことを目指す仕組みです。

かくして、自ら植林し産み出される木材と、使用後の製品が循環する古紙を原料とする紙は、半永久的に繰り返すことのできるサイクルを構築しています。

紙のいいところ3 / 地下資源や生態系に優しい

紙はカーボンニュートラルです。

先に触れたとおり、紙は大気中のCO2を固定化した植物を原料とするので、理論上、燃やしてもCO2は増加しません。

また、プラスチックよりも自然分解されやすいため、海や河川に流出したとしても既存の生態系へのダメージは限られています。

こどもの頃、紙を食べた経験があるのは、筆者だけではないでしょう。

紙のいいところ4 / いろんなかたちで役に立つ

紙には大きく、記録する(印刷)、包む(段ボール)、吸収する(ティッシュペーパー)という三大用途があります。

この柔軟な使いみちこそが2,000 年以上人間と慣れ親しんだ紙の本質ともいわれていますが、近年は更なる用途開発がなされています。

災害時の簡易ベッドとして段ボールが使われたり、各製紙メーカーが開発中のCNF という軽くて丈夫な新素材として、自動車のボディなど様々な用途に使用する研究も盛んに行われています。

大きなエネルギー消費とCO2排出量、未利用材問題

持続可能でいいことづくめの紙ですが、もちろん課題もあります。

まず、製造時に多量の水とエネルギーを消費することです。

集約が進んだ製紙業界では、大規模工場による一貫生産が主流となっています。

繊維を解きほぐすための水が確保できる立地でないと生産できなかったり、巨大装置を24時間動かす燃料が必要となります。

原材料は環境に優しくても、生産工場では深刻な環境負荷と向き合わねばなりません。

また、古紙の回収システムが大量のCO2を排出している懸念もあります。

地域の資源ごみとして回収する車両、物流施設や生産工場に日々回収しに行く車両、それらに携わる会社の従業員の活動を考えると、正確な統計はないですが相当の排出量になると思われます。

また、日本ではもうひとつの原料である木材の約70%を輸入に頼っている一方、国内の未利用材が放置されている問題があります。

世界有数の森林大国である日本ですが、人件費が高く、ほとんどが山岳地で伐採コストが高いことから、安価な海外材に流れ、国内の林業の持続が危ぶまれています。

輸送時のエネルギー消費を考えると、近くの未利用材を使った方が良いのは確実です。

紙のいいところ5 / 成熟産業なので課題対応も進んでいる

エネルギー消費量の課題に対しては、石炭の代わりに製造時の廃材の利用が進んでいます。

製紙業界は製造業で4番目にエネルギー消費の多い産業ですが、同時にトップクラスに自家発電比率の高い産業でもあります。

古紙回収システムのCO2問題に関して、現時点で明確な手立てはありません。

再生エネルギーを使った車両・機械の導入や、回収ルートの効率化などで排出を減らしていく必要があります。それに、古紙の回収をやめてしまったら、スーパーなどは一日で段ボールに埋もれてしまい、社会が立ち行かなくなるでしょう。

国産材の未利用に関しては、林野庁では2025年までに、現在30%程度である国産材利用率を50%まで高める目標を掲げています。

それとは別に、林業に若手の就業が増えているという傾向もあります。

紙は環境に優しい素材である

紙の最大の特徴は、管理された植林と古紙回収システムによる、フロー資源で再生産できる点にあります。

そしてその有用性は、歴史と流通量が物語っていると言えるでしょう。

しかし、それが持続可能であるかどうかは、FSC認証の製品を意識して購入したり、自治体の要請に従って分別することでリサイクルにかかる負担を減らすといった、我々の行動にかかっている部分も多いのです。