コミュニティを育てる「土に還るおむつ」と紙おむつリサイクルの最前線

育児の場面で欠かすことのできない紙おむつ。子育て家庭のごみの10%の量を占めるだけではなく、おむつがいらなくなる2歳半に達するまでに実に500kgのおむつごみが生まれています。子育てされている方の中にはその廃棄量に課題意識を持っている方も多いのではないでしょうか。

使用済み紙おむつはさまざまな素材で構成されていることに加えて排泄物を含むため、リサイクルが難しいといわれています。しかしながら、いろいろ方法で問題解決に向けたアクションを起こし始めた企業も現れ始めました。

そこで今回は、おむつを通じて環境の再生化を目指す「堆肥化できるおむつ」の開発や使用済み紙おむつのリサイクルに向けた取り組みについてご紹介しながら、使い捨ておむつをめぐる課題について考察していきたいと思います。

現在の使い捨ておむつをめぐる問題・課題とは

使用済み紙おむつは高齢化でますます増加へ

使用済み紙おむつの排出量は、実に家庭系可燃ごみ(一般廃棄物)排出量の6〜7%程度と推計されています。環境省の「使用済おむつのリサイクルに関する情報整理」によると、2030年には7.1~7.8%まで増加するという予測も。

高齢化に伴いこれからますます増加することを踏まえ、リサイクルへの取り組みなどの対策が急がれています。

紙おむつは地球温暖化にも影響を与えている

使い捨ての紙おむつは、地球環境にも悪影響。使用済みのおむつは、し尿を含むため未使用のオムツと比べて重量が4倍になり、さらに可燃ごみ処理の際、焼却炉の温度を下げてしまうことが問題となっています。ごみの焼却処理を行えば当然ながら同時にCO2も排出されることになるわけですが、2015年に一般廃棄物として紙おむつを処理する際に排出されたCO2は約21万トン。この21万トンのCO2を処理するには、およそ1,500万本の杉の木が必要となる計算です。

このことからも、使用済み紙おむつは地球温暖化にも影響を与えていると言わざるを得ない状況なのです。

使用済み紙おむつはリサイクルが難しい

紙おむつは上質パルプ、樹脂、高分子吸収材などから構成されています。原理的にはパルプはリサイクルが可能ですが、使用済み紙おむつはさまざまな素材から構成されていることに加えて排泄物も含むため、リサイクルが容易ではないのです。

環境省では2020年3月に、使用済紙おむつの再生利用等に関するガイドラインを策定。使用済み紙おむつをリサイクルする際の流れや各自治体による紙おむつリサイクルへの取り組み事例などが記載され、市区町村等が資源再生利用を検討するための1つの指標となっています。

土に還るおむつが生み出す循環型コミュニティー

「堆肥化できるオムツを製造販売し、その堆肥で果実を育てる。」

使い捨て紙おむつの問題は、もちろん日本のみならず世界のあらゆる国々でも深刻な問題として取り組みが急がれていますが、ドイツではとても興味深いプロジェクトが始まっています。

こちらでは、サーキュラーエコノミー(循環型経済)にとどまらないリジェネラティブなビジネスを展開する、ベルリン初のスタートアップ「DYCLE」の取り組みをご紹介します。

おむつも排泄物も自然に戻すというアイデア

「Diaper(おむつ)」と「Cycle(循環)」を合わせて名付けられたベルリンのベンチャー企業DYCLE(ダイクル)は、生分解性のおむつをサブスクリプションモデルで提供し、乳児の排泄物を堆肥化した土を使って木を植えるという循環を創り出しました。

DYCLEが開発したおむつはそのまま堆肥にすることが可能で、その堆肥を利用してオーガニック農家が生産した果実が地域の人々の食卓に並びます。おむつを使う赤ちゃんもまた、この循環の輪の中におり、サーキュレーションの一部を担っているという画期的なシステム。

「赤ちゃんの排泄物は土に還した時の栄養価が高く、おむつをそのまま堆肥にすることができれば質の高い堆肥を安定的に作り出すことができる」というのがDYCLEのアイデアの核となっています。紙おむつには化学物質が含まれているためリサイクルには時間や手間がかかることは前述の通りですが、DYCLEのおむつには化学物質やプラスチックが一切使われていない(吸収剤の原料には地域の工場で出た麻の副産物を利用している)ため、環境に負荷を与えることなく完全な循環型経済を生み出すことができるのです。

1人の赤ちゃんがDYCLEのオムツを使用することによって1年間で作ることができる堆肥は約1000kg。使い捨てオムツを製造するために使われていた原油を削減できるだけでなく、焼却処理する際に発生するCO2も大幅に削減することができます。

DYCLEのサーキュラーな仕組み

それでは実際にはどのようなシステムなのか見ていきましょう。

DYCLEではおむつの中敷きを作っており、その中敷きを支えるおむつカバーとセットで使用する仕組みになっています。その生分解性のおむつは使用した後、同封されている炭の粉を少量混ぜてバケツへ。この炭の粉には堆肥化する際の分解を促す微生物が含まれています。バケツが満杯になったら、地域の協力先である保育園などに持参。ここから人糞堆肥を作る資格があるコンポスト会社へ運ばれ、その堆肥を親や協力施設、有機農家や苗床を育てる会社へ販売し果物などの木を植える際に使用するというシステム。数年後、その堆肥で育った木の実からジャムなどの食品を作って販売すれば、地域のビジネスも生まれることになります。

おむつを通して地域住民のつながりが生まれる

DYCLEのおむつは環境に優しいばかりでなく、地域住民の繫がりを生み出してくれることも大きなポイントです。

DYCLEのおむつを配布・回収する教会やコミュニティーセンター、幼稚園などは、ローカル・コミュニティーの中心地となる場所。子育てをしている人たちが同じ場所に集まることで、自然に意見交換したり子供服の交換をし合ったり、困っている時に手を差し伸べ合ったりという関係が生まれます。このように、DYCLEは環境問題の解決を担うだけではなく、現代において不足しがちな地域住民の繫がりをも作ってくれるのです。

さらに、コンポスト会社、原料となる天然繊維麻の生産工場、幼稚園、郊外の農家、オーガニック食品会社などと提携することで、地域のビジネス同士の結びつきも強いものに。DYCLEのシステムから作られた堆肥を利用して果樹を育てたり、収穫した果実を加工して販売したりするようになれば、おむつからアウトプットが生まれ雇用や売上創出に繫がり、地域が好循環していく仕組みも完成します。

グローバルなネットワークへの発展への期待が高まる

DYCLEの魅力は、サーキュラーエコノミーのビジネスモデルを作ろうとしているだけでなく、循環社会を突き動かすためのエコシステムそのものを育てようとしているというところにあります。さらに、おむつを使用した赤ちゃんが自然との連携を感じながら生きるようになるというところも素晴らしいと感じます。自分が赤ちゃんだった頃に果樹を植える手伝いをしていたと知ったら、おのずと地域の食料生産や環境問題への意識が変わってきますよね。

人と企業を結び、共有する空間を生み出し、時間を超えて人々に意識の変化をもたらすDYCLEのシステムは、コミュニティをベースにすることの意味を教えてくれます。

このDYCLEのおむつシステムはまだベルリンのいくつかの地域で始まったばかりですが、循環型おむつをきっかけに、環境の配慮した取り組みが地域間で共有されグローバルなネットワークに発展していけば、サーキュラーエコノミーが目指す原則の一つ、自然環境の再生化に向けての小さな一歩を踏み出すことができるのではないでしょうか。

日本における紙おむつのリサイクルに向けた取り組み

ここからは日本の使用済み紙おむつのリサイクルに向けた取り組みについてご紹介します。

炭素化することで紙おむつリサイクルの課題を解決

花王株式会社(以下、花王)と国立大学法人京都大学(以下、京都大学)は、「使用済み紙おむつの炭素化リサイクルシステム」の確立に向け、花王サニタリープロダクツ愛媛のある愛媛県西条市の協力のもと、2021年1月から実証実験を開始。

・使用済み紙おむつは、し尿を含むと4倍程度の重量になるため、保管や運搬時に嵩張るうえ、悪臭の発生など衛生面に関する課題がある。

・紙おむつはパルプと多種のプラスチックで構成されており、リサイクルのための種類ごとの分離が難しい。

使用済み紙おむつリサイクルが抱えるこのような課題を克服するため、使用済み紙おむつを回収前に炭素化する、炭素化装置を開発。短時間で効率的に炭素化し、殺菌・消臭しながら体積を減らすことで、衛生面の課題解決に加え回収頻度を減らすことにも成功しました。さらに、炭化物に炭素が固定化されるため、使用済み紙おむつを燃やす際に発生するCO2も削減。

実験によると回収頻度は月に1~2回で済むといい、回収後は環境浄化や保育施設の園庭での植物育成促進に活用されるそう。また、活性炭などの炭素素材への変換を目指し、さらなる研究開発も進められています。

この実験で得られた知見は国内の都市に展開することはもちろん、プラスチックごみ問題が深刻な東南アジアをはじめとする海外にも展開し、より広い範囲での使用済み紙おむつの課題解決に貢献することが期待されています。

独自のオゾン処理で衛生的なリサイクルパルプへ

ユニ・チャーム株式会社は2020年10月、ユニ・チャームグループ中長期ESG(環境・社会・ガバナンス)目標「Kyo-sei Life Vision 2030 ~For a Diverse, Inclusive, and Sustainable World~ 」を発表しました。これは、2050年に「共生社会」が実現されると仮定して、2030年を目標年に、重要取り組みテーマ・指標・目標を設定したもの。「地球の健康を守る・支える」というテーマで以下の5項目が掲げられています。

①環境配慮型商品の開発

②気候変動対応

③リサイクルモデルの拡大

④商品のリサイクル推進

⑤プラスチック使用量の削減

この中でも特に注目を集めたのは、使用済みの紙おむつを新たな紙おむつに再生する新事業です。回収品を洗浄・分離し、取り出したパルプに独自のオゾン処理を施して排泄物に含まれる菌を死滅させることで、未使用のパルプと同等に衛生的で安全なパルプとしてリサイクルすることが可能に。この方法は、新たな紙おむつを未使用のパルプから作る場合に比べ、温室効果ガス排出量は87%削減できることがわかっています。

この事業では、自治体と協力して使用済み紙おむつを回収。回収したものを自社のリサイクルプラントに運び、取り出したパルプから再び製品が作られます。すでに鹿児島県志布志市と大崎町で実験プラントが稼働しており、ほぼ新品同様にまでパルプを再生することに成功。理論上は10回ほど紙おむつに再生可能だそうで、2030年までに全国10カ所以上で同様の設備を設ける計画が進められています。

使い捨ておむつをめぐる課題に意識を向けよう

使い捨て紙おむつの問題は、日本で進捗の遅れているSDGs目標12の達成に影響します。身近にある大きな課題であるからこそ、企業だけでなく国や自治体、使う側でも高い意識を持って取り組むことが重要なのではないでしょうか。

紙おむつを供給する企業が取り組んでいるリサイクルシステムの構築を早急に進めることはもちろん、DYCLEのような一歩踏み込んだリジェネラティブな要素を含む取り組みも日本で展開されるようになれば、自然の再生への一歩も踏み出すことができます。

まずは使い捨ておむつに対して問題意識を持つこと。認識を変えることで選ぶものが変わり、それを提供する企業の意識も変えることができます。これ以上問題を深刻化させないためにも、自分は関係ないという意識を捨てることから始めてみませんか。