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サーキュラーエコノミー、成功する条件とは?

環境経済学の第一人者、細田衛士教授に聞く

サーキュラーエコノミーを実践すれば、地球の問題は大部分解決できて、明るい未来が待っている……。最近そうした「サーキュラーエコノミー楽観論」を耳にします。実際にはどうなのでしょうか?

サーキュラーエコノミー研究の第一人者、細田衛士・中部大学経営情報学部長・教授にZOOMで話を伺う機会がありました。「オルタナ」という環境系の雑誌が企画したものです。

細田教授は、環境経済学が専門。1994年より慶應大学経済学部教授、2001年から2005年まで同大経済学部長などを務め、2019年から現職。中央環境審議会委員など環境関係の政府審議会委員を歴任されています。

「サーキュラーエコノミー」という言葉の広がり

細田衛士・中部大学教授

―サーキュラーエコノミーという言葉は、随分と当たり前に聞かれるようになりました。改めて伺いたいのですが、先生はどう定義していらっしゃいますか?

論文を読んでいると、「サーキュラーエコノミーには厳密な定義はないが……」と前置きされていることが実に多いことに気づきます。

とはいえ、大枠の考え方は、EUが2015年12月に採択した「サーキュラーエコノミー・パッケージ」の前文で共有されているといっていいでしょう。

つまり、《天然資源のインプットを抑えて、自然環境に吐き出す固体・液体・気体すべての残留物を減らす。そのために繰り返し利用して残存価値を高めるエコノミー》ということです。

注)「サーキュラーエコノミー・パッケージ」は、EU加盟国がサーキュラーエコノミーを実現させるための政策や行動計画をまとめたもの。EUはこの発表を契機に、サーキュラーエコノミーを軸に据えて、域内全体の競争戦略や雇用創出などを計画することに舵を切った。再生プラスチックを10%以上使用しているICT機器のみを公共調達の対象とする(ドイツ)、再生プラスチック以外の包装材には罰金が科される(フランス)など、各国政府主導で規制が進められている。

日本では、「3R(リデュース・リユース・リサイクル)」が有名ですね。2004年小泉元首相が米シーアイランドで開催されたG8サミットで提唱して定着。いまや世界的にも通用する言葉になりましたが、これは廃棄物対策です。サーキュラーエコノミーの一要素にはなっていますが、繰り返し長年使うことで単位当たりの残存価値を高めるという重要な視点が抜けています。

―サーキュラーエコノミーを実践すればすべてが解決してバラ色の世界が待っている、欧州はそうしているではないかという幻想があるようです。

EUは、その形成過程もそうですし、いろいろとぶつかり合い国際協調を重ねながら、進むべき道を探ってきました。行きつく先はあそこだからと見据えて、つらい道のりを承知たうえでやっている。EUにはそういう魂胆というか大胆なスピリットがあって、この点はすごいなと思います。

日本の場合、まずできることは何かを、横目で周囲の状況を見ながら考えるでしょう。決して先の目標をドーンと立てることはしないんですね。

EUの「サーキュラーエコノミー・パッケージ」だって試行錯誤しながら作ったものです。当初はリソース・エフィシェンシー(RE)を高めて経済をつくり直す方向で調整を進めていましたが、いろいろ考え方の違いが出てきて、政策としてまとめるには、サーキュラーエコノミーでいくことに落ち着きました。

これは、EUのたくましく、羨ましいところでもあります。ですから、決してバラ色ではない。むしろ「イバラの道」を歩んでいるのです。

サーキュラーエコノミーの実現に必要な3つのポイント

―では、サーキュラーエコノミーを成功させるには、どんなことが必要なのでしょうか?

 まず、3つのポイントを押さえておきましょう。

第1に、完全なリサイクルはありえないこと。第2に、有効需要の創出こそがカギであること。第3に、消費者は資源循環のためにお金を出さないことはないということ。

(1)完全なリサイクルはありえない

―ポイントの一つひとつについて、もう少し詳しく教えてください。まずは、第1のポイント、「完全なリサイクルはありえない」とは?

