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「きれい」も「地球環境」も守りたい~化粧品の新潮流

「環境問題に取り組んでいないブランドは、今後論外になっていく」。化粧品業界ではそうささやかれるようになりました。持続可能な開発目標、SDGsへの配慮は、ブランドイメージを大切にする同業界でも欠かせないものになりつつあります。

背景には、地球環境保護など社会的意義がある商品を使いたいという、いまどきの消費者志向があるようです。博報堂が女性1030人に聞いた調査では、SDGsに関連する美容商品を選ぶ行為を「これからのカッコいい生き方」と答えた人が過半数。特に若い世代が支持しています。コロナ禍を通して、自分らしく健康的な生き方を追い求める空気が広がったことも影響がありそうです。「きれい」も「地球環境」も守りたい――今後支持を集めそうなソーシャルグッドな化粧品の新潮流を探ってみました。

化粧品業界でいま注目されるトレンド「クリーンビューティ」とは?

化粧品業界で台頭しているコンセプトのひとつに、「クリーンビューティ」があります。米国のマーケット発のトレンドワードです。定義はブランドごとに異なりますが、狭義では、「人体に有害の恐れがある成分を使用しない化粧品」を意味します。

もう少し広い意味でこのワードを考えると、

①地球環境に配慮されている(エコロジカル)

②動物実験をしない(クルエルティフリー)

③人権やジェンダーなど社会的責任にも配慮されている(フェア)

④追跡可能性が確保されている(トレーサビリティ)

などの要件が含まれている場合もあります。

以上のような要件をヒントに、環境の面から昨今の化粧品の潮流を考えてみましょう。

樹木と共生~化粧品におけるサーキュラーエコノミー

オークの端材を使用した「BAUM」

東京駅の向かいに位置する「新丸の内ビルディング」の化粧品売り場の一角には、森林を思わせる樹木の香りが漂っています。

ここは、資生堂が2020年6月に発売した新ブランド「BAUM(バウム)」の直営店。キャップやケースにオーク(ナラ)の端材を使用した商品が並んでいました。

「BAUM」は、環境配慮型の商品開発を掲げているブランドで、テーマは「樹木との共生」。樹木の恵みを受けとり、感謝し、再び自然に還して樹木資源を未来につないでいくことを目指しています。

資生堂は、2021年9月、岩手県、住友林業と三者協定を結び、岩手県盛岡市にある県立自然公園内の約2ヘクタールの伐採跡地で「BAUMオークの森」で植樹活動をスタートしました。森を育て、その木材を再び「BAUM」に活用する循環、つまり、サーキュラーエコノミーを念頭に置いた展開です。

化学製品をなるべく使わず、製品の90%以上は、サクラの葉のエキスなど自然由来の素材から製造しています。また、パッケージの木製パーツ部分に使用しているオークの苗木などは、住友林業との協業で育ててきました。

樹木資源を未来につなぐ活動としては、たとえば、

①商品パッケージにカリモク家具のアップサイクル木材を使用

木製家具メーカーのカリモク家具とのコラボで、商品パッケージの木製パーツは家具の製造工程で発生した端材を再生利用して、カリモクの工場で生産されています。ひとつひとつ木目や色味や味わいが異なる良質なオークを無駄なく活かし、新たな使命を与えて蘇らせているのです。

②木製パーツ部分は繰り返し使用できるように、リフィル商品を積極的に展開

リフィル商品を充実させて、繰り返しの使用が可能になりました。一部プラスチック容器には植物由来のPETを配合、ガラス容器にはリサイクルガラスを採用しています。ショッピングバッグの無償配布を行わず、環境負荷の軽減を目指す取り組みが行われています。

その分コストはかかります。化粧水や乳液などのスキンケア商品は1個1万円近い高価格。当初購買対象に30代女性を想定していたのですが、ふたを開けてみると、購買層の約半数を20代が占めました。若い層には、環境のためにはコストを払うといった意識が浸透しつつあるようです。

地産地消の化粧品~ギリシャの「アピヴィータ」のこと

アテネにあるApivitaの実験店舗

「自然との共生」という点から化粧品を見つめ直すと、私が3年間暮らしたギリシャのブランド「Apivita(アピヴィータ)」を思い出します。

ギリシャで最初のナチュラルコスメブランドで、ブランド名の「アピヴィータ」は、ギリシャ語で「ミツバチ」と「生命」を組み合わせた造語です。1979年、ミツバチの働きの素晴らしさに魅せられた2人の若手薬剤師、ニコスとニキ・クツィアナが、ギリシャの自然生態系やヒポクラテスのホリスティック・アプローチをもとに立ち上げました。

