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美食の手引き、ミシュランガイドに設けられた「グリーンスター」を探る

飲食業界では、環境に配慮した取り組みが年々活発になっています。

飲食店を星の数で評価する「ミシュランガイド」にも、サステナブル(持続可能)な活動を評価する基準が新しく設けられました。

創刊120周年を迎えた2020年にフランスでスタート。世界10か国以上に広まって、日本でも2021年版から、持続可能なガストロノミーを実践している店が「ミシュラン グリーンスター」として紹介されるようになりました。

美食の手引きといわれる「ミシュランガイド」がサステナブルな活動を評価する意味は何なのでしょうか? 実際に「グリーンスター」を獲得した東京のレストランを訪ねて、考えてみました。

ミシュランが新設した「グリーンスター」とは?

ミシュランガイドは、2020年から、サステナブルなガストロノミーを認証する「グリーンスター」を設けました。日本版でも、2021年版から登場しています。

評価の対象となるのは飲食店の立場から推進できる取り組みで、食品ロスの削減、環境に配慮している生産者の支援、絶滅危惧種の保護など様々です。ミシュランの調査員たちは、実際に食事をする中で、素材からメニュー、食器、使用している電力、リサイクルの取り組みに至るまで、その店がどのようなアプローチで食のサステナビリティを進めようとしているか、シェフの話を交えて細かくチェックし、判定するのだそうです。

美食の手引きといわれる「ミシュランガイド」が「グリーンスター」のような指標を導入した背景には、食べ手である消費者が環境問題への関心を高めていることがあります。

ホットペッパーグルメ外食総研が2019年に20~59歳の男女約10,000人に行った調査では、「廃棄されるはずの部分も生かす方法で調理した料理を出している」ことに60%、「途上国の子どもや環境保全団体などに売上の一部を寄付している」ことには57%が、「共感する」と答えています。

ミシュランガイドのインターナショナル・ディレクター、グウェンダル・プレネック氏は、「サステナビリティは、ミシュラングループの価値観の一つ。コロナ禍以降、社会の関心も益々強くなっています。グリーンスターは、サステナビリティと食を結びつける重要なメッセージを提供するツールになるはず」と強調しています。

「ミシュランガイド東京2022」に掲載された「グリーンスター」はどんな店?

2021年末の12月3日に発刊された「ミシュランガイド東京2022」で、グリーンスターに選ばれたのは14軒。2021年版より8軒増えました。その内訳は、3つ星4軒、2つ星4軒、1つ星5軒、手の届きやすい店としてビブグルマンが1軒です。

15年連続で3つ星獲得のフレンチ「カンテサンス」(品川)、9年ぶりに3つ星に復帰し、その後4年間3つ星を獲得しているフレンチ「ロオジエ」(銀座)のほか、外国人客にも人気の高いイノベーティブ料理「NARISAWA」(南青山)、日本初の3つ星獲得の中国料理「茶禅花(さぜんか)」(広尾)、和食の「傳」(神宮前)など、フレンチ以外のジャンルからの選出も目立ちました。

これらの飲食店は、どんなサステナブルな取り組みをしているのでしょうか?

未利用魚(サイズが不ぞろいなどの理由で低価格で取引される魚)や規格外の野菜を活用する、自然循環に配慮して育てられた野菜を積極的に仕入れる、フェアトレードのチョコレートやコーヒーを使う、コンポストで生ごみを土に還す、小学校でエシカル消費に関する出前授業をする、伝統文化を内装やテーブルウェアに取り入れる……など。その内容は実にバラエティに富んでいます。

注目されるヴィーガン料理

畜産業と環境負荷

「グリーンスター」の中で近年注目されているのが、動物性の食材を使わない「ヴィーガン料理」を提供するレストランです。

ヴィーガン料理は、家畜を生育するための飼料を必要とせず、水の利用も削減できるなどの観点から、環境にやさしい料理として欧米で広がってきました。

畜産業の環境問題を考える時、最初に思い浮かぶのが、よく知られるようになった牛のゲップから出るメタンガスの問題ではないでしょうか。メタンガスは、二酸化炭素よりも30倍近くの温室効果があるといわれています。

しかし、動物性食材の大量消費が引き起こす環境問題は、もちろんそれだけではありません。

国連食糧農業機関(FAO)のデータによると、家畜から排出される温室効果ガスは、世界の温室効果ガスの約14.5%を占めており、これは運輸部門全体の排出量の総量に匹敵しています。ほかにも、水質汚染、森林伐採、土壌の劣化、大気汚染、水や穀物の過剰消費、生物多様性の消失など、様々な課題に注視する必要があります

畜産業によってどれだけ地球への負荷がかかるかを考えると、「私、肉が大好きな肉食女子です!」などと無邪気には言えない昨今になっていますね。

ヴィーガンと精進料理

「ヴィーガン」という言葉には、海外発の先進的なイメージがありますが、日本人にとっては精進料理として親しまれてきたものではありませんか?食材を無駄にせず、丸ごとと使い切るというサステナブルな発想は、仏教の思想に通じるところがあります。「ヴィーガン」を食の制限としてではなく、新しい表現としてとらえているところが今風だといえましょう。

