エシカル時代のアパレルブランドRenameの可能性

「環境によいことをしたい。でも、何をしよう?」

それなら、上質な服をリーズナブルに購入するできる、お財布にも環境にも優しい耳寄りな選択肢があります。キーワードは、「Rename」です。

これまで「環境によいこと」といえば、リユースやリサイクルに代表される3Rが中心でした。しかし、3Rだけでは限界があることがわかってきたため、現在はサーキュラーエコノミー(循環型経済)という新たな考え方が広がりをみせています。

Renameは、これまでの固定観念を覆す斬新なスタイルで、日本のエシカルファッションを牽引するアパレルブランドです。そしてRenameを利用するだけで、サーキュラーエコノミーの実践者になることができます。これが冒頭で、環境に優しい選択肢と表現した理由です。

なぜRenameを利用することが「環境によいこと」なのでしょうか。その答えを知るためには、アパレル業界の抱える問題に目を向ける必要があります。

流行り廃りと大量廃棄

アパレル業界は、大量廃棄による高い環境負荷という問題を抱えています。Renameも、そこに端を発して生まれました。

もともと、資源の使い方に無駄が多いアパレル業界。大量生産、大量消費からの大量廃棄という構図は、ファストファッションの台頭でさらに加速しました。中でも今回、着目したいのは新品在庫の大量廃棄です。

ファストファッションがもたらす環境への影響は世界的な課題となっている

「在庫を捨てるの?もったいない、売ればいいのに」と思うかもしれませんね。

そんな一般的な感覚とは裏腹に、アパレル業界では売れ残った在庫を処分する習慣があります。背景にあるのは、ファッションの流行り廃りとブランドイメージを守る目的です。

今年のトレンドは、来年には売れない、着られない。けれど、ブランドイメージもあるから抱えた在庫のディスカウントや、再販も難しい。その結果が、売れ残った服の大量廃棄です。

2018年の英Burberryによる大量廃棄報道は、記憶に新しいと思います。

アパレル業界が抱えるこの問題は世界でも深刻に受け止められていて、サーキュラーエコノミーをグローバルに推進するエレン・マッカーサー財団のレポート『A new textiles economy: Redesigning fashion’s future』は、約5,000億ドル相当の衣類が毎年、着用もリサイクルもされず単純廃棄されていると報告しています。

このように、アパレル業界はサーキュラーエコノミーの取り組みを特に推進するべき分野の1つといえるのです。

タグをつけかえるという解決策

2016年、愛知県の株式会社FINEによって立ち上げられた新興アパレルブランドRenameは、この問題に解決策を提示しました。それが、「タグをつけかえて再販する」ビジネスモデルです。

Renameの流れは以下の通りです。

購入前の衣類にとって、タグはブランドを証明する役割がある

① メーカーから在庫を引き取る

② 株式会社FINEのアパレル工場で、タグなどをすべてRename名義につけかえる

③ Renameブランドとして(出所は一切明かさず)リーズナブルな価格で再販する

ポイントは、ネームタグに限らず洗濯タグなどすべてをつけかえ、商品番号まで振り直すという徹底した元ブランドの情報管理による、ブランドイメージを損なわない再販です。

これにより、メーカー側は安心して在庫を再販ルートに乗せることができ、廃棄コストも削減できる一方で、消費者側は高品質な商品がリーズナブルに入手可能となります。

双方にとってメリットがある関係の中で、大量廃棄問題も同時に解決できるビジネスモデル。これがRenameの示した解決策です。

廃棄することが前提か、しないことが前提か

ところで、サーキュラーエコノミーとは、どのような考え方なのでしょうか。また、3Rと比べ何が新しいのでしょう。

3Rとサーキュラーエコノミーの違いをざっくり表現すると、「廃棄を前提とするか否か」といえます。

サーキュラーエコノミーとリニアエコノミーの比較

3Rは、従来型の「①資源→②製品の生産→③消費→④廃棄」というリニアエコノミー(直線型経済)の流れの中で、リデュース(Reduce)、リユース(Reuse)、リサイクル(Recycle)を行います。

具体的には、リデュースやリユースは「③消費→④廃棄」の過程で廃棄物の排出量を減少させる取り組み。リサイクルは「③消費→②製品の生産」において、原料やエネルギーとして再利用することを指します。

この活動は大きな効果を発揮し、日本でも資源有効利用促進法をはじめ、3Rが法制度として導入された00年代以降、廃棄物の大幅な削減を実現しました。

しかし、残念ながら「④廃棄」を前提とする従来型の経済システムが背景にある限り、環境負荷の低減には限界があります。

リサイクルに出された衣類の一部は、このような形で回収される

そこで登場するのが、サーキュラーエコノミー(循環型経済)です。サーキュラーエコノミーとは、「①資源→②製品の生産→③消費→④リサイクル→②製品の生産…」という資源循環型の経済システムを指します。