ミツバチの自然の営みから得た恵みを十分に活かした商品のラインナップに、これこそ「究極のナチュラルコスメ」と、私は思っています。

自社でミツバチを飼育し、プロポリスやローヤルゼリーを作っています。6600種類あるといわれるギリシャのハーブを徹底的に研究し、自社のオーガニックハーブ農園で栽培、天然エッセンシャルオイルなどを抽出しています。

いわば「地産地消の化粧品」といえるでしょう。

自社でミツバチを飼育するApivitaを視察したとき

自社の研究所で多くの特許を取得し、さまざまなタイプの化粧品を生み出してきました。ビタミンEが豊富なグレープシードオイルを使ったwinelixirシリーズなども人気です。

本社の建物には、あらゆるところに環境にやさしい工夫がなされていて、たとえば、使用エネルギーの75%は地熱と太陽光の再生エネルギーを利用しています。

アテネのおしゃれストリート、コロナキ地区には5階建ての「experience store」があり、店内の中心にオリーブの大木が植えられているのが印象的でした。商品販売のほか、ハチミツやローヤルゼリーを使い、個々人のニーズに合わせたセルフコスメの作り方を指導してくれます。その際のレシピは保存され、自分仕様の化粧品がいつでも手に入ります。もちろん、容器のリユースが可能。そのほかにも、ビオのジュースバーや、「Beehive Spa」の名の付いたスパ施設が充実しており、心身共にナチュラルにリフレッシュできる場所でした。

Apivitaでは個々人に合わせて化粧品をつくってくれる

ところで、「アピヴィータ」は2010年に一度日本に進出したのですが、2017年秋に撤退した経験があります。現在はCEOに経営のベテランを迎え、海外展開について仕切り直しをしているところ。担当者は日本の市場も幾度か来日してリサーチしています。現在は通販で並行輸入品が買えますが、コンセプトのしっかりした直営店のオープンが待ち遠しいです。

ヴィーガンコスメの登場

ナチュラルコスメの中で、特に「ヴィーガン」にこだわり、植物由来の原料だけを使った化粧品も登場しています。2018年頃から欧米中心に盛り上がりをみせていた「ヴィーガンコスメ」が徐々に日本にも波及しています。

「ヴィーガン」は、乳製品など動物性由来のものを食べず、毛皮など動物を原料とした衣類も着用しないというライフスタイル。完全菜食主義者とも訳されます。

「ヴィーガンコスメ」には、動物由来のハチミツやシルク(蚕由来)も、魚や牛、鶏などが由来となるコラーゲンも配合されることはありません。

一方、同じナチュラルコスメでも、「オーガニックコスメ」は、化学肥料や農薬を使用しないオーガニック栽培でつくられた原料から得られた成分を、それぞれ定められた認証基準で配合しています。ヴィーガンコスメには配合されない動物由来のハチミツやシルクなども、オーガニックコスメでは、オーガニックハチミツ・オーガニックシルクとして配合されることがよくあります。

ヴィーガンコスメもオーガニックコスメも、現在のところ厳格なルールや定義はありません。ただし、オーガニックコスメに関しては、消費者の正しい判断のためにと、基準となる指数を表示できるようになりました。

近年、世界的にヴィーガンコスメへの関心は高まっています。製品開発の段階で動物実験を行わないことなどが強調されて、動物愛護意識や環境意識の高い人にもヴィーガンコスメが受け入れられつつあるのです。

日本では、ヴィーガンの考え方すべてを実行する人はまだ少ないかもしれませんが、そのライフスタイルに共感し、化粧品など身近でできるところから始めようという動きがみられます。

日本での将来的な需要の拡大を見込み、あえて「ヴィーガン」を前面に打ち出すコスメブランドも登場しています。コーセーの自然派スキンケアブランド「Awake(アウェイク)」は、「ヴィーガンコスメ」として、2020年2月から日焼け止めとクリームなどを発売スタートしました。

生活の一部にヴィーガンを取り入れることで、環境負荷の低減に少しでも寄与できれば……ヴィーガンコスメには、そんな思いが込められているような気がします。

廃棄ロス削減とパッケージレスの取り組み

化粧品は、季節や流行で取り扱う商品が変わるので、品質に問題がなくても一定の割合で売れ残りが発生していました。社内販売向けに回すこともありましたが、一般的に生産量の1~2割程度は廃棄してきたといわれています。

化粧品は使用期間が比較的長く、定番商品も多いため、これまで廃棄ロスについてあまり注目されてきませんでした。また、値引き販売は、化粧品のブランドイメージを損なう恐れがあるとして、敬遠されてきた面もあります。

ところが最近は、食料品や衣料品などの廃棄ロスが社会問題化し、化粧品メーカーでも、売れ残りや規格外の商品を割引して販売するなど、化粧品の廃棄ロスを減らそうという取り組みが急速に広まりつつあります。

コーセーは、2021年10月から東京・銀座の直営店「メゾンコーセー」などで、シーズン中に売り切れなかった化粧品を値引き販売する取り組み「グリーンバザール」を始めました。