「ゼロウエイスト」という言葉がありますが、すべてを循環利用することは無理です。なぜなら、まず、再資源化のプロセスで、ほとんどの資源は劣化していくからです。また、分別回収や収集運搬などの過程でエネルギーが使われることを忘れてはなりません。莫大なエネルギーが費やされるのであれば、意味がなくなります。さらに、他の資源を投入する必要があってコストがよりかかることもあります。

古紙リサイクルを例にとりましょう。再資源化のプロセスで繊維は段々短くなります。短くなった繊維を繋げるには大変な技が必要です。強度を保てないので、農業用マルチシートなどに利用されて、最後は土の中へと入っていく。これを廃棄物と呼ぶかどうかは微妙ですがね。

また、パルプから生産する場合よりも、利用できない物質が出てくるので原油の使用量がどうしても増えます。無理にすべての古紙を再資源化しようとすると、分別回収に多額の費用がかかり、経済的に見合わないのです。

つまり、廃棄物の量をどんどん小さくすること、埋め立て処分量を漸減することは、サーキュラーエコノミーが目指すところなのですが、制約要因を無視した無理な資源循環を進めると、粗悪だが高価格の再生資源を生むだけ。その結果、使われずに捨て置かれる状況になってしまいます。もちろん、技術の進歩で制約要因は変わっていきますが、一挙になくなることはないでしょう。

廃棄物をゼロにできなくても、ゼロに近づけることは可能です。この30年で埋め立て処分量が激減したのは、技術の進展に加えて環境配慮型の設計が登場した成果だといえるでしょう。

要するに、廃棄物処理の優先順位(ウエイスト・ヒエラルキー)という基本中の基本に戻って考えることです。まずは発生回避、次にリユース(のための準備)、その次はマテリアル・リサイクルあるいはケミカル・リサイクル、それがダメならば、熱回収、適正処理・最終処分。発生回避が何よりも重要ですが、実現可能性や経済性を考えながら、現実的な順位を決めていくことです。

(2)有効需要の創出こそがカギである

―第2のポイント、「有効需要の創出こそがカギである」とはどんな意味が込められているのでしょうか?

サーキュラーエコノミーに関する論文を読んでいると、どうも合点がいかないところがあります。サーキュラーエコノミーに移行すると、GDPは増加して雇用も増える、経済成長率も上昇し、経済が良くなるというものです。英国のエレン・マッカーサー財団(なども、サーキュラーエコノミーで新しい産業が生まれるから環境と経済は両立すると、乱暴な議論をよく展開しています。

でも、そんな簡単にいくわけはありません。経済はそれほど甘くないのです。

実際、2015年にEUが「サーキュラーエコノミー・パッケージ」を採択した後、EUの経済成長率は、コロナ禍の前でも軒並み下がっています。

では、どこが問題なのでしょうか。

ポイントは「需要」です。経済は需要と供給から成るという、簡単な事実が忘れられているのです。ミクロ経済学的にいうと、支払い意志に裏付けられた需要がないと、供給は実現されません。また、マクロ経済学的にみれば、有効需要が創出されない限り、経済は活性化されません。

たとえば、マイバッグによって、プラスチックバッグの需要は小さくなりますが、これは「代替」が起こっただけです。経済と環境の関係をwin-winにするには、グリーンなものの需要をふくらませる必要があります。

需要を膨らませることは、今の時代、難しく思われるかもしれません。

モノの豊かさから心の豊かさへとライフスタイルは著しく変化し、人々は従来型のモノにあふれた生活に幸せを感じなくなっています。内閣府の調査でも、60%以上の日本人が「モノの豊かさよりも心の豊かさ」を求めています。1977年からその傾向はみられ、だからこそ、断捨離が受け入れられているのです。若者のモノ離れは明らかで、講義中に学生に欲しいものは何かと聞いても、「別にありません」との答えがほとんどです。

狭き門を探す必要はあるでしょうが、グリーン需要をつくり出すことに、私は決して悲観的ではありません。

総務省の調査で、耐久消費財の中で需要が最も伸びているのは、高効率の給湯器です。低環境負荷製品に対しては、消費者の財布のひもも緩むのです。自動車の所有数量は減少傾向にありますが、ハイブリッド車に関しては増えていて、特に50代や60代の関心度が高いことが特徴です。

「グリーンニューディール」など、カッコの良い言葉が聞こえてきますが、低環境負荷の有効需要をどうやってつくるか、今こそ知恵の絞り時ではないでしょうか。

(3)消費者は資源循環のためにお金を出さないことはない

―では、最後の第3のポイントです。「消費者は資源循環のためにお金を出さないことはない」については?

