今こそ学びたい!バイオマスで生きた江戸時代の暮らしと循環型社会

太陽のエネルギーと植物を利用して、ほとんどすべての必要物資とエネルギーを賄っていた江戸時代は、完全な循環型社会だったと言われています。

経済の発展と共に当たり前となってしまった「使い捨て」の消費により、現代は地球温暖化やゴミ問題、地球規模での資源やエネルギー不足など、さまざまな環境問題に直面してしまいました。そんな今だからこそ、ごく当たり前に行われていた江戸時代のサステナブルな暮らしから多くのことを学ぶ必要があるのではないでしょうか。

そこで本記事では、徹底的なサーキュレーションを実現していた江戸時代の衣食住についてご紹介しながら、新しい循環型社会の在り方や現代の日本が取り組むべきSDGsの在り方を考えていきたいと思います。

江戸時代は循環型社会だった

徳川家康が征夷大将軍になった1603年から始まった江戸時代は、1867年の大政奉還までの265年間鎖国状態にあり、経済や文化が独自の発展を遂げました。その間外国からは何も輸入せず、すべてを国内の資源で賄っていたのです。

日本には石油などの化石燃料はほとんどないので、太陽のエネルギーと自然由来の原材料を利用することで独自の循環型社会を作り上げることになります。

当時の日本の総人口は約3000万人ほどで、ほとんど変動がなかったと言われています。人口が安定し、完全に自給自足の循環型社会が約250年にもわたって続いた江戸時代には、新しい循環型社会のあり方を探る知恵やヒントが隠されているのではないでしょうか。

江戸時代はバイオマス社会

江戸時代の循環型社会のキーポイントになるのは、植物の徹底利用

江戸時代は、植物が資源として利用されまた植物として戻るという自然の巨大なリサイクルが生活の基本となっていました。生活に使う物資やエネルギーのほぼすべてを植物資源に依存し、さまざまな工夫を凝らして徹底的に利用。あらゆるものが植物からできているので、食べても捨てても燃やしても、微生物が分解し、再び植物として生まれ変わります。

このようなことから、江戸時代はバイオマス社会であることがわかりますが、植物は太陽の光とCO2、水で成長するもの。ということは、江戸時代は太陽エネルギーに支えられていた時代であると言うこともできるでしょう。

江戸時代の照明器具

バイオマス利用のうち直接的なエネルギーは光と熱ですが、光についていえば江戸時代の都市では行灯という照明器具が使われていました。行灯とは、油皿に灯芯を浸して火をつけ、障子紙を張った枠で覆ったもの。浮世絵にも数多く登場するので、目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

灯火用の油は、エゴマのタネを絞った荏の油や菜種油・綿実油などの植物油が多く使われていました。これらは燃やすと二酸化炭素と水になり、来年生えてくる植物の原料になり油に戻ります。つまり、行灯の火を燃やすということは、元に戻す循環の一部を人間が担っていることになり、一つのサーキュレーションを完成させることにも繫がっているのです。

江戸時代の家には長く住み継ぐための工夫が詰まっていた

江戸時代に家を建てるということは、今と比べるとかなりの大仕事であったことは容易に推察できます。大量の資源と膨大な労力が継ぎ込まれた大切な財産であるからこそ、何代にもわたって大事に住み継いでいく工夫が至る所に施されていました。

こちらでは、江戸時代の住居について詳しくみていきましょう。

長く住み続けるための知恵と匠の技術

長く住み継いでいくための工夫を凝らすためには、匠の技術が欠かせませんでした。具体的にはどのような技法があったのでしょうか。

他にも、調湿機能に優れた土壁や漆喰を用いた壁材を使ったり、間取りを自由に変えられる引き戸を採用するなど、家族の人数が変わっても住み続けられる工夫が凝らされていました。

建築資材は徹底的にリサイクルされた

匠の技術により生み出された当時の木造建造物は、簡単に分解して組み直したり修理や再利用することが可能でした。寸法が規格化されており、それぞれの部材を他所に使用することが容易だったのです。ほぼすべての建築材料はリサイクルされ、建設現場の木屑ですら持ち帰り、転用したり燃料にしたりして一切無駄にすることはなかったというから驚きです。

現代の古民家再生の可能性

江戸時代の長く住み継ぐ文化が現代の住宅技術と融合して継承されている一例が、古民家再生です。築年数100年を超える古民家の柱や梁に使用されている太い無垢材は、非常に高い強度があります。柱や梁といった、いわばフレームの部分がしっかりしているので、窓や扉の増設、間取りの変更などが可能。さらに金釘を使わない継手仕口の技法が使われているので、強度が劣化することがありません。

一方現代の日本の住宅の耐用年数はおよそ30年。現代の住宅は、構造部を接合金具で連結する工法が主流なので、時間の経過とともに錆や腐食、ボルトの緩みが起きる可能性があります。また、壁と床を強固に一体化した構造が多く、金物の交換や破損箇所の修復が難しいという難点も。