リニアエコノミーで存在していた「廃棄」がなくなっていますね。ここが最大の特徴です。

サーキュラーエコノミーは廃棄を前提としません。そのため「②製品の生産」の段階から「④リサイクル」が可能なデザインを行います。そして「②製品の生産」方法も、「①資源」だけでなく「④リサイクル」した原料を活用する前提とするわけです。

社会全体が連携する資源循環へ

廃棄を前提としない経済システムとは、「要らなくなったら基本は捨てる、できるときだけ3R」が常識の世界から見ると画期的です。

けれど、このサーキュラーエコノミーという考え方、実はヨーロッパではすでに2015年頃に提唱され、政府主導の取り組みが進められています。私たちも目から鱗を落としている場合では、ないのです。

サーキュラーエコノミーの分野で、日本は世界に遅れをとっている

限りある資源を有効活用し、本当に「環境によいこと」をしようと思ったら、社会全体でサーキュラーエコノミーに取り組むべきです。

「そんな大層な話、どうすれば…」と不安に思う必要はありません。ひとりひとりができる範囲でサーキュラーエコノミーの取り組みに参加していけば、自然と連携されていきますから。例えば、Renameを利用してみる、みたいに。

Renameの可能性(1) 参画ハードルを下げて浸透させる

アパレル業界にもサーキュラーエコノミーを意識した取り組みを推進する企業が増え始めています。その中でも特にRenameの取り組みは2つの点で有意義です。

1つめは、サーキュラーエコノミー参画へのハードルを下げていること。

2つめは、ブランドアイデンティティーを再定義する機会の提供です。

難しく考えず参加できるイメージを持つことがポイント

ハードルを下げている理由は、商品を提供しても購入しても、サーキュラーエコノミーの取り組みに参画できる点です。

正直なところ、現在の日本で「サーキュラーエコノミーが大事」「資源循環を意識して」といわれてもピンとこないのが多数派でしょう。今はまだ、新しい考え方が浸透していくフェーズなので、仕方のないことです。

そういう時期にRenameというビジネスモデルがあることで、私たちは気軽にサーキュラーエコノミーの取り組みに触れることができます。その気軽さが「なんだ、サーキュラーエコノミーってこうすればいいのか」「私たちにもできる」と、新しい取り組みを広く浸透させる可能性を秘めているのです。

Renameの可能性(2) ブランドを再定義し方向転換の契機へ

アイデンティティー再定義の機会とは、ブランドの価値や、選択を見直すチャンスを与えてくれることを指します。

これまで多くのアパレルブランドでは、シーズンごとに独自のデザインや色、形など、新しい商品を発表することが常識でした。

しかし、Renameというブランドが提供するのは独自のデザインなどではありません。

在庫の廃棄を減らすというマインドや、サーキュラーエコノミーに取り組む機会の提供がRenameの価値。新たなものを毎シーズン生み出さなくてもブランド価値は維持できる、という感覚が広まれば、資源を無駄にしがちな業界の「常識」に影響を与えられるかもしれません。

市場規模が大きいため、常識が変わることでインパクトが期待できる

また、「サーキュラーエコノミーへの取り組みとしてRenameを利用する」という消費者が増えれば、メーカー側の付加価値として今以上に認知されるでしょう。Renameというあり方は、社会全体でサーキュラーエコノミーに取り組む未来へ、一歩前進する可能性を秘めています。

「環境によいことをしたい。でも、何をしよう?」と思ったらRenameを通じてサーキュラーエコノミーに参画してみるのも1つの選択肢です。それ自体は小さなアクションでも、積み重なれば社会全体を巻き込むムーブメントに発展するかもしれません。

サーキュラーエコノミーの視点から

Renameでは、従来では廃棄されていた在庫衣類を、再販を通じて市場に循環させています。

製品自体に手を加えないため、サーキュラーエコノミーとしては理想的な、優先度の高い循環であると言えるでしょう。

しかし、根本的な問題は「ブランド価値を毀損するから廃棄せざるを得ない」という状況であり、Renameが買い取ってくれるからメーカーがその構造を変えない、とならないよう注視する必要があるのではないでしょうか。

また、今後についてはRename自身も売り切りではなく、修理・回収・再生利用も含めたビジネスモデルを付加するなどの手段で、よりサーキュラーエコノミーとして進化できる可能性があります。