ヴィーガンの店が増えたとはいえ、「ヴィーガン・ガストロノミー」を標榜するファインダイニングは世界でもまだ少数派です。

2021年6月、ミシュラン三つ星のニューヨークの人気店「イレブンマディソンパーク」が話題になりました。コロナ禍で約15か月間店内営業ができず、ようやく再開したのをきっかけに、長年親しまれてきた名物の鴨料理を封印し、動物性食材の肉や魚介類を用いないと発表したのです。

グリーンピースとベビーリーフのサラダの上にとんぶりをあしらったり、グリルしたナスにシソとコリアンダーを添えたり。日本人には食べ慣れた料理ですが、アメリカの人たちにはどう受けられるのか、ちょっと疑問が残るメニューです。10皿ほどの料理が335ドル。決して安くありません。

メニューを監修したのは精進料理人の棚橋俊夫氏だと聞いて、納得しました。日本からわざわざ招聘して、植物性食材だけでつくる料理の可能性を研究したそうです。

実はこのレストラン、「ヴィーガン」とはいわず、「ミートレス」とうたっています。食後のコーヒーにはミルクを合わせたいためなのだとか。また、「シークレット・ミート・ルーム」というのがあって、一部の希望客には肉をサービスすることもあるようです。ヴィーガン・ガストロノミーへのシフトは、一筋縄ではいかないみたいです。

「ミシュランガイド東京2022」で「グリーンスター」を獲得した「FARO(ファロ)」を訪ねて

日本のヴィーガン・ガストロノミー

日本のヴィーガン・ガストロノミーの先駆者的存在として注目されているのが、東京・銀座8丁目にあるイタリアンレストラン「ファロ」です。ここでは、サステナブルな取り組みの一つとして、ヴィーガンコースが常時用意されています。

経営母体が資生堂なだけに、「美味しく食べて、体の中から美しく」をコンセプトに、ヴィーガン料理の可能性を広げています。

考え抜かれた料理の構成と華麗で繊細な料理のビジュアル、一つひとつの皿に込められた食の物語とフィロソフィー、器やインテリアにまで意識されたニッポンの温かみの数々……。「ファロ」には、語りたくなるポイントがいくつもあるように感じます。

2018年のレストランのリニューアルからその厨房を取り仕切っているのが、イタリアで20年を過ごした能田耕太郎シェフです。

能田シェフと食材廃棄問題

能田シェフは、1999年にイタリアに渡ってしばらくは伝統的なイタリア料理を作っていました。

数々の賞に輝くトップレストランを渡り歩き、厨房の裏側を知るにつれて、日常風景になっているすさまじい量の廃棄食材に目がいくようになったのです。

「美味しい料理を提供し、食を通してお客様に感動を届けることが、シェフとしての自分の役割ではあるけれど、このままでよいのだろうか。レストランを訪れるお客様の前に並ぶ高級食材ができるまでには大変な手間と時間とお金がかかっている。このサイクルはやがて地球環境に大きなダメージを及ぼすに違いない」――幼い子どものいる一人の父親としても、将来の地球の食糧問題に関心を持たざるを得ませんでした。

2014年、独立してローマで「ビストロ64」をオープンするのをきっかけに、フードロス問題やサステナブルな料理のあり方に本格的に向き合うことにしたのです。

ヴィーガンメニューに可能性を見つける

「ビストロ64」はオープンからほどなくミシュラン一つ星を獲得。「イタリアで最も安い星」というちょっと変わった称賛をもらいました。

2016年頃からアメリカ人客が増え、同時にアレルギー対応の注文やヴィーガン希望も増えてきました。そして、前菜にヴィーガン対応のメニューを準備するうちに、徐々にヴィーガンの可能性に開眼。ヴィーガン料理が廃棄食材の問題を解決する一助になるかもしれないとの思いを強くしたといいます。

「ファロ」では、当初ランチをヴィーガンメニューのみでスタートしました。メニューに戸惑う人もいたし、メインに肉や魚介類が選べないと聞いて怒って帰る人もいたそうです。とはいえ、ヴィーガンメニューを続けているうちに、意識の高い若い料理人たちが段々と様子見に集まってきました。能田シェフには、今後ますますヴィーガンの必要性は高まっていくとの信念があるようです。

名物料理「じゃがいものスパゲッティ」

「ファロ」ではどんな料理が提供されているのでしょうか?