春に行った値引きのテスト販売で、「エコについて自分も何かできるのはいいと思った」など、顧客の前向きな声が寄せられたことがきっかけです。主力ブランドの「雪肌精」などを4割引で販売。使い終わった容器の分別方法も案内しています。

コスメブランドの「SHIRO(シロ)」の取り組みも興味深いものがあります。

同社は、創業当時から生産者のもとで捨てられてしまう枝葉や製造工程で生まれる酒かすなどの副産物、見た目などから規格外とされてしまう素材を仕入れて使用してきました。もしも化粧品の素材として活用されなかった場合、処分工程で排出していたと想定されるCO2量を独自に算出し、オンラインストア内で表示している点もユニークです。

また、「いずれ廃棄されることになる紙箱を受け取らない選択肢を設けることで、原料である森林資源を守りたい」との考えから、消費者が「紙箱を受け取らない」という選択を可能にしました。その場合、省略した包装資材分を通常価格から値引きして提供、これを「エシカル割」と呼んでいます。ここでも、紙箱に使用する原料が一連の工程を経て排出していたと想定されるCO2量の表示を行っています。

パッケージをなくしたSHIRO

取り組みはさらに進化し、2022年4月からは商品本体を紙箱に入れずに提供する「パッケージレス」の販売を全国の店舗でスタートしています。簡易ラッピングでは、プラスチック素材が地球環境に与える影響を考えて無料での提供を終了。雨よけカバーはリサイクル素材を使用したものへと変更しました。

包装はこれまで化粧品のブランドイメージと切り離せないものだったけれど、いまやその「厚化粧」をしていない化粧品のほうがクール!と思われる時代になったのです。

人権やジェンダーに配慮した商品が続々

化粧品の原料自体への目も厳しくなっています。背景には、原料の持続可能性を担保できるかが、将来を左右するという考え方があるからです。

2018年にESG(環境・社会・企業統治)部門を新設した花王を例にとってみましょう。

同社にとって重要な原料は、化粧品や洗剤などに使うアブラヤシ農園で採れるパーム油です。インドネシアとマレーシアが合わせて8割を占めますが、森林伐採に加えて、労働環境が劣悪だと問題視する声が強まっていました。

そこで花王は、インドネシアの小規模農園の労働環境を改善するための支援を始めました。現地のパーム油加工業者などとともに、2030年までに計5億円を投じて、約5000の農園に手袋やヘルメットなどを提供する計画です。

花王のインドネシア・パーム農園支援

人権問題への対処は、企業のイメージを左右します。中国・新疆ウイグル自治区の強制労働でつくられたとされる綿製品をめぐっては、世界のアパレル大手に厳しい目が向けられました。同じように、パーム油をめぐる対応を誤れば、化粧品会社にも逆風が吹いてくるはずです。人権侵害の問題が発生しないように、サプライチェーンの課題、さらに児童労働の防止についてもしっかり把握することが求められているのです。

ジェンダーの視点からみると、化粧に求められる役割も変わりつつあります。性別の境界を超える化粧品の存在感が増しています。

コーセーが展開する「ファシオ」は、男性が持っても違和感がないようにグレーのパッケージを採用して「ジェンダーレス」な商品を目指しています。夫婦やカップルで化粧品を共用する「シェアコスメ」。女らしさ、男らしさを押し付けられたくない若者層を中心に支持されています。

マスカラやアイライナーを扱うブランド「シアーズ」のキャッチコピーは、「メイクをもっとみんなのものに」。ナチュラルで印象に残る目元に仕上げることを目指しています。オンラインショップでの顧客は男女がほぼ半々だといいます。

これまで化粧品は男性用、女性用に分けるのが一般的でしたが、最近は男女共用が目立ちますし、広告には男女のモデルを起用するようになりました。ジェンダーの問題も、SDGsへの配慮としてはずせない課題になっているのです。

まとめ

樹木との共生、地産地消やヴィーガンのライフスタイルを意識した製品開発、パッケージレスの取り組み、人権に配慮した労働環境の整備……。ブランドのイメージ戦略を大切にしてきた化粧品業界にも、サーキュラーエコノミーを軸とする新たな潮流が押し寄せています。外出の機会が減って化粧をする機会も少なくなり、化粧品の市場規模はコロナ禍の中、減少傾向にあるといわれていますが、環境問題をめぐって今後の展開が期待されます。

永峰好美

読売新聞記者として主に生活面などの取材にあたり、2005年から新聞社が親会社だった百貨店のプランタン銀座取締役、同常務取締役。その後、読売新聞東京本社編集委員を務め、2018年5月に新聞社を卒業。夫のギリシャ大使就任に伴ってアテネに在住、2020年末帰国。環境をはじめライフスタイルに関わる記事を執筆している。

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