広がる食品ロス問題への取り組み ~素材をまるごと使うブランド「ZENB」の試みなど

「食品ロス」という言葉を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか? まだ食べられるのに廃棄される食品のことを指します。

日本では、年間約2530万トンの食品廃棄物が出ており、このうち「食品ロス」に当たるのは4分の1以上の約600万トン。(食品ロス量(平成30年度推計値)の公表:農林水産省 )これは、日本の国民1人当たり毎日お茶碗1杯分が捨てられていることになるそうで、世界で飢餓に苦しむ人への食糧援助の1.4倍にも相当します。何とももったいないことだと思いませんか?

大切な資源をもっと有効活用して環境負荷を抑えようと、食品ロス問題への取り組みは年々重要になってきました。企業側には廃棄コストを削減できる、消費者には商品をお得に買えるなどのメリットもあります。

近年注目されている取り組みについてご紹介しましょう。

 

年々重要度を増す食品ロス問題への取り組み

食品ロスの削減に向けては、2019年10月に「食品ロスの削減の推進に関する法律」が施行されました。さらに、翌2020年3月に策定された「食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針」で、食品関連事業者は消費者とのコミュニケーションを取りながら、食品ロス削減に向けた取り組みを進めることが求められています。

社会の機運が高まる中、各企業も取り組みを加速させています。その一つが、大きさや形などが流通規格に合わず廃棄されることが多い「規格外」の野菜をあえて活用する取り組みの広がりです。これは、「ロスフード食材」とも呼ばれ、高級ホテルが新しいメニューに取り入れたり、専門に扱うスーパーが登場したりしています。

東京・丸の内にある「パレスホテル東京」は、2021年9月、初めてロスフード食材を使ったケーキ「ケークサレ」を売り出しました。

ホテルとして初めてFOOD LOSS BANKとコラボレーション ロスフード食材を使用したホテルメイドの新商品「ケーク サレ」販売

アーモンドパウダーたっぷりの生地に、規格外を含む約10種類の野菜とチーズなどを混ぜて作られています。ほどよい塩気にしっとりした食感が特徴。具材の味や歯ごたえの違いも楽しめます。

高級ブランド「ジョルジオ・アルマーニ」が手掛ける、東京・銀座のレストラン「アルマーニリストランテ」は、2021年3月から10月までの期間限定で、ロスフード食材を主役にした1万円のコースメニューを提供しました。

【アルマーニ / リストランテ】フードロス食材を使用した、クリエイティビティ溢れるメニューが3月23日より登場します。

大きさが不ぞろいのトマトのカプレーゼや皮に傷がついたメロンのデザートなど。コロナ禍で出荷先が減ったキンメダイなども加えました。好評だったこともあり、今後は通常メニューで規格外の食材を活用していく予定です。

これらの店がロスフード食材を前面に打ち出したのは、「選ばれる店であるためには、環境に配慮したサステナブルな社会への貢献が不可欠」との考えからです。規格外であっても通常とあまり変わらない価格で仕入れて、生産者を支援しています。

 

また、家庭に向けた取り組みも進んでいます。東京・練馬区のスーパー「ゼンエー青果店」は「規格外の野菜の店」として知られています。店頭には、曲がったキュウリや小ぶりのジャガイモなどが並びます。

食材宅配「らでぃっしゅぼーや」は、色むらや変色、歪んだ形などを含む規格外の野菜だけを集めて「ふぞろいを楽しもう」と提案しています。

おいしく楽しく、フードロスゼロを目指す『ふぞろいRadish』-らでぃっしゅぼーや公式-

育ち過ぎたシュンギクのベビーリーフは「チャイルドリーフ」と独自の名前を付けて販売、工夫がみられます。2021年10月からは、規格に満たない鮮魚などを定期的に届けるサービスも始めました。

さらに、食品ロス削減事業を専業にするスタートアップ企業も登場しました。その名も「株式会社ロスゼロ」。

食品ロス・フードロスをゼロへ|【通販】 ロスゼロ – みんなが笑顔になれて、おいしく社会貢献!【公式オンラインショップ】 (losszero.jp)

特にコロナ禍により販路を失った未利用原料や未利用食品などのロスフード食材を、直接企業や消費者につなげるフードシェアリングサービスを行っています。百貨店との協業では特設ブースを設け、「ロスになった理由」やそれらを販売する社会的意義を詳しく紹介しています。収益の一部は子ども食堂や福祉施設などに寄付されます。