「ファロ」の名物料理に「じゃがいものスパゲッティ」があります。ローマの店「ビストロ64」で誕生した料理です。ヴィーガンコースだけでなく、肉や魚料理のある一般コースでも、必ず登場するスペシャリテです。

スパゲッティの正体は小麦粉ではなく、じゃがいも。菜麺器で切り出されたじゃがいもはスパゲッティのように細長く、フォークでくるくる巻けるほどよい長さ。滑らかな口当たりはパスタそのものです。生のじゃがいもの状態からソテーしているので、シャキシャキと歯ごたえがあって、じゃがいもらしさも残っています。トッピングされているのは、短く切り出して米油でカリッと揚げたじゃがいも。シャキシャキ感とカリカリ感の2つの異なる食感を楽しめます。

調味には、カカオバター、そして、ココナッツとピスタチオペーストで作った特製ヴィーガンバターが使われています。コクとうま味を補うために、セロリと麹を2か月間ほど熟成発酵させた、これも特製のセロリ醤油を加えています。

生産者とのつながりを大切にした食器

メニューには、料理とともに、サービスされる器の産地や窯元の名前も記されています。

たとえば、「じゃがいものスパゲッティ」は、佐賀県有田町のカマチ陶舗。じゃがいもが育つ大地を思わせる球体の器に包み込まれるようにして提供されます。

カマチ陶舗当代の蒲地勝さんは、それまで主軸だった和食器から転換し、世界の有名レストランとコラボして新しい器の注文に応えています。当初は伝統にこだわる地元から批判の声が上がったそうですが、そうした逆風に耐えて革新への思いを貫きました。

能田シェフは、自ら陶磁器の産地を訪ねながら、職人が習得してきた伝統的な匠の技を継承する人がいない現状を知りました。どうにかして匠の技を残したいという強い気持ちで、生産者とのつながりを大切にした食器や装飾にこだわり続けています。

「日本の里山 花のタルト」

「日本の里山 花のタルト」は、パティシエの加藤峰子さんの、大自然をそのまま感じられるデザートです。加藤さんも、イタリアの数々の名店で経験を積んでいます。

テーマは、ずばり日本の里山。里山には、日本人がどう過ごしてきたか、どういう未来を理想としていたのかが凝縮されているとみています。日本ハッカ、せり科の大和当帰、ナデシコ、スミレ、ウイキョウ、山椒など、何十種類もの日本の花やハーブが使われています。穏やかなハチミツの甘さと一緒に、豊かな里山の香りが口いっぱいに広がります。

ハーブを探してある里山を訪れた時、山の風景があまりに素敵だったので、風景を丸ごとお皿に載せたいと思い、地元の協力を得て野生の花や薬草などを仕入れることになりました。和と洋のハーブを融合させ、在来種の牧草を食べて育った牛のミルクからマスカルポーネを手作りしています。また、近年減少している日本ミツバチのハチミツを使うなど、日本人として大切にしたいもの、未来に遺したいものが皿の上に表現されているのです。「この美しい里山の風景をずっと残したい」という強いメッセージが聞こえてくるような気がします。

アーモンドなどのナッツは、イタリアから取り寄せていますが、イタリアでひっそり在来種や絶滅危惧種を栽培し続けている生産者への目配りを忘れていません。選択の基準はあくまでもサステナビリティ。100年後までを考えて次世代につなげる仕事をしている生産者を応援したいと思っているのです。

フルーツのメニューでは皮や種まで使うし、余ったパンだけでデザートのひと皿にしたことも。自給率が極めて低い小麦粉で作るパンは、環境負荷がかなり大きいので、パンに関してはロスが出ないようなレシピが作られています。実際に、「ファロ」のペストリーのキッチンからはゴミがほとんど出ないといわれています。

まとめ

コロナ禍で大きなダメージを受けた飲食業界ですが、ようやくコロナ収束後を見据えて新しいネクストステージに舵を切るシェフたちが登場しています。

料理人は、時代を映す鏡。生産者と消費者の間に立つ重要な立場にあります。料理人が消費者の行動や関心を促すことで、流通や生産の現場にも変化を起こし、未来につなげる食へと誘うことができるはず。

カギになるのが、サステナブルな取り組みです。美食の手引きといわれる「ミシュランガイド」に、それらを評価する「グリーンスター」が新設されたのも、飲食の現場で避けて通れない問題と考えられたからです。

ヴィーガン料理に代表されるような、環境負荷の小さい料理の選択肢を増やしていくことはますます重要になっていくでしょう。食とどう向き合うか、シェフのフィロソフィーや使命感が試される時でもあります。

今回は東京の飲食店を紹介しましたが、「ミシュランガイド」に掲載された「グリーンスター」獲得の地方のレストランの取り組みはどうなのでしょうか? また機会を改めてご紹介できればと思います。

永峰好美

読売新聞記者として主に生活面などの取材にあたり、2005年から新聞社が親会社だった百貨店のプランタン銀座取締役、同常務取締役。その後、読売新聞東京本社編集委員を務め、2018年5月に新聞社を卒業。夫のギリシャ大使就任に伴ってアテネに在住、2020年末帰国。環境をはじめライフスタイルに関わる記事を執筆している。

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