まず、「消費者は環境にお金を払うのか?」という命題は長い間議論されてきました。

2002年のことになりますが、私の前任校の慶応大学三田キャンパスに、カルロス・ゴーンが講演に来たことがあります。問題が起こる前ですから、立ち見が出るほどの盛況ぶりでした。

質疑応答で、学生が日産のエコカー戦略について質問しました。ゴーンの答えは単純明快で、「消費者は環境にはお金を払いません」とばっさり。トヨタのプリウスの人気が出始めた頃でしたので、彼の答えは私の胸のどこかに引っかかっていました。

その10年後、私の指導する学生がこの問題に計量経済学の観点から挑戦しました。人々が車を購入する際、環境性能に対してより多く支払うかどうかの解析です。その結果、ハイブリッド車や電気自動車などのエコカーに、同性能のガソリン車より20万円程度余計に支払っていることがわかりました。ガソリンを節約できるエコカーの経済的メリットを差し引いても、10-15万円は余計に支払っていました。

その2年後、別の学生が同様のチャレンジを異なるデータベースと異なる手法を使って行いましたが、結果はほぼ同じ。つまり、消費者は環境にお金を払うのです。ゴーンは間違っていたことが裏付けられました。

 

それでは、サーキュラーエコノミー、資源の循環利用についてはどうでしょう。消費者は、多少の不便=コストがかかっても、環境負荷が小さな資源循環に協力するでしょうか?

これに関してはまだ論文はありませんが、一つヒントになるのは、2020年7月のレジ袋の有料化です。高くても5円ほどですが、7割くらいの人が辞退しています。環境コストのサインが出たらそのサインを受け止めて、行動が変わるというのは間違いないようです。

豊かになった日本人は、KonMariさん(世界的ベストセラー「人生がときめく片づけの魔法」を書いた片づけコンサルタントの近藤麻理恵さん)ではありませんが、自分がときめくもの、わくわく感があるものにはお金を払うのではないでしょうか。

私は、このわくわく感や遊び心が、消費者を資源循環の利用へと駆り立てる可能性があると見ています。マイバッグも、使い捨てでない容器もおしゃれ。そうしたイメージが定着しつつあるのかもしれません。

サーキュラーエコノミーの先進的な取り組み

―3つのポイントを押さえれば、サーキュラーエコノミー成功の条件が自ずとみえてくるということでしょうか?

繰り返し言いますが、サーキュラーエコノミーの実践の先に、バラ色の世界が待っているわけではありません。EUでは高い目標を掲げながら、奮闘しているのが現状で、答えはこれからつくっていくものです。

それには、企業、自治体、消費者の協力連携が欠かせません。

サーキュラーエコノミーの先進事例は、日本においても生まれています。

たとえば、姫路市のケースを挙げましょう。姫路市は、2021年8月に、伊藤園、遼東石塚グリーンペット、キンキサインと「ペットボトル資源循環型リサイクル実施に関する事業連携協定」を締結しました。

これら4つの組織が連携して、回収・手選別・圧縮梱包⇒再資源化⇒製品製造⇒飲料製品販売といったサイクルを域内でスムーズかつ効果的に推進していこうとの試みです。

2022年4月1日からスタートする予定で、市民が分別・排出した使用済みペットボトルを新しいペットボトルへと水平リサイクルします。「ボトルtoボトル」と呼ばれる仕組みづくりで、こうして生まれた製品が姫路市を中心とした地域で消費され、再びペットボトルにリサイクルされるという資源循環を目指しています。国内におけるペットボトルのサーキュラーエコノミーのモデルとして、取り組みが注目されています。

―コロナ禍が経済活動に与えた影響は大きいですね。アフターコロナをどう生きるか、問われている気がします。

確かに、現在の社会は非常に複雑な状況にあります。ただ、忘れてはならないのは、人間は長い歴史の中で、何度も疫病を乗り越え、折り合いをつけながら時代をつないできたという事実です。

今回の試練を、経済と環境が両立するグリーンキャピタリズムに転換する契機ととらえて、高度な資源の循環利用を経済に組み込むことが求められていると考えます。

岸田首相が「新しい資本主義」を提唱するのであれば、グリーンキャピタリズムを打ち出してほしかった。環境の視点がなかったのは、私としては残念です。

まとめ

細田教授が何度も繰り返されているように、サーキュラーエコノミーを実践すれば地球の問題がすべて解決して、バラ色の世界が待っているというわけではないでしょう。その答えは、私たちがこれからつくり出していくべきもので、EU諸国も、高い目標を掲げて奮闘しているところなのです。

その際、各領域での協力連携は重要で、それぞれの意識改革が求められています。姫路市の例にみられるように、サーキュラーエコノミーの先進的な取り組みも登場していますから、日本社会にも少しずつ変化が起こってくるに違いありません。

なお、細田教授は、先進事例について、姫路市のほかにもいくつか例を挙げてくださいました。また別の機会にご紹介したいと思います。

 

永峰好美

読売新聞記者として主に生活面などの取材にあたり、2005年から新聞社が親会社だった百貨店のプランタン銀座取締役、同常務取締役。その後、読売新聞東京本社編集委員を務め、2018年5月に新聞社を卒業。夫のギリシャ大使就任に伴ってアテネに在住、2020年末帰国。環境をはじめライフスタイルに関わる記事を執筆している。

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