 

食分野でも盛り上がる「アップサイクル」

廃棄されるものを付加価値の高い商品に作り替える「アップサイクル」は、食の分野でも広がってきました。

食品宅配の「オイシックス」は、工場などで廃棄していたブロッコリーの茎やダイコンの皮を揚げたチップスを発売。梅酒に使われた梅もドライフルーツにして売っています。

「キング醸造」は、みりんなどの製造過程で出る酒かすを粉状にして菓子の材料などに利用しています。「ORYZAE JOY(オリゼージョイ)」というブランド名で、ショコラサンドやジンジャーラテなどがあります。

 

そうした中、愛知県半田市に本社がある1804年創業の老舗、ミツカングループの取り組みが食品業界で注目されています。

同社がサーキュラーエコノミー型の食品ブランド「ZENB(ゼンブ)」を発表したのは、2019年3月のことでした。(新主食 ZENB(ゼンブ)公式通販)ブランド名の由来は日本語の「全部」。トウモロコシだったらこれまで捨てていた芯まで使い、枝豆であればさやまで使うといった具合に、「可能な限りまるごと全部使い、余計なものを加えず、素材丸ごとの栄養をおいしく食べる」をブランドのコンセプトにしています。

では、ミツカンの取り組みをもう少し詳しくみてみましょう。

 

ミツカングループが取り組む「ZENB」の世界

「ZENB」の第一弾は、片手で頬張れる野菜に雑穀・ナッツを加えたスティックとパンなどに塗って食べるペースト。いまやラインナップは増えて、一口サイズの「ベジバイツ」のほか、豆100%の乾麺もあります。通常のパスタの糖質を30%カットした乾麺は人気のあまり一時欠品状態になったほど。2020年3~12月の「ZENB」ブランド全体の売り上げは前年同期比8.5倍に伸びています。

サーキュラーエコノミー型の製品は、単に倫理的な押し付けでは広がっていきません。消費者のニーズにきちんと応え、他の製品やサービスと比べても魅力的であることが必須条件です。食の分野であれば、健康によくておいしくなければ消費者は手に取りません。同社が製品化するにあたって注力したのも、あくまでも栄養があっておいしいことでした。

実は、トウモロコシの芯には実の部分の3倍近くの食物繊維が含まれています。枝豆のさやも豆の部分の2倍の食物繊維があり、色鮮やかなビーツには果肉の3倍以上のポリフェノールが含まれているといいます。

実際、北海道では古くからトウモロコシの芯を入れてご飯を炊く習慣があり、東北ではみそ汁の具に枝豆をさやごと入れて食べていました。先人たちは栄養があること、食べるとおいしいことを知っていたのです。

乾麺に使われた素材は黄えんどう豆。日本ではあまり知られていませんが、北欧やロシアでは伝統的に食べられてきた食材です。たんぱく質と食物繊維が豊富で、生育過程で必要な水資源も少なくて済み、地球環境にもやさしいのです。

素材に秘められた高い栄養価とおいしさを国内外の地域の食文化から探し出し、何度も実験を繰り返しながら製品化を進めていきました。

もちろん、安心安全を徹底する作業は優先されます。たくさん採れ過ぎて余っていたり、捨てられる運命にあったりする野菜であっても、同社の調達チームは必ず産地に出向き、畑の環境や栽培管理状況などを確認。また、芯やさやを細かくするには、調味料の原材料を細かく粉砕するために開発していた自社の技術が生かされました。

 

「未来ビジョン宣言」の3つの約束

2018年、ミツカングループは「未来ビジョン宣言」を発表しました。10年後、どんな会社でありたいか、人々とどういう価値観を共有したいかを、社内外に示したのです。宣言には、「人と社会と地球の健康」「新しいおいしさで変えていく社会」「未来を支えるガバナンス」の3つの約束が盛り込まれました。(ミツカン未来ビジョン宣言 | MIZKAN GLOBAL (mizkanholdings.com)

ミツカングループは酢の国内メーカーという印象が強いですが、米国でパスタ事業、英国ではモルトビネガー事業を買収するなど、積極的に海外ビジネスを展開してきました。グループの売り上げはすでに海外が50%を超えています。したがって、ビジネスの上でグローバルスタンダードが求められてきたというのが、同宣言を行った背景にあります。