近年では、古い家の良さを見直し長く住み続けようという動きも活発になっています。古民家再生で重要なのは、住む人のニーズに合わせて快適に住むことができるよう現代の技術をうまく融合させることにあると言われています。現代の生活スタイルに合わせて間取りを変更したり断熱材を取り入れることで、古民家の弱点を補いつつ快適さを追及することが可能に。古民家再生は、持続可能な住居の選択肢としてこれからますます注目されていくのではないでしょうか。

着物は灰になってもリサイクルされる

着物は一切の無駄を出さずに仕立てられ、着物としての役目を終えても徹底的にリサイクルされ、さらに灰になっても利用されていました。

無駄の出ない仕立ての工夫

当時の着物は男用でも女用でも細長い一反の布から切り出して仕立てられていました。一反の規格は、幅9寸5分(36.1cm)、長さ3丈(11.4m)ですが、半端な裁ち落としはゼロ。体に合わせた曲線で切り出すため無駄な裁ち落とし部分が出てしまう洋服とは違い、一切無駄のない作りだったのです。

さらに着物はどんな体型でも着ることができ、背が伸びたり太ったりしても、すべてが直線縫いなので仕立て直しが簡単であるという利点があります。子供の着物は大きく仕立て、腰や肩の部分を縫い上げておくのが一般的でした。こしておくことで、成長した時に縫い上げた部分をほどくだけで長さを調節できるのです。

着なくなった後も転用して使い切る

繕い跡やすり切れた部分が目立つようになり着物として着用できなくなったものは、他の着物の補修に使ったり寝間着やおむつ、雑巾などに転用されて徹底的に使い尽くされました。さらにボロボロになった雑巾は、かまどや風呂釜の燃料に。燃えた後の灰も灰売りに売られ、肥料や陶器の上薬として利用されたといわれています。

繊維のリサイクル技術の開発

このように江戸時代の着物は役目を終えてまでも徹底的にリサイクルされていたわけですが、現代においてもリサイクルショップやフリーマーケットの浸透、途上国への寄付などといった様々な形で洋服のリサイクル・リユースが行われています。さらに現代では、使用済みポリエステル製品を分子レベルまで分解し、バージン原料と同品質の原料に再生することができるケミカルリサイクル技術が開発されるなど、一歩先を行くリサイクルを目指した取り組みを行っている企業も。最終的にペットボトルや衣料、フィルムなどのポリエステル製品全般を回収して、新たなポリエステル製品として循環させる仕組みができれば、現代のライフスタイルに合った新しいサーキュレーションを完成させることができるのではないでしょうか。

米はすべてをリサイクルして大地に戻すスーパーサーキュレーションフード

江戸時代の後期、毎年およそ500万トンの米が収穫されていました。その副産物としての藁500万トンと合わせれば計1000万トンにもなったわけですが、江戸時代ではこれをすべて無駄なく使われていたと言われています。

米は種籾と多少の備蓄分を残して食べ排泄されますが、江戸時代においては、その排泄物を腐熟させて下肥と呼ばれる堆肥をつくり、非常に貴重な肥料として利用していました。下肥が一切川に流されることがなかったため、当時の川は驚くほどきれいで、上水として利用する都市もあったほどです。

副産物まで徹底的に使われる

米は、食べる目的以外でも、藁、もみ、糠などの副産物まで余すところなく利用されていました。最終的に燃料として燃やした後の灰も肥料となって大地に返すので、まさに理想的なサーキュレーションフードだったわけです。

藁は幅広い分野で活躍する重要資源

藁は衣食住に関わる幅広い用途を持った貴重品でした。そのうち2割程度は草鞋などのワラ製品や米俵、屋根などに利用され、5割は堆肥や厩肥、3割は灰にして活用。この灰は、水に溶かせばアルカリ性になり物を洗うのに重宝されました。町には「灰買い」という商売があり、問屋に集まったものがまとめて農村に売られていたそう。

このように1000万トンの米と藁はすべて無駄なく活用され、一切ゴミの出ない本来のリサイクルの形を実現していました。

廃棄を出さない主食の開発

現在も米は日本人の主食であり、サーキュレーションフードであることには変わらないのですが、現代のライフスタイルでは江戸時代のようにすべてを使い切ることは難しいかもしれません。

そんな中、「植物の普段食べているところだけでなく、可能な限りまるごと全部使用し、素材まるごとの栄養をおいしく食べる」というコンセプトのブランドを立ち上げる企業が現れるなど、食の世界でもサーキュラーエコノミーを意識した動きが活発化しています。中でも黄えんどう豆を丸ごと使って作られた麺は、おいしさと健康が同時に手に入る新しい主食として注目を集める存在に。これからの食品業界には、このような廃棄の出ない、環境と健康にコミットした商品作りが求められているのではないでしょうか。

自然のメカニズムを取り戻して未来を変える

「綿花を育てて着物を作り、着古してさらにリサイクルされた後に燃やされた灰がまた土に戻って肥料になる」「食料とし米を育て、藁やもみや糠などもすべて使って燃やした後の灰は再び肥料として土に返る」…江戸時代の人々は、自然に敬意を表し、欲張りすぎず自然の一部として暮らしていたことがわかります。

現在の生活を昔に戻すことはできませんが、昔の知恵と現代の技術を融合した新しい循環型社会を構築し、自然と共存していく未来を真剣に考えなくてはいけない時がきているのではないでしょうか。