宣言を受ける形で、2019年3月にサステナビリティ推進室が発足。既存のビジネスも含めてサステナビリティの観点から見直しが進められ、「ZENB」ブランドはそうした中で誕生しました。

会社の歴史を振り返れば、最初に製品化したかす酢は日本酒を造る過程で出る酒かすを加工したものでした。創業の原点を見つめ直し歴史からの気づきを整理して、同社らしいサステナビリティの推進に注力しようという決意は、3つ目の宣言「未来を支えるガバナンス」の柱になっています。

対外的なアクションも忘れていません。世界のサーキュラーエコノミーを推進する「エレン・マッカーサー財団」が、プラスチック、テキスタイルに次いで3番目のイニシアチブとして立ち上げた「フード・イニシアチブ」(Food and a circular economy | Ellen MacArthur Foundation)に、日本企業として初めて参加しました。世界の動きに歩調を合わせることで、そこで得られた知見を生かし、SDGsの目標12「つくる責任・つかう責任」に本気で取り組もうとする企業の姿勢を国内外にアピールしたのです。

 

ユニークなプロモーションで社会課題の解決を事業化

「ZENB」のプロモーションはユニークです。スーパーなど既存の販売ルートは使わず、公式ECサイトで販売しています。ブランドの考え方や価値を消費者に直接伝えたいからだといいます。

購入につなげるために様々な仕掛けが設けられています。展覧会「野菜とデザイン」の開催もその一つ。

「ZENB(ゼンブ)」の世界が体験できる 「野菜とデザイン」展開催 ― 9月12日(木)~9月23日(月)まで、東京ミッドタウンにて ―

デザインの切り口で野菜の機能美や栄養、おいしさ、普段「食べている部分」と「捨てている部分」などを紹介しながら、「ZENB」の世界観を紹介しました。商品の試食・販売のスペースも用意。野菜まるごとの味わいや食感を想像できず、本当においしいのか不安に思う人たちにも訴えました。2019年に東京・ミッドタウンで開かれた同展覧会は12日間で約1万人を動員。アートだけでなく、環境問題に関心のある人たちが集まりました。

また、多様な飲食店とのコラボレーションにも積極的で、「ZENB」を使ったオリジナルメニューが提供されています。商品コンセプトに共感したシェフらのSNSや口コミなどで広まり、一般消費者の購入を促すきっかけにもなっています。

コラボ先は、飲食店だけではありません。京都市と連携協定を結び、京野菜を使った商品開発などのプロジェクトを進めています。野菜の皮や芯まで活用した「もったい鍋」(2年目突入!京都市とミツカンの「もったい鍋™」|株式会社Mizkan Holdingsのプレスリリース (prtimes.jp))や「もったい菜漬け」を提案、「ZENB」の世界観を伝えてサステナビリティを意識した食生活のファンを増やしています。

もはや時代は、社会貢献や社会課題について企業がしっかりした姿勢を持っていないと、ビジネスの土壌に乗れなくなっています。まず「自分たちなら何ができるか」からスタートし、課題に対してのアプローチを少しずつ詰めていくことになるのでしょう。創業時のルーツに戻って歴史からの気づきを生かし、その会社らしいアプローチを発見したミツカングループのあり方は、今後社会課題に取り組む多くの企業にとって参考になりそうです。

 

まとめ

かつて小売りなどの流通業やメーカーは、大量生産、大量消費、大量廃棄のビジネスモデルでしたが、時代とともに価値観は変わり、サステナビリティに対する消費者の目は厳しくなっています。

これまで捨てていた部分を食品として利用して廃棄物を減らす、また、たくさん採れ過ぎて余っていたり捨てられる運命にあったりする野菜を原材料として積極的に使う……。食品ロスの問題にきちんと向き合い、社会課題を解決しようとする企業姿勢を明確にすることは、時代の要請でもあります。

消費者の間でも、規格外のロスフード食材であっても品質に問題はないとの理解が深まり、それらの消費が社会貢献につながるとの認識に変わってきました。今後も様々なサーキュラーエコノミー型の食品が生まれていくに違いありません。

 

参考文献 「サーキュラー・エコノミー」(中石和良著、ポプラ新書、